研究の紹介

大規模土砂移動の発生を検知する技術について


図1 大規模土砂移動の発生監視の概念図
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写真 水窪地区で発生した崩壊



図2 震源特定解析結果
(国土地理院数値地図(20万分の1)を基図、
下は此田雨量観測所の雨量データ)
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はじめに

 WEBマガジン第26号でも紹介いたしましたが、平成23年9月に日本に上陸した台風12号に伴う豪雨は、紀伊半島の各地で深層崩壊や大規模な天然ダムを発生させました。天然ダムは山地の奥深くでも発生したため、その発見に時間を要しました。一方、天然ダムはひとたび決壊すると大規模な土石流が発生することがあり、天然ダムから遠く離れた下流の集落まで押し寄せる危険性がありますので、天然ダムの発生を早期に把握して、適切な対応をより早く実施することが重要です。

 火山・土石流チームでは、このような土砂移動現象の監視手法に関する技術開発を行っています。


地盤振動を活用した大規模土砂移動を検知する方法について

 大規模な土砂移動が発生すると、崩壊土砂が渓岸や渓床に衝突します。その衝撃が振動となって遠方まで到達すると言われています。振動といっても、人間では感知できないようなきわめて小さい振動ですが、高感度なセンサーを使えば、そのような振動を観測することができます。そして、その振動を複数のセンサーで観測することが出来れば、ちょうど地震の震源を推定するのと同じような考え方で、大規模な土砂移動現象の発生場所と時間が推定できることが明らかになっています。つまり、多数の高感度なセンサーをネットワーク化して整備することで、大規模な土砂移動の発生を監視することが可能となります(図1)。


大規模土砂移動発生箇所検知の適用事例について(写真1、図2)

 先般の台風12号は、紀伊半島だけでなく中部地方でも大雨を降らせました。そして、静岡県浜松市の水窪(みさくぼ)ダムの上流地域では、平成23年9月7日に天然ダムが発生していることが自衛隊からの通報で明らかになりました。この天然ダムがいつ発生したかははっきりしませんが、既存の地震観測網のデータを見ると、平成23年9月4日の18時7分に地震によるものではない振動を観測していました。それについて、前述の手法を適用したところ、解析結果は崩壊地から約1km 離れた箇所を特定しました。

 この振動が水窪の崩壊によるものかどうかは慎重に取り扱う必要はありますが、このような技術が普及していれば、水窪の崩壊の発生は実際よりも数日程度早く発見できた可能性が考えられます。


おわりに

 大規模な土砂移動が主に発生する山地地域では平地部と比べて電気・通信設備が十分に整っていないため、観測網は十分に整備されておりません。このような技術を適用・普及させるためには、振動を高感度に計測できる機器を山地地域に数多く設置することが重要です。国土交通省ではそのような監視体制をとるために振動センサーの整備を進めております。また、土木研究所では振動センサーの設置に関するマニュアルを刊行する等技術的な支援を行っています。

 なお、本解析に当たっては、(独)防災科学技術研究所の高感度地震観測網Hi-net のデータを活用させていただきました。また、写真は国土交通省中部地方整備局より提供いただきました。ここに記して御礼申し上げます。



(問い合わせ先:火山・土石流チーム)

寒冷地の道路のり面の凍上対策
〜氷の層が地面を持ち上げる〜


写真−1 実験で作ったアイスレンズ



写真−2 凍上により持ち上がったのり面



図−1 のり面の凍上と融解



写真−3 切土のり面の小段部の排水溝の凍上被災事例
地盤の凍上によりU型トラフが山側に傾き、戻らなくなった。



図−2 切土のり面の小段の被災メカニズム


 凍上(とうじょう)とは?

 土の「凍上」は、「凍結」によってもたらされる現象であり、この二つはいわば表裏一体の現象ですが、用語の意味は区別されます。

 「凍結」:土が冷やされて土の中のすきまにある水が凍る現象。水は凍結すると体積が約9%増加しますが、土の中の水分が凍結したとしても、土全体の体積増加は小さくほとんど無視できます。

 「凍上」:土が表面から凍っていくと、地下にある水分が凍っている土の近くに移動していきます。そして、アイスレンズと呼ばれる氷の層ができます(写真−1)。アイスレンズが非常に浅いところにできると、霜柱になります。アイスレンズは土の中に何層もできることがあり、このアイスレンズの厚さの合計が地表面の凍上量(持ち上がる高さ)にほぼ等しくなります(写真−2)。

 凍上量が大きくなったり、場所によって凍上量の大きさのバラツキが大きかったりすると、道路の表面にクラック(ひびわれ)ができることがあります。さらに、ひどくなると舗装が破損したり陥没したりすることもあります。

 

 道路のり面(斜面)の凍上を防ぐには?

