土研ニュース

「国総研・土研東日本大震災報告会」を東京、大阪で開催しました


発表の様子



パネル展示(東北地方整備局提供)の様子
(東京会場)



会場の様子 (東京会場)


 「国総研・土研東日本大震災報告会〜震災から一年を経て、見えてきたこと〜」と題して、報告会を開催しました。国土技術政策総合研究所(国総研)・土木研究所(土研)では、東日本大震災の発生当初から、職員を被災地に派遣し、人命救助、復旧活動等に不可欠な道路、港湾施設等の供用性評価や応急復旧の為の技術支援に取り組んで参りました。今回、地震発生から一年を経過し、これまでの取り組み状況や今後の展望について報告を行いました。

 報告会は、河川堤防の地震動による被災の特徴と地震対策の効果を検証した結果や河川堤防の地震対策の課題と今後の方向性、津波により機能を消失した下水処理場の復旧対応と処理機能ついての検討、道路構造物の 耐震設計と被害の関係についての調査分析など分野毎に発表を行いました。

 今回は、東京(3月13日、ニッショーホール)だけではなく、初めての地方での開催となる大阪(3月21日、エルおおさか)の2つの会場で開催し、民間企業、地方公共団体、学識経験者等から879名(東京:520名、大阪:359名)と多くの参加がありました。また、東北地方整備局による震災への対応を紹介したパネル展示を併せて実施し、こちらも熱心に見入られる方が大勢いました。なお、当日の発表資料等については、土研のホームページでご覧いただけます。


(土研ホームページ)

http://www.pwri.go.jp/jpn/news/2012/0328/index.html



(問い合わせ先:研究企画課)

ADBとの技術連携プロジェクトの活動

インドネシアIFASトレーニング



バングラディッシュ洪水警報センター



カンボジアワークショップ



活動地域
(クリックすると拡大します)




  土木研究所水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM)では2009年11月にアジア開発銀行(ADB)と締結した地域技術協力連携協定に基づき、洪水対応力強化の技術協力を行ってきました。この協定はICHARMが水災害管理の技術と能力を有する人材を提供し、経費をADBから提供するものでありICHARMの技術力を問われる取り組みともいえます。土木研究所としても海外からの資金による初めての活動となったこのプロジェクトについて紹介します。



(1) 洪水予警報システム導入とコミュニティ防災の連携(インドネシア)

 ソロ川はインドネシアで最も経済的に発展したジャワ島東部の主要河川(流域面積16,100km2)です。ここではICHARMが開発した総合洪水解析システム(IFAS)の導入および公共事業省ソロ川河川事務所職員の教育を行いました。さらにコミュニティでの洪水準備体制強化の活動を行い、洪水被害軽減のためには高度技術だけでなく、コミュニティレベルの取り組みが重要であることを理解してもらいました。


(2) 定量化した合意形成手法による国家基本方針策定(バングラディッシュ)

 バングラデシュはほとんどが海抜5m以下の低平地で、洪水、高潮などで多くの被害が頻繁に発生しています。一方で、国境を越えたデータ入手の困難さや不十分な情報通信設備など課題も多く、効率的洪水早期警報システムには優先度に応じた着実な整備・実施が必要とされています。ICHARMでは関係政府機関などに対してアンケートとワークショップで課題を分析、定量化した合意形成手法を適応し、洪水早期警報システムの国家基本方針をまとめました。


(3)洪水脆弱評価の汎用型手法の開発(メコン河下流域)

 カンボジア平原では、中小洪水でメリットを受ける一方、大洪水では家屋や稲に被害が生じます。ICHARMは雨量、水位情報と衛星地形情報などの簡単に入手できる情報を統合して氾濫範囲と水深を特定し、この地域の主な農産物である雨期米および住居の被害推定を行い、洪水被害を概略特定できる手法を開発しました。この手法は個々の情報を差し替える汎用型の手法で今後の発展性も期待されます。


 本プロジェクトは、土木研究所の歴史の中でも初めてのユニークな活動ですが、異なる文化、歴史、技術レベルの多くの機関と調整が必要でかつ革新的な成果が求められる厳しい活動でもあります。このような活動を通じて土研・ICHARMが成長して、さらに世界に貢献できる機関に発展していくものと思っています。本活動は対象を広げて継続の予定ですので、引き続き皆様のご支援をお願いします。




(問い合わせ先:ICHARM)

東京大学生産技術研究所と連携・協力協定を締結しました


東京大学生産技術研究所
(目黒区駒場)



締結式の様子
(左:魚本理事長、右:野城所長)



講演会の様子(土研)
(左:大原准教授、右:目黒教授)

