土研ニュース

平成23年台風12号によって紀伊半島で発生した天然ダム


写真-1 台風12号で赤谷地区にできた
河道閉塞(2011年9月6日撮影)



表-1 土砂災害防止法に基づく
緊急調査の対象となった5箇所の河道閉塞



図-1 土研式投下型ブイの構造(上)と設置の様子(下)



図-2 河道閉塞の越流侵食を原因とし
土石流等による被害が想定される範囲
(近畿地方整備局11月2日記者発表資料より引用。)

       

はじめに  
 平成23年9月2日〜4日に上陸した台風12号により紀伊半島の山地では1,000mm以上の総降水量が観測されました。多数の山腹の崩壊、土石流、深層崩壊や河道閉塞(法律での呼称;報道では“土砂ダム”;学術的には“天然ダム”)が発生し、39名が亡くなる大災害となりました。さらに潜在的な災害として、河道閉塞の上流にできた湛水池から水が越流すると河道閉塞を形成している土砂が侵食され、下流への大規模な土石流(土石等が水と一体となって流下する自然現象)の発生が懸念されました。発生した場合には、多大な被害が生じる可能性があります。そこで、国土交通省近畿地方整備局は、台風通過直後から、紀伊半島全域をヘリコプタ―や人工衛星で調べました。その結果、道路が通っていない山深い地域で、大規模な河道閉塞が5箇所(代表例:写真-1)で形成されていることが判明し、9月6日から本格的な調査を開始しました(表-1)。このWebマガジンでは土木研究所が近畿地方整備局と協力して実施した、1)河道閉塞の湛水池から水が越流する時期を監視するための機器の設置、および、2)越流した場合に土石流が氾濫する範囲の推定について書いています。
河道閉塞の湛水池から水が越流する時期を監視するための機器の設置
 越流するまでの時間を推定するためには、河道閉塞の上流の湛水池の水位の時系列変化の情報が欠かせません。表-1の河道閉塞は山の奥深くで発生したため、いずれも、陸路からのアクセスが困難で、データ伝送設備もない状況でした。そこで、このような状況下で河道閉塞の湛水池の水位を計測するために開発した土研式投下型水位観測ブイ(図-1)が設置されました。台風通過4日後の9月8日に赤谷地区、9日に長殿・栗平・熊野地区に設置しました。水位の情報は、近畿地方整備局から1時間毎にホームページで公表されました(http://www.kkr.mlit.go.jpの記者発表資料、2011年9月〜11月を参照)。
河道閉塞上流の湛水池の水が越流後に発生する土石流によって被害がおそれのある範囲の推定
 河道閉塞は地震や豪雨で発生することは明らかですが、事前にどこにどれくらいの大きさで形成するか予測するのは容易なことではありません。そのため、越流した後に発生する土石流がどの程度の範囲にまで広がるかは、実際にできた河道閉塞を調査して初めて推定できます。この範囲は住民の方に避難してもらうために活用できます。土木研究所は、その範囲を推定するために必要となる調査方法を整理し、土石流が流れる範囲を推定するプログラムを開発しました。近畿地方整備局は、土木研究所と協力して、土石流によって被害が生じる可能性がある範囲を推定しました。時間が経過するに従って調査は進みますので、調査がある段階に達したら改めて範囲を推定し直しました。箇所毎に発表時期は異なりますが、赤谷地区を例に示すと、最初の発表は9月8日で、その後1回目の更新は9月12日、2回目は11月2日(図-2)にそれぞれ公表されています。
おわりに
 この記事で書いた調査手法や推定方法は、平成17年新潟県中越地震と平成20年岩手・宮城内陸地震で発生した河道閉塞の調査などの経験や知見を基に開発されています。しかし、河道閉塞はまれにしか生じないため、科学的に正確な記録が少なく十分に明らかになっていない事がまだたくさんあります。私たちは、今回の方法でうまくいった点やそうでない点の検討や台風12号で発生した天然ダムの情報を収集・整理をしています。今回の経験を今後の被害の軽減に役立てられればよいと考えています。
 なお、本記事の国土交通省や土木研究所の天然ダムへの対応は、2011年5月に施行された「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律の一部を改正する法律」(通称「土砂災害防止法」)で定められた河道閉塞への対応方法を、日本で初めて実施した例になります。


(問い合わせ先:火山・土石流チーム)

ADB Water Learning WeekにてICHARMが分科会を開催

竹内 ICHARMセンター長による開会挨拶



参加者 (2011年11月9日)