 道路の舗装面の凍上対策は、ある程度確立しています。しかし、のり面の凍上被害を考慮した事前の対策はこれまで見られません。のり面では、凍上で持ち上がった状態が元に戻らないのでやっかいです。凍上は、一般にのり面の垂直方向に発生しますが、融解して戻るときは重力方向に下がります(図−1)。これが何年かにわたって繰り返されると表層はゆるみ崩壊しやすくなります。また、のり面にはのり面保護工や排水溝が施工される場合が多いですが、凍上の発生により変状が生じ、最終的には崩壊に至ることもあります。写真−3は、切土のり面の小段に設置された排水溝の被災状況です。小段の排水溝は、のり面側からだけではなく、水路の内空部分からも冷却されることにより、不均一な力を受け、山側に傾く場合があるという被災メカニズムがわかりました(図−2)。

 のり面ではどの個所でどの程度の被害が発生するかの予測が極めて困難ですが、今後の研究により、凍上現象の把握、合理的な凍上対策の提案、凍上による被災発生危険度を判定する診断・評価法の提案を行い、凍上による被害の抑制に努めていきます。



(問い合わせ先:寒地土木研究所 寒地地盤チーム)

沿道の休憩施設の魅力向上に関する研究

 女性や高齢ドライバーの増加(女性H2〜H22で約1.6倍、高齢者H2〜H22で約1.8倍)に伴って、「沿道の快適な休憩のためのたまり空間」へのニーズが高まっていることから、道の駅が全国に整備され、現在では約1,000駅、年間2億人以上が利用しています。また、観光移動の約75%(北海道では約80%)が自家用車やレンタカーとなっており、最近では北海道を始めとして外国人のレンタカー観光も急増しています。道の駅は、単なる休憩施設ではなく、これらドライブ観光の魅力や、観光の拠点としてなど地域振興にも大きく貢献する社会インフラとなっています。

 その道の駅の利用に関する国土交通省の調査では、休憩利用が95%と最も高くなっていますが、現状では物販や飲食の提供に力を入れるあまり、快適な休憩空間の提供が十分でない状況にあります。

 そこで、地域景観ユニットでは「魅力ある観光地づくり」への貢献を目指し、道の駅の休憩空間の魅力向上により利用者満足度を高めることや地域振興への寄与を目的に調査研究を行っています。

 これまでの研究の結果、利用者は飲食物販と同等以上に快適な休憩を求めているにもかかわらず、道の駅関係者は休憩空間の魅力が経営に直接関係ないと感じ、十分な配慮がなされていない事例も多くありました。また、そのことが利用者の評価を低くする要因にもなっていました。

 そこで、研究では屋内外の休憩空間の評価が高いほど滞在時間と消費額が増加するなど(図-1)、快適な休憩が利用者の印象だけでなく駅全体の活性化に繋がることを把握しました。

 また、魅力的な休憩空間やそうではない空間にはそれぞれに共通性があり、関係する要素として、例えば屋外では園地や樹木、眺望やそれを見る場所のデザイン、案内サイン、イス・テーブル、日陰などの要素が挙げられ、それらの関係性なども大きく影響していることを把握しています。また、図-2にあるような建物と駐車場の間の中間領域、更に園地や休憩施設と建物との位置関係、駐車場のレイアウトや設置位置が利用者の印象に大きく影響していますが(図-3)、現状では図-4のように、認識しにくい配置や利用しにくい配置などが多く見られ、効果的な設計となっていない事例が多いことがわかりました。

 これらの研究結果をもとに、道の駅の魅力向上に繋がる効果的な改善方法を検討しています。


  

図−1 屋外の休憩空間対する評価が高いほど消費額が増加している(調査した10駅の平均)

     

図−2 屋外で休憩できない道の駅は少なくない

快適な無料休憩施設を提供している民間施設

  

図−3 建物前面の園地は、利用者の評価(印象)に好ましい影響を与えている
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図−4 園地の配置は来訪者が認識し利用しやすい建物の前面が高い評価だったが、現状は約1割しかない。
(Bの場合、園地が視認しにくかったり、アクセスが容易ではない事例が多くみられた)
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(問い合わせ先:寒地土木研究所 地域景観ユニット)