研究成果の紹介

ナマコの底質浄化能力の算定


実験開始直後(摂餌前)



実験中(摂餌後)



室内試験での有機物浄化量
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 北海道の主要な水産有用種のひとつにナマコがあり、近年は中国向けの輸出増加により、その経済的価値が著しく高まっています。ナマコの単価は2002年頃から急激に高騰しており、10年前と比較して5倍以上に上昇し、「黒いダイヤ」と呼ばれるほどの過熱ぶりです。漁獲量もこの10年で2倍以上に増加し、急激な漁獲増加により資源管理の必要性が高まり、ナマコの人工種苗の生産・放流事業に取り組んでいる地域もあります。「環境と共生する港湾の整備」や「つくり育てる漁業と一体となった漁港整備」が進められる中で、水産土木チームでは、ナマコが海底に堆積している有機物を摂餌して成長することに着目して、港内でナマコを積極的に蓄養し、同時に港内泊地の底質浄化を図る手法を検討しています。しかし、ナマコの生態に関する知見が不十分であり、特に寒冷海域のナマコは殆ど底質浄化の研究に扱われていませんでした。

 このことから当チームでは、北海道産のナマコを用いた室内実験により、底質浄化能力等の算定を試みました。水槽の水温を現地の水温に合わせて季節変化を生じさせ、1年間のナマコの摂餌量と排泄物量を計測しました。写真は、ナマコが堆積物を摂餌している状況を示しています。これらを用いて、底質悪化の原因である有機物に多く含まれる炭素・窒素について、ナマコの摂餌による浄化量を、ナマコ100gあたりに換算して算定した結果を図に示します。ナマコによる有機物浄化量は、時期及び水温によって変化が大きいことがうかがえます。実験の結果、炭素は摂餌量が多い時期で約50mg/day、窒素は約6mg/dayの浄化量となりました。海底では水中の有機物が沈降して底質に負荷を与えます。よってこの結果は、実際の生息箇所の負荷量が判れば、浄化能力の定量化が出来ることを示しています。

 これについては、実際のナマコ生息場所である漁港を対象に調査を行った結果、炭素負荷量は273mg/(u・day)、窒素負荷量は53mg/(u・day)でした。過去の研究でナマコの適正収容匹数は2匹/uであることが報告されています。今回の事例に適用すると、ナマコの摂餌行動で負荷量の約2、3割が浄化されることがわかりました。

 これらの手法により、寒冷海域におけるナマコの摂餌生態を踏まえた摂餌量、底質浄化能力等の定量化が可能となりました。



(問い合わせ先:寒地土木研究所 水産土木チーム)