研究成果の紹介

橋の調査技術の開発
−鋼橋に発生するき裂の超音波調査技術の開発−


注) 図−1と写真−1はそれぞれの例を示したものです。
構造形式は対応していません。



図−2
鋼床版に発生する金属疲労き裂の例


図−3
開発した超音波探傷技術のイメージ


写真−2
開発した超音波自動探傷装置の外観写真


写真−3 実際の橋で使用した例

 橋は、建設材料により区分すると、鋼鉄でできている橋と、コンクリートでできている橋に大別されます。鋼鉄もコンクリートも非常に強くて頑丈ですが、長期間使用していると、橋も徐々に傷んできます。このうち、鋼鉄製の橋(鋼橋「こうきょう」と呼ばれています。)には、特徴的な傷み(損傷)が発生します。それは錆と金属疲労です。錆を防ぐためには塗装が有効です。その塗装が傷んできたら、再び、塗装すれば錆を予防することができます。もう一つの損傷である金属疲労について説明します。例えば、1回で壊れるような大きな力ではなく、それよりもずっと小さな力であっても、非常に多くの回数を継続的に、あるいは繰り返し受けると、鋼橋でもやがてき裂が生じて壊れてしまいます。この現象は金属疲労(あるいは疲労)と呼ばれています。金属疲労のうち、近年、鋼橋の床構造(鋼床版「こうしょうばん」と呼ばれています。)に発生する疲労き裂が見つかっています。図−1に鋼床版の断面図の例を示します。図−1に示した鋼床版の上に舗装があり、その舗装の上を自動車が通行することになります。写真−1は、鋼床版に発生したき裂が大きくなって舗装に変状が生じた例です。この舗装の変状の原因となるき裂は、目で見て回る点検では直接発見することができない位置に発生します(図−2参照)。気付かないうちにこのき裂が徐々に大きくなると、写真−1のような舗装の変状が生じる可能性があります。このため、このき裂を調査できる技術の開発が求められています。そこで、超音波を利用した信頼性の高い調査方法を開発しました。この開発は、菱電湘南エレクトロニクス(株)および三菱電機(株)との共同研究によって実施しました。

開発技術の概要
(1)超音波探傷とは?
 超音波は音波の一種で、音の周波数(1秒間の振動数のことでヘルツ「Hz」で表します。)が高すぎて人間の耳には聞こえない20kHz以上の周波数の音波のことを指します。探傷(たんしょう)とは、物体内部の傷(きず)を探すことです。傷とは、構造物ではき裂や欠陥のことを指します。従って、超音波探傷とは、構造物内部のき裂や欠陥を超音波で探すことです。自然界ではコウモリやイルカがこれと同じ原理で超音波を利用して前方の障害物を発見しています。人の場合には健康診断や妊婦検診のときに受診する腹部エコー等が同じ原理で超音波を利用してお腹の中の臓器や胎児の様子を探ります。超音波という高い音が用いられる理由には、音がほとんど拡がらずにまっすぐに進む性質があること、波長(波の山から次の山、または谷から次の谷までの長さ)が短く位置の推定精度が高いことなどが挙げられます。
 超音波探傷には、超音波の種類、超音波を送受信するセンサ(探触子)の種類により、様々な種類があります。調査目的と検出性能に留意し、適した種類の超音波探傷を選定して適用することが必要です。開発した超音波探傷技術のイメージを図−3に示し、開発した超音波自動探傷装置の外観写真を写真−2に示します。
(2)開発した技術のポイント
1)超音波探傷に及ぼす塗装の影響を除去する技術
 鋼鉄製の構造物の表面には錆を防ぐための塗装がありますが、鋼鉄の外側から鋼鉄内部に超音波を入れるときに、超音波は塗装を通過するため塗装の厚さや種類の影響を受けます。塗装の影響を受けると超音波の強さや超音波の周波数が変化してしまい超音波探傷の正しい結果を得ることができません。このため超音波探傷を行う場合には通常は塗装を除去します。しかし、塗装を除去し、再び塗装するには時間と費用がかかってしまいます。そこで、超音波探傷に及ぼす塗装の影響を調べ、その影響を除去する方法(調整する方法)を開発しました。その結果、塗装を除去しなくても、塗装のうえからそのまま超音波探傷ができるようになりました。
2)き裂深さと反射波の大きさの関係を明確化
 き裂深さ推定はばらつきが大きくとても難しいです。そこで、き裂に当たって反射して戻って来る超音波(「反射波」と呼ばれます。)の大きさとき裂の大きさの関係を実験により明らかにしました。この実験結果から、調査することができるき裂の大きさを把握し、調査マニュアルを作成しました
(URL http://www.pwri.go.jp/caesar/manual/pdf/pwmate_4138.pdf)。
 現在、現場の鋼橋に発生しているき裂の調査に、この技術を試行しています。実際の橋の調査に用いることにより、この技術の適用性・実用性を確認しています(写真−3参照)。今後は、より多くの橋の調査に用いられるように開発技術の普及に努めていきます。