特設ブース

 ADB (Asian Development Bank: アジア開発銀行)が主催となり、2011年11月7日から11月11日までの5日間、ADB Water Learning Week (ADB水学習週間)がADB本部のあるフィリピン国マニラ市にて開催されました。アジア各国で水問題に取り組む研究者・有識者等(20カ国、110人)が集まり、情報を交換しました。
 そのうち、ICHARMは11月9日全日の主催者となり、ICHARMとADBがPartnership agreement(連携協定)を結び取り組んでいるADB TA7276-REG “Supporting Investment in Water-Related Disaster management”(地域技術協力7276:水災害管理への投資の支援)の成果の報告を中心に以下の話題について説明・議論しました。
 ・日本の津波災害概要を含んだ近年の水災害の状況
 ・インドネシア、バングラデシュ、メコン川下流域を対象としてICHARMが実施しているプロジェクトの革新的な部分の説明
 ・今後の水災害による被害の軽減のためのあり方についてのパネルディスカッション
 また、ADB本部の別会場に設置した特別展示ブースでは、タイの洪水予測シミュレーションと3.11津波について動画にて情報発信し、ADBの一般職員の方からも、多くの関心を持っていただきました。
 本件にて、ADB TA7276における最新研究成果を中心として、参加各国にICHARMの活動内容をアピールすることができ、また、参加者から多くの高い評価を受け取ることができたと考えています。


(お問い合わせ先:ICHARM)

「雪崩・地すべり防止技術セミナー」が開催されました


写真-1 セミナーの様子



表-1プログラム



写真-2現場視察の様子

 2011年10月28日に「雪崩・地すべり防止技術セミナー」が、新潟県妙高市で開催されました。このセミナーは、頻発する雪崩・地すべり災害に備え、各災害対策の現状と課題、最新の調査研究成果等について情報提供を行い、防災対策に関する担当者の理解を深めることを目的としています。主催は新潟県上中越地方の市からなる「雪崩・地すべり研究推進協議会」であり、共催は雪崩・地すべり研究センターと新潟大学災害復興科学センター、後援は国土交通省北陸地方整備局湯沢砂防事務所と新潟県です。
2006年に新潟県湯沢町で第1回が開催されて以来、今回で6回目になります。本セミナーでは、午前に5名の講師による講演(写真-1)と午後に現場視察がそれぞれ行われました。参加者は市、県及び建設コンサルタントの技術者などであり、午前のセミナーには58名、午後の現場視察には27名の参加者がありました。
 表-1には、プログラムを示しました。講演では、国土技術政策総合研究所後藤危機管理技術研究センター長に「河道閉塞(天然ダム)形成時の初動対応について」と題して、本年5月に改正土砂災害防止法が施行されたことに関連して、天然ダムの形成誘因と危険性、天然ダム対策(初期対応、応急対応)、台風12号による紀伊半島での対応などについて講演をいただきました。また、新潟大学の丸井教授には、「パキスタン北部山岳地域の氷河末端部で多発する土石流について」と題して、土石流発生過程と現地で可能な対応策について講演をいただきました。この他、古谷特任准教授には、「クロアチア共和国の土砂災害軽減に関する国際共同研究」について紹介していただきました。一方、当センターからは、池田専門研究員が新潟県と長野県を中心に近年発生した雪崩災害事例と当センターの取り組みについて紹介しました。また、丸山総括主任研究員が重点プロジェクト研究として実施してきた既存地すべり地形の地震による地すべり発生危険度評価手法について紹介しました。参加者からは、「天然ダム形成時の初動体制の重要性や具体的な対応方法などが理解できた。」などの意見が寄せられました。
また、現場視察(写真-2)では、妙高市内で平成23年4月20日に発生した融雪地すべりである花立地すべりの現場を視察し、新潟県妙高砂防事務所の担当者から復旧状況などの説明を受けました。
今後も、本セミナーを各方面の方々との意見交換の場及び研究成果普及活動の一環として開催して行く予定です。
最後に、平成24年2月1日に発生した秋田県仙北市玉川温泉の雪崩災害(3名死亡)について紹介します。当センターでは2月3〜4日に池田専門研究員と中村交流研究員が現地に出掛け、雪崩発生地点及び流下経路の調査と雪崩発生地点における積雪断面観測を実施しました。この調査速報は、当センターのホームページに掲載されています。


(問い合わせ先:雪崩・地すべり研究センター)

TXテクノロジーショーケースinつくば2012に参加しました


ポスター発表



ポスター展示(東日本大震災)



ポスター展示(台風12号)

 1月13日に、つくば国際会議場で開催されたTXテクノロジーショーケースinつくば2012に研究企画課、火山・土石流チームが参加しました。
 テクノロジーショーケースはつくば研究学園都市の研究機関がそれぞれの研究を展示、発表するイベントで、つくばサイエンスアカデミーが主催し、今回で11回目となります。
 土研は例年参加していましたが、今回は東日本大震災及び昨年の台風12号の災害について、どのように対応をしたのか、また土研の研究がどのように活かされたのか、それを伝えるべく参加しました。
 イベントではまず、ほぼ満席となっていた中ホールで全部で109のポスター発表が行われました。所要時間が約1分という難しい発表でしたが、台風12号の天然ダムに対しては、その水位変動を測るべく使用された土研式水位観測ブイについての紹介、そしてブイによって、被害想定範囲の公表など早急な対応ができたことを発表しました。
 また、東日本大震災においては、発生直後から被災地へ専門家を派遣し、災害調査や、復旧への技術支援を行ったこと及びその各種対応について発表しました。
 その後、別の場所でポスター展示が行われました。発表を行った研究者たちが直接内容を説明するコアタイムには多くの来場者がありました。
 土研のそれぞれのブースにも数多くの方々が足を止められ、災害対応についての関心の高さがうかがえました。特に土研式水位観測ブイの現物には多くの方が興味を持たれている様子でした。
 多くの研究機関が集まるつくばですが、各機関それぞれ一所懸命に努力されいてることがよく分かるイベントだと感じました。
 土研も国民の生命・生活の安全を守り、発展させるためによりいっそう努力していきます。そのための研究を多くの方々に知ってもらうため、このようなイベントには今後とも参加していきたいと思います。


