研究の紹介

水位差を利用したダム貯水池からの排砂技術の現地実験

  河川にダムを造ると水と一緒に川を流れる土砂も貯水池に貯まります。このことによって以下のような問題が生じます。

  ・ダムの有効容量の減少(日本の多くの貯水池では、100年間に堆積する土砂用の容量を確保していますが、予想以上のスピードで土砂の堆積が進んでいる貯水池があります)。

  ・下流河川の河床環境の変化(川底の小さい粒径の土砂が少なくなる、土砂が更新されない等)。

  ・下流海岸の砂浜の減少。

  そこで、貯水池の寿命を延ばし下流の土砂環境を改善するために、貯水池に堆積した土砂を下流河川に供給する排砂技術が求められています。

  このような背景から、水理チームでは、経済的で多くの貯水池に適用できる排砂技術の研究開発を行っています。模型実験による検討により、「潜行吸引式排砂管」という技術を提案しました。「潜行吸引式排砂管」とは、柔軟性を持った管をU字形状として一方を取水口とし、折返し部と上流部の管の底面に穴を設けて土砂の吸引口としたもので、貯水池の水が高いところから低いところへ流れるエネルギーを利用して掃除機のように土砂を吸い込む装置です。この技術について、実用化に向けた機能の確認や課題の把握を目的として、実際の小さな貯水池で現地実験を行いました。


 潜行吸引式排砂管のイメージ



排砂前の状況(右岸側下流から撮影)



排砂中の堰堤下流の状況



排砂・排水後の状況(右岸側下流からの撮影)



見学の様子



  この現地実験は、岐阜県高山市にあるヒル谷試験堰堤という施設で2012年7月に行いました。ヒル谷試験堰堤は、京都大学防災研究所流域災害研究センター穂高砂防観測所の施設で、神通川水系蒲田川上流足洗谷流域にあり、流量や流出土砂量を観測するための小規模な堰堤(長さ14m、幅6.55m、高さ4.65m)です。

  実験では管の直径20cmの排砂管を用いて、堰堤から下流へ約3mの水位差を利用して排砂を行いました。その結果、0.113m³/sの流量で、52分間で3.45m³の土砂が排出されました。このときの土砂の洗掘深は約1m、初期の土砂濃度は3〜6%で、実用化のために参考となる情報を得ることができました。また、排砂管の設置・撤去についても大きな問題はなく、比較的簡便に行うことができました。しかしながら、実用化のためには、もっと大きな管の直径での情報や実際の貯水池にある流木などのゴミなどへの対策などについて検討する必要があると考えています。

  なお、2012年7月に、上述の穂高砂防観測所でNPO法人山の自然文化研究センターが主催する奥飛騨砂防・土木技術者研修会が開催されました。この研修会の一環として、大学、民間会社、砂防技術者などの約90名の方に排砂技術について説明するとともに現地実験を見学いただく機会をいただきました。見学の際の質疑応答では、排砂技術のメカニズムや現地への適用性などについて、活発な議論が行われました。議論の内容を今後の研究に活かしていきたいと思います。



(問い合わせ先:水理チーム)

超音波を使ったコンクリート水路の凍害診断


写真−1  コンクリート開水路の凍害



図−1  表面走査法の概念
柏忠二編「コンクリートの非破壊試験法」から引用
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図−2  表面走査法の測定結果
(内部にひび割れ無し)
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図−3  表面走査法の測定結果
(内部にひび割れあり)
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写真−2  採取コアの外観
図−2、3と写真−2は、水土の知80(6)から引用
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  北海道には、食料生産を支える用水路・排水路が多数あります。国営事業で建設された用水路だけでも、その延長の合計は数千kmに及びます。耐用年数をすでに過ぎたとか、近い将来に過ぎるという施設が、半数以上を占めます。用水を供給し続けるために、近年は、両側の壁が倒れそうにないか、壁や底面が傷んでいないかといった調査が定期的に行われています。調査結果によっては、補修や改築を行うことがあります。

  写真−1は、コンクリート製開水路の側壁です。北海道のような積雪寒冷地では、コンクリートが凍害を受けることがあります。コンクリート中の水分は凍結時に体積膨張します。凍害は、凍結融解の繰り返しに伴いコンクリートが傷んでいくという劣化作用です。写真−1でも、凍害による水平方向の細かなひび割れが、側壁の上半分にみられます。積雪寒冷地での用水路の調査では、凍害の程度を把握することが重要です。

  側壁での凍害は、表面だけではなく、内部でも生じます。そのため、外見だけで凍害の程度を十分に把握することはできません。水路の補修・改築の必要性を考えるためには、内部の傷み具合もわかる簡便な診断技術が必要です。

  水利基盤チームでは、超音波を用いればそのような診断が可能ではないかと考えて研究をしています。超音波を用いる方法のうち、表面走査法の考え方を図−1に示します。発振子と受振子は、超音波のスタート地点とゴールです。これらの距離を徐々に離しながら、受振子に超音波が届くまでの時間を計測します。横軸に距離を、縦軸に時間をとると、図−1の下のようなグラフが得られます。表面からある厚みまでが劣化していたとすると、点線(a)のように、途中から傾きがゆるくなるような曲線が得られます。このようなグラフから、表面からの劣化深さが計算できます。

  図−2と図−3は、実際の水路での調査結果です。図−2は、図−1の点線(a)と似た結果であり、表面からの劣化深さが算定できます。一方、図−3は途中から傾きが急になったり、交点を持たない2本の直線になったりした例です。図−3の結果が得られた観測地点の側壁から採取した円柱型のサンプル(写真−2)の観察では、側壁の内部にひび割れがあることがわかりました。

  このように、表面からの劣化のほか、側壁内部のひび割れを把握できる可能性が見えてきました。現在、この方法の有効性の確認を続けています。



(問い合わせ先:寒地土木研究所 水利基盤チーム)