 平成24年3月15日東京都秋葉原ダイビルにおいて、東京大学生産技術研究所(生研)と土木研究所(土研)との連携・協力の推進に関する協定を締結しました。

 この協定は両研究所の研究開発能力と研究資産を活かし、先進的・実用的な研究開発や次世代を担う人材の交流・育成に関して連携・協力することによって、学術と科学技術の振興、研究成果の社会還元に資することを目的に締結されました。

 締結後、野城所長(生研)は、生研のもつ研究成果等を土研に提供し、課題解決につながることを期待するとともに、特に若手の人材交流を進め、幅広い考え方を持つ研究者の育成に力を入れたいと挨拶しました。また、土研の魚本理事長は災害対応等土木技術の研究成果が早急に求められている中で課題は多く、生研のナノテクノロジー研究等土研で行っていない視点を取り入れ課題のブレークスルーを行い、社会的要請に応えていきたいと話しました。なお、締結式には12名もの記者達が取材に訪れ、関心の高さが伺われました。

 また、本協定を記念した講演会を、3月22日(生研)、3月27日(土研)で開催いたしました。 生研での講演では、当所の田村耐震総括研究監が東日本大震災による土木施設の被害や特徴、小山内土砂管理グループ長が、近年の集中豪雨、台風等による大規模土砂災害への対応等について、講演を行いました。一方、土研での講演は、大原准教授より、「緊急地震速報の効果的な活用策について」と題して講演いただき、目黒教授からは、幅広い観点から、今後の地震防災のあり方について、ご紹介をいただきました。今後も研究情報の交換や、定期的な共同講演会やシンポジウムを開催する予定です。



(問い合わせ先:研究企画課)

UNESCAP/WMO第44回台風委員会総会に参加しました


加本議長による水文部門の活動報告



水文部門の参加者



会場の様子

 台風委員会(Typhoon Committee)は、国連(UN)のアジア太平洋経済社会委員会(ESCAP:the Economic and Social Commission for Asia and the Far East)と世界気象機構(WMO:the World Meteorological Organization)のもとに、アジア太平洋地域における台風による被害の軽減を図るため1968年に設立された政府間組織です。現在加盟している国及び地域は、14の国と地域(中国、香港、マカオ、フィリピン、日本、韓国、北朝鮮、ベトナム、カンボジア、ラオス、タイ、マレーシア、シンガポール、アメリカ)で事務局は中国領マカオにあります(2007年フィリピンマニラから移転)。

 日本の代表は気象庁長官(気象)、国土交通省水管理・国土保全局長(水文)、内閣政策統括官(防災)となっています。6つの作業部会があり、気象部会、水文部会(議長はICHARM)、防災リスク軽減部会、研究・研修部会、資金動員部会、諮問部会から構成されています。

 2月6日から11日にかけて第44回台風委員会総会が中国杭州市で開催され、約120名、14の加盟国等の内11の国と地域、オブザーバーとして7つの団体が参加しました。

 2月6日には、参加各国の2011年の台風減災に関する活動報告が行われました。日本の水文部門の取組については、国土交通省水管理・国土保全局砂防部山下砂防施設評価分析官から、台風12号による紀伊半島の土砂災害、改正土砂災害防止法に基づき実施された緊急調査、紀伊半島における大規模崩壊監視警戒システム及びタイの洪水に対する国土交通省によるポンプ車の派遣支援について報告が行われました(気象部門は気象庁西出予報部長、防災部門は内閣府防災担当(気象庁代読)が発表)。

 7日は科学講演会が行われ、8日は部会毎の会議が実施されました。水文部会においては、ICHARMの加本が議長となり、実施中である台風減災プロジェクトの2011年における活動進捗の確認と2012年の活動計画について議論が行われました(参加者27名、8カ国、ESCAP、台風委員会事務局)。

 現在、水文部会では、日本の主導で土砂災害ハザードマッププロジェクトと洪水災害に対する地域防災力評価手法開発プロジェクトが実施されています。また、新たに、土砂災害報告共通様式作成プロジェクトを進めていく予定です。

 9日、10日には全体会議でこれまでの成果と今後の活動に付いて議論されました。水文部門からも2011年活動進捗、2012年活動計画について報告が行われ、了承され、11日には台風委員会総会の最終報告書が確定しました。貢献が大きい組織、者に昨年から贈られることになった台風委員会キンタナ―ル賞は、中国気象庁国家気象センターと韓国気象庁が受賞しました。



(問い合わせ先:ICHARM)

第53回科学技術週間で一般公開を開催しました


地震体験車で大地震を再体験



橋梁の現状と土研の取り組みを紹介



3次元大型振動台で耐震対策について説明

 科学技術週間は、科学技術について広く一般の方々に理解と関心を深めて、日本の科学技術の振興を図ることを目的として設けられ、この期間に全国で科学技術に関する各種イベントが行われます。