(問い合わせ先:研究企画課)

インドネシアソロ河におけるWSの開催報告


地域技術協力プロジェクトの
活動内容報告



インドネシア国公共事業省ソロ川事務所長へ
洪水予警報システムの引き渡し



インドネシア国の参加者からの質問

 2010年1月から、アジア開発銀行(ADB)の技術協力プロジェクトの一環として、プロジェクトを進めてきています。このプロジェクトに、インドネシア国において、総合洪水解析システム:IFAS(Integrated Flood Analysis System) をベースとした洪水予警報システムを導入するプロジェクトを展開しています。2011年11 月23 日〜11 月25 日、インドネシア国ソロにおいて、IFASのトレーニングワークショップを開催しました。このワークショップで、IFAS洪水予警報システム3 台をインドネシア国公共事業省ソロ川事務所に引き渡しました。
 またICHARMの研究者が、このプロジェクトの活動内容を報告するとともに、IFAS洪水予警報システムの活用方法について3日間にわたって講義とトレーニングを行いました。参加者は適切な洪水予警報と避難を実現するため、密な観測と繰り返し解析を行って精度の高い解析結果を得ることが重要であることや、パラメータの最適な値を得ることが重要であることを学びました。参加者の中には、IFAS のパラメータの調整を行い、精度の高い解析結果を得ることができた参加者もいました。今後、IFASの活用によって、彼らの国で適切に洪水予警報を行い、洪水被害を軽減することが期待されています。

主な参加者:
インドネシア国公共事業省ソロ川事務所、バングラデシュ水開発委員会、バングラデシュ災害管理局、メコン川流域委員会、インドネシア国気候気象地質局、インドネシア国水資源公社



(問い合わせ先:ICHARM)

衛星情報を活用したタイ洪水の浸水予測

RRIモデルによる洪水予測結果の例
(10月21日時点の予測)



工業団地の洪水状況(11月11日)



バンコク北部の洪水状況(11月11日)

 2011年夏から秋にかけてタイのチャオプラヤ川は未曽有の洪水となり、人々の生活・経済・農業等に大きな被害をもたらしました。ICHARMでは、洪水被害がピークを迎える10月中旬から、衛星情報を活用した洪水シミュレーションを実施しました。このシミュレーションに用いた降雨流出氾濫モデル(RRI Model)は、流域内の地表面・地中の水の流れや川の中の流れを追跡します。また氾濫原と河川の水のやりとりを計算することによって、堤防のない区間での氾濫や氾濫水が河道に戻る様子を計算します。このモデルに衛星から推定された降雨量を入力し、チャオプラヤ川全域の河川流量と洪水氾濫域を一体的に推定しました。さらに気象庁が公開している予測雨量を同モデルに入力し、浸水域がどのように広がり、いつ頃まで継続するかを予測しました。その結果、計算条件によって結果は若干異なるものの「アユタヤ周辺では11月末まで浸水が長期化する可能性がある」ということが推定されました。
 ICHARMではその後も順次計算を更新しながら、結果をホームページ上で公開しました。計算結果の一部はNHKをはじめ各種報道機関で取り上げられ、洪水の長期化について注意喚起されました。また11月には現地調査を行って洪水現象の把握に努めるとともに、シミュレーション結果の妥当性・問題点を検証しました。その結果、上述の11月末頃まで浸水が長期化するという推定は概ね間違っていなかったと考えています。一方で、洪水規模が小さくなるにつれポンプ排水や道路・堤防等の影響が相対的に大きくなり、長期にわたる予測の難しさも浮き彫りになりました。現在、より詳細な現地データを用いた再現シミュレーションを実施し、今後の洪水対策について検討しています。
 今回のタイ洪水を受けて、JICAは「チャオプラヤ川流域洪水対策プロジェクト」を立ち上げタイ国政府を支援することを決めました。ICHARMも同プロジェクトの国内検討委員会として氾濫解析・治水対策効果の評価を担当し、洪水被害の軽減に向けて調査研究を進めていく予定です。

URL:http://www.icharm.pwri.go.jp/news/news_j/111024_thai_flood_j.html



(問い合わせ先:ICHARM))