研究の紹介

交通死亡事故を削減する緩衝型ワイヤーロープ式防護柵の開発


ワイヤーロープ式防護柵(外国の例)



寒地土木研究所で研究開発した
ワイヤーロープ式防護柵




衝突試験(乗用車・大型車)の状況


 郊外部の道路は、片側1車線の2車線道路が一般的で、中央分離施設がない構造の上、走行速度が比較的高いため、正面衝突などの死亡事故が発生しやすい状況にあります。このような事故をできるだけ少なくするため、寒地土木研究所では、新しい中央分離施設として、緩衝型のワイヤーロープ式防護柵の研究開発を行っています。

 ワイヤーロープ式防護柵は、従来の防護柵と異なり、細く柔らかい支柱と数本のケーブルで構成されています。万一、車両が防護柵に衝突した時は、支柱が倒れ、ケーブルがたわみながら車両のはみ出しを防ぎます。従来の防護柵よりも、車両に対する衝撃を吸収できることから、死亡事故などの重大事故を大幅に減らすことが期待されます。

 建設コストや維持管理でも、ワイヤーロープ式防護柵は幾つかの長所があります。例えば、従来の分離施設よりも狭い幅で設置できるため、用地幅が小さくて済み、コストが縮減されます。また、ケーブルや支柱は、人力でも脱着できる構造なので、故障車の発生や事故等の緊急時には、部分的に防護柵を開放させて反対車線を通行させる交通処理も可能です。

 ワイヤーロープ式防護柵にはこのような特長があり、導入済みの外国でも死亡事故の抑制効果が報告されていますが、日本の道路に実際に導入するには、我が国の基準を満たす必要があります。最も重要な基準は、反対車線へのはみ出し量が一定範囲以内に収まることです。この防護柵はケーブルがたわんで衝撃を吸収する特長がありますが、たわみ過ぎてもいけないために相反する条件を満たす必要があります。そこで、寒地土木研究所は、関連メーカーの団体である鋼製防護柵協会と共同研究を行うこととし、シミュレーションにより構造を検討した上で、実際の乗用車・大型車による衝突試験を行い、所定の基準を満たす基本構造を決定することができました。

 現在は、冬期間の維持管理上の課題などを引き続き検討していますが、近い将来、郊外部の道路(片側1車線の高速道路など)において、この防護柵が安全性とコスト縮減を両立した中央分離施設として積極的に活用されることが期待されます。




(問い合わせ先:寒地土木研究所 寒地交通チーム)

オホーツク海の流氷と波高の近年の変化


2011年2月4日の流氷分布図
(海氷情報センターwebより引用)



流氷面積および波高の長期的変化



近年の流氷出現確率及び波高の変化


 オホーツク海の流氷は、豊かな漁場の形成や観光資源等、地域経済に多大なる恩恵を与えています。一方、沿岸防災の面からみても、流氷は海岸部に打ち寄せる波の高さを低減させる効果があります。一つめの図は2011年2月4日の流氷分布ですが、オホーツク海沿岸の広い範囲に流氷が接岸しているのが分かります。このとき、北海道の日本海側や太平洋側などでは、冬型の気圧配置により高波浪が観測されましたが、オホーツク海側では他の海域に比べて静穏でした。このように、防災面でも有用な流氷ですが、オホーツク海の流氷は近年減少傾向にあります。

 二つめの図は、1979年から2008年の30年間のオホーツク海の流氷面積の推移を示しています。流氷面積の年変動は大きいですが、長期的なトレンドとしてはゆるやかな減少傾向にあります。また、これとは反対に冬場の波高は年々大きくなっており、流氷が少ない年には冬場の波高が大きくなる傾向がみられます。

 三つめの図は、オホーツク海から北海道周辺での、近年の流氷出現確率や波高の変化を示しています。近年、オホーツク海では流氷の出現確率が低下しており、10%以上減少している区域もみられます。また、波高については、北海道周辺以外にもオホーツク海や千島列島周辺などの様々な海域で増加しています。

 このように、流氷は減少しつつありますが、今後の地球温暖化により風速増大や海面水位の上昇等の影響も加われば、防波堤や海岸護岸などの沿岸施設の安全性が大きく低下する事態が危惧されます。

 以上のような背景から、当チームでは将来のオホーツク海の波がどの程度変化するのかを明らかにするため、2011年4月から研究をスタートしました。今後、将来の波高を数値計算により算定していきますが、その際、流氷が波の発達や減衰に及ぼす計算手法の検討や、将来の高波浪に対する沿岸施設の安全性の変化を確認していく予定です。




(問い合わせ先:寒地土木研究所 寒冷沿岸域チーム)

積もった雪の身体検査
−積雪断面観測について−


写真1 斜面上で雪を掘削して、整形している様子です。


写真2 密度測定のためサンプラーで
一定の体積量の雪を採取し、
はかりで重量を測定します。


写真3 ルーペで観察した雪の結晶
(格子の一辺は3mm)



図1 観測結果。硬度(着色部分、
左に行くほど硬い)が深さによって
変化している様子がわかります。

 人間の体調管理の最も基本的な方法は定期的な健康診断ですが、積雪の状態を把握するために行う同様な診断が積雪断面観測と呼ばれる調査です。

 雪は降り積もった瞬間から気温や日射などにより性質が変化していくため、雪の性質を正しく理解するためには定期的な観測が欠かせません。雪崩・地すべり研究センターでは、雪氷チーム(札幌)や森林総合研究所十日町試験地(新潟県十日町市)、富山高等専門学校の研究者と共同で斜面、平地のそれぞれで10日〜20日毎に積雪断面観測を行っています。


断面観測の手順

@場所決め

 吹きだまりなど局所的に積雪が変化している場所を避けるとともに、次回以降も少しずつ場所をずらして観察できるよう、ある程度広い場所を選びます。また、斜面で行う場合は雪崩の危険性に注意するとともに、万一の場合に備えて避難経路も事前に考える必要があります。

A掘削

 ひたすら掘ります(写真1)。

 センター構内の最深積雪は約3m、観察のために人が入るスペースを確保しようとすれば縦2m×横2m×深さ3mの観察用の穴(観察ピット)が必要となります。積雪の密度を400kg/m3とすれば合計約5tの雪を人力で掘ることになります。

B観察

 観察項目は以下のような内容です。目視、触感、計測機器を組み合わせて行います(写真2、3)。


観測項目 手段
層構造  目視
雪質  ルーペ、目視
雪温  サーミスタ温度計
粒度  ルーペ、目視
密度  100cc角型密度サンプラー、全層サンプラー
含水率  誘電式含水率計
硬度  プッシュプルゲージ、ハンドテスト

C埋め戻し

 折角掘った観察ピットですが、観察が終了すれば埋め戻す必要があります。掘削した壁面が外気に触れたままにしておくと雪質が変化してしまい、次回の観察に影響が出る可能性があることと、転落防止のためです。


研究への反映

 センターでは、温暖化が進んだ環境における雪崩の発生危険度を評価する技術開発を行っています
 (http://www.pwri.go.jp/jpn/webmag/wm021/kenkyu.html#01)。

 積雪断面観測で得られた積雪の変化は、貴重な基礎データとして利用されます(図1)。




(お問い合わせ先:雪崩・地すべり研究センター)