研究の紹介

水生生物による下水処理水の安全性評価(バイオアッセイ)


写真-1 流水式メダカ産卵試験システム
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写真-2 メダカ受精卵の観察の様子
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写真-3 マイクロプレートによる藻類生長阻害試験
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  下水道には工場、事業場、家庭などから様々な物質を含んだ排水が流入しますが、これらの排水は下水処理場で処理されています。近年、医薬品、日用品などに含まれている化学物質の種類は増加の一途をたどっており、その一部が河川に放流され、水生生物に悪影響を及ぼすことが懸念されています。

  土木研究所水質チームでは、これまで、魚類では雄魚の雌化の指標とされるビテロゲニン(卵黄前駆)蛋白質の生成、甲殻類ではミジンコの遊泳阻害で評価を行ってきましたが、健全な生態系維持の面からは、繁殖に関する影響を評価することが重要です。このため、土木研究所では、魚類ではメダカを試験魚として使用する「産卵試験」、メダカやゼブラフィッシュの受精卵の孵化率や孵化魚の死亡などを確認する「短期毒性試験」、甲殻類では「ミジンコ繁殖試験」、藻類では「生長阻害試験」について、実験装置の拡充、試験体制を構築し、研究を進めています。

  魚類の産卵試験では、茨城県霞ケ浦浄化センターの実験施設内に流水式で試験ができるシステムを構築し、実下水試料を用いて試験データを取得できるようになりました(写真-1)。短期毒性試験では、下水試料を土木研究所に持ち込み、実験室内でも試験できるようになりました(写真-2)。さらに、藻類生長阻害試験では、試験水量を抑え、一度に多くの試料を試験するため、マイクロプレートを用いた試験を行うなど、試験の効率化の工夫も行っています(写真-3)。

  こうした試験から下水処理水が水生生物に与える影響の把握を進めていますが、今後、水生生物への影響がみられる場合は、その影響の低減技術の開発も進めていく予定です。



(問い合わせ先:水質チーム)

地震に強い盛土を作る


 表 過去20年間の大規模地震の発生回数
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 写真-1 盛土の被災例



 写真-2 模型実験の例
(上:無対策、下:排水対策)
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  地震大国日本

  2011年(平成23年)3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)は皆さんの記憶に新しいところです。「災害は忘れた頃にやってくる」といった言葉もありますが、実はほぼ毎年のように日本のどこかで大きな地震が発生しているのです。表は1993年〜2012年の20年間で発生した地震について、各年毎に震度5弱以上を記録した回数を調べたものです。東日本大震災の余震の影響も多少はありますが、震度5弱以上の地震はこの20年間で244回発生しています。さらにこのうち、震度6弱以上の地震の回数を見ても42回も発生しています。また、表中の備考に代表的な地震を記載していますが、発生した地域も北海道から九州まで分散しています。


  地震による盛土の被害

  これらの地震では、様々な施設で被害が発生しています。家屋の倒壊や土砂崩れなどが代表的なものですが、道路盛土や河川堤防などの土構造物(以下、盛土と呼ぶ)でも多くの被害が発生しています(写真-1は道路盛土の被害例)。台風等に伴う豪雨による被災は水が影響していることは一目瞭然ですが、地震による被害においても盛土や地盤内の水が大きく影響しています。ニュースで耳にしているかと思いますが、地盤や盛土の液状化はその例の一つです。(液状化については以前のWEBマガジン第23号で紹介しています)


  地震に強い盛土を作るために

  地震に強い盛土を作るためには水に対して、どのように対応するかを考える必要があります。写真-2は、盛土中の水位を変えて地震時の被害の違いを比較した実験の例です。盛土の中の水位が高いと大きく崩れていますが、水を抜いて水位を下げると崩れていないのがわかります。このように、盛土の中に入った水を適切に排水するだけでも、地震に強くなります。新しく作る盛土(新設盛土)であれば、盛土の中に水を入れない工夫や盛土の中に入った水を排水する工夫、構造的に強くする工夫を事前にすることができます。一方、既に作られている盛土(既設盛土)については壊してまた新しく作り直すことは困難ですから、新設盛土とは別の方法を考える必要があります。このため、土質・振動チームでは、まず堤防や道路盛土で地震の被害を受けた箇所について、水の影響と考えられる痕跡や地下水の状況、地形状況、盛土に用いられている土や基礎地盤の物性などの調査を行い、被災時の崩壊メカニズムを把握します。そして現地調査の結果を踏まえながら、地盤や盛土の状態を想定した模型を作製し、土中から排水する方法や、固化材を入れて土を固める方法、シート状の補強材を入れて強くする方法などの実験や解析を行い、新設盛土および既設盛土のそれぞれについて効果的な対策の研究を行っています。



(問い合わせ先:土質・振動チーム)

積雪寒冷地における鉄筋コンクリート床版の補修・補強技術の開発
〜道路橋の長寿命化に向けた研究〜


(a)上面の劣化状況            (b)抜け落ち状況
 図-1 道路橋床版の損傷事例
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(a)損傷の概要(断面図)



(b)補修の概要(断面図)
 図-2 床版補修方法



 図-3 輪荷重走行試験状況


  近年、積雪寒冷地の道路橋では、自動車走行荷重の繰り返し作用に加えて、凍害や塩害等の厳しい環境作用によって、主要部材である鉄筋コンクリート(RC)床版の劣化損傷が顕在化しています。図-1に示すように、床版コンクリートの上面が劣化することによってアスファルト舗装にひびわれ等が生じたり、さらに劣化が進行して床版の一部が抜け落ちるといった事象も発生しています。これらの事象は、橋梁(道路)を利用する車両の走行安全性に関わることであるのみならず、跨線橋や跨道橋においては第三者被害を招く可能性があるなど、道路管理上の大きな問題になっています。

  このような事象に対し、床版上面の水の存在が大きく影響していることが認識されており、その影響を排除するため、現在では新設のRC床版上には防水工が全面的に施工されています。しかしながら、現在の床版防水工に関する規定には積雪寒冷条件が十分に配慮されていないことや、膨大な数の既設橋のRC床版には全面的な防水工が施されていない状況から、今後もRC床版の損傷事例は増加していくことが予想されます。このような状況で、さらに厳しい財政状況等を踏まえると、既設床版の大規模な改修は難しくなっていくことから、損傷箇所の部分補修による効率的かつ効果的な対策が求められています。

  そこで本研究は、既設道路橋の長寿命化に向けた、厳しい積雪寒冷環境条件にも対応したRC床版の部分補修技術の開発を目標としています。具体的には、図-2に示すように、床版の陥没部と上面劣化部を補修するとともに、適切な防水工を施工することにより、耐久性の向上を図るものです。本研究では、既設橋梁のRC床版の劣化損傷状況より、その劣化損傷メカニズムを分析するとともに、模擬損傷を与えた実規模の試験体を用いた輪荷重走行試験(図-3)等により、補修箇所の表面処理方法や各種の補修材料に対する耐荷性・耐久性の検証を進めています。



(問い合わせ先:寒地土木研究所  寒地構造チーム)