(お問い合わせ先:CAESAR)

新しい道路吹雪対策マニュアルの作成


▲防雪林の整備状況



▲吹雪対策施設選定表
 (クリックで拡大)



▲防雪林の保育期初期の生育状態と評価
(クリックで拡大)


道路吹雪対策マニュアルとは?
積雪寒冷地において、冬期の道路交通の安全確保は極めて重要です。中でも、視程障害緩和や吹きだまり防止を目的とした吹雪対策は依然として大きな課題の一つです。
「道路吹雪対策マニュアル」(平成2年初版、平成15年改訂版発刊)は、防雪林や防雪柵などの吹雪対策施設の計画、設計、施工、維持管理に必要な技術基準等を示し、基本的な考え方を解説したものです。
北海道内の一般国道の吹雪対策は、本マニュアルによって整備が行われてきています。

新しい知見を盛り込んで、平成23年3月に改訂
平成15年改訂のマニュアルは寒地土木研究所ホームページに掲載し、そのダウンロード数は3万件を超えました。また、北海道のみならず本州でも参考に用いられてきました。
しかし、前回の改訂以降、吹雪対策の技術の発展や新たな知見が明らかになったほか、関連する他の要領が改訂され、利用者から改善要望も寄せられていました。
そこで、寒地土木研究所では新しい知見を盛り込んだ改訂版を作成し平成23年3月に発刊しました。
改訂に当たっては、設計・施工・管理の実務担当者へのアンケート調査や、当研究所に寄せられた技術相談の中から改訂項目を抽出しました。また、「吹雪時を考慮した視線誘導施設マニュアル(案)」を統合し、1冊で吹雪対策全般を網羅できる構成としました。その上で、吹雪対策に造詣の深い有識者で構成する検討会を設け、技術的内容の精査と充実を図りました。

主な改訂点
・ 吹雪対策施設選定表を掲載
旧マニュアルに記載のあった対策施設を1種類選定するフローに替わり、対策施設を幅広く選択できる「吹雪対策施設選定表」を掲載しました。
・ 簡易な植栽木の生育判定について記載
 旧マニュアルに記載の無かった植裁木の生育状態の評価方法や生育不良要因を推定する方法を掲載しました。
・ 管理用道路の設置について記載
防雪林の育成管理作業の円滑化のため、林内に「管理用道路」を設置することを標準とし、植裁標準図を変更しました。

WEB上で公開しています
新しいマニュアルは、道路技術者のみなさまに広く利用していただけるよう、寒地土木研究所ホームページで公開しています。
※ ダウンロードはこちら(無料)
http://www2.ceri.go.jp/fubuki_manual/


(問い合わせ先:寒地土木研究所 雪氷チーム)

微小電位観測による斜面監視技術に関する研究


       

 日本の国土は、その地形、地質条件から地すべりや岩盤崩壊などの地盤災害が毎年多数発生しており、道路や鉄道などの社会インフラに打撃を与えるとともに、時には人命をも奪っています。このような災害の発生に先立ってその前兆を予見する技術が求められていますが、いまだ確立された方法がないのが現状であり、斜面の崩壊予測技術の開発に対する期待は大きくなっています。
 地質の研究者の間では、岩石や地盤の破壊の前に微小な電位が発生することが古くから知られています。地盤には常に微弱な電流が流れており、ある離れた2点間では電位差が発生しています。一般に、この電位を地電位あるいは自然電位と呼んでいます。微小電位観測は、この地盤の自然電位を観測することによって崩壊発生の前兆を検出しようとする手法です。この技術は、ギリシアの地震予知手法としていくつかの成功事例が報告されているVAN 法を応用したものです。
 微小電位発生のメカニズムとしては、様々なモデルが考えられていますが、本研究で行った実験結果から、岩石中の水が電荷移動の担い手と考える「流動電位モデル」で説明できると考えられます。
 電磁気学的な手法である微小電位観測は、直流(DC)の電位差を観測するため、距離減衰(距離による電流の減少)が小さく、広い範囲の観測あるいは地盤変動の初期段階から最終段階まで計測でき、斜面崩壊の新しい予測技術として期待できます。
観測の方法は、不安定と想定される斜面の地面に深さ1〜2mの孔をあけて銅製の電極(直径2cm、長さ50cm)を30〜50mおきに設置し、電極間の電位差を観測します。電位の観測データはデータロガーやパソコン等を利用して回収します。また、インターネット回線を利用して自動的にデータを転送・解析することも可能です。
 本研究は株式会社フジタとの共同研究で実施したものです。これまでの共同研究成果である「斜面監視に用いる微小電位観測マニュアル(案)」を寒地土木研究所ホームページ上で公開しています。


(問い合わせ先:寒地土木研究所 防災地質チーム)