 平成24年度の科学技術週間は、4月16日から22日に設定され、各地でイベントが開催されました。つくばにおいては、40の研究機関が参加し、土木研究所は国土技術政策総合研究所と合同で、4月20日に一般公開を行い、肌寒い気温の中、学生を含め216名の方々に来所いただきました。

 施設の公開として試験走路の高速走行体験と実験棟見学バスツアーを実施し、研究内容や活動の紹介として、景観シミュレーションや東日本大震災のパネル展示を行いました。また、茨城県から貸し出しを受け、つくば市中央消防署のご協力をいただいた、地震体験車による地震体験も行いました。この地震体験車は、3月30日に関東地方郵便局長協会から茨城県へ寄贈されたもので、このようなイベントで一般の方々に公開するのは初めてということでした。「3.11東北地方太平洋沖地震」の揺れも再現でき、体験した方々は大きな悲鳴を上げていました。

 試験走路では、ITS技術や騒音対策等道路に関する様々な研究について紹介しました。参加者には28度の傾斜がある走路内のバンクを実際に登った後、大型バスで時速120qの高速走行を体験してもらいました。

 また、実験棟バスツアーでは、舗装の今昔、橋梁のメンテナンスや、土木構造物の耐震対策などについて、両研究所の取り組みや今後の課題を、実際の実験棟を巡りながら紹介しました。普段何気なく目にしている道路や橋についての研究の紹介に、学生達は熱心にメモを取り、一般の方々も大きく頷きながら聞いている様子が印象的でした。

 土木研究所では、多くの方々にその研究や活動を知っていただくため、今後も一般公開等についても積極的に取り組んでいこうと考えております。

 また、一般公開時だけではなく、普段から施設の見学を受け付けておりますので、多くの皆さまのご来所をお待ちしております(見学の申込みは総務課までご連絡下さい)。



(問い合わせ先:総務課)

雪解け水と地すべり








上越市板倉区の地すべり災害。
上から3月8日、9日、10日、13日の状況(提供:新潟県)

 平成24年3月7日に新潟県上越市で発生した地すべりは、一週間以上も動き続け、人家などに被害を及ぼしています。 地すべりは、がけ崩れや土石流など他の土砂災害と同様に、一般的には梅雨の長雨や台風による大雨で発生することが多いですが、新潟県では一年間で発生する地すべりの約半数が3月〜5月に集中しています。この時期に多発するのは、新潟県が豪雪地帯であることが深く関係しています。

地すべりの集中地帯

 地すべりが発生する可能性が高い場所は「地すべり危険箇所」と呼ばれ、都道府県が事前にリストや地図を作成しています。日本全国で11,288箇所、そのうち新潟県には860箇所あるとされ、長野県(1,241箇所)、長崎県(1,169箇所)に次いで全国第三位となっています。 今回地すべり災害が発生した上越地域は、新潟県内でも有数の地すべり地帯です。これは、この地域の地質と気象条件が大きく関係しています。北日本と西南日本の境目であるフォッサマグナの西端に位置する上越地域は、数百万年前まで海底であった土地が隆起した結果、生まれた土地です。海底に堆積した泥や砂の地層が十分に固まる前に地殻変動によって傾きながら地上に出て、山の斜面となっています。この地層が水を大量に含むと、地下で強度の弱い地層を境に地すべりが発生します。 一方、この地域には多くのスキー場があることからもわかるように、多量の降雪が観測される地域でもあります。大雪のピークが過ぎた3月からこれらの積雪が徐々に融けだします。雪解け水は山から雪がなくなるまで地面に間断なく染みこむため、毎日毎日雨が降り続けるのと同様に、地中に多量の水(地下水)がたまります。このように、「水を含むと崩れやすい地質」と「地下水の原因となる多量の雪解け水」が揃っていることが上越地域を日本有数の地すべり集中地帯にしているのです。 新潟県HPより (http://doboku-bousai.pref.niigata.jp/sabou/main.html?fnm=openMapDosya&no=17&no2=0



人柱(ひとばしら)伝説

 今回災害が発生した板倉区(合併前の板倉町)には、地すべりを止めるために旅の僧侶が人柱となった、という伝説がありました。後年、人骨が入った大かめが実際に地中から発掘され、人骨の鑑定結果も踏まえて伝説ではなく実話だったことが明らかになっています。もちろん、人柱で地すべりを止めることはできません。しかし、現代のような土木技術を持たない古代の人々が地すべりと闘い、共存しようと苦労を重ねたことを示すエピソードの一つと言えます。 上越市HPより(http://www.city.joetsu.niigata.jp/soshiki/itakura-ku/itakura-ca-19.html)。

(問い合わせ先:雪崩・地すべり研究センター)