研究の紹介

IFAS ver.2 を公開しました

GISデータ(土壌・地質データ)のインポート


土壌・地質に応じたパラメータの設定

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  ICHARMは、人工衛星によって観測された雨量情報や地上観測データを用いて、洪水流出解析が実施できる総合洪水解析システム(IFAS)を開発し、HPで公開しています。IFASは地上観測データが乏しい流域でも人工衛星で観測された雨量情報等を用いることができる特徴から、洪水解析を行うことができます。これまで多くの途上国でIFAS講習会を開催し、IFASの普及を図ってきました。

  このたび、ICHARMは新バージョンのIFAS(IFAS ver.2)を6月にHPに公開しました。

  IFAS ver.2では、プログラミング言語を変えたことで、従来のバージョンに比べて操作性が大幅に改善されました。操作時間の短縮は、河川管理者がリアルタイムの洪水予測を行い、警報等の意志決定を行う上で非常に重要な要素です。

  また、インポート可能なGISデータの種類が増え、従来の標高データ、土地利用データに加えて新たに、土壌、地質データを入力できるようになりました。これらを用いることで、土壌、地質に応じて流出解析モデルの標準的なパラメータを設定することができます。これにより、パラメータを効率的に設定することが可能になります。

  表示機能は従来のバージョンからほとんど変更されていませんが、バージョン間の互換性はありません。従来のバージョンで作成されたシミュレーションモデルを用いてIFAS ver.2上で流出解析を行うことはできませんので、ご注意ください。

  ICHARMでは今後も引き続き、機能改善のための開発を継続していきます。IFAS ver.2をご利用頂き、ご意見等を頂ければ幸いです。

IFASダウンロードページ: http://www.icharm.pwri.go.jp/research/ifas/index.html

   

(問い合わせ先 : ICHARM(suimon@pwri.go.jp))

アスファルトの粘弾性状〜硬いようで軟らかい!?アスファルトの性質を利用したアスファルト舗装〜

図1 左)砕石や砂 右)アスファルトバインダ

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図2 傾けたまま静置したアスファルトの形状変化の様子

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図3 中温化技術で求められるアスファルトの性能の概念図

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  日本の道路のおよそ9割がアスファルト舗装です。アスファルト舗装は、適切な割合の砕石等とアスファルトを混ぜ合わせたアスファルト混合物で出来ています(図1)。アスファルトとは、石油からつくられる高分子材料であり、強い粘着性を持つため、アスファルト混合物内で接着剤の役割を果たしています。アスファルトは固体のように見えますが、高温ではどろどろになり、常温では硬くなります。この性質を利用して、工場(プラント)では高温のアスファルトと砕石等を混ぜ合わせ、固まらない程度の温度に保ちつつ、アスファルト混合物を道路に敷き詰めます。アスファルト混合物は冷めれば硬くなり、車が載っても壊れなくなります。

  このように道路に広く使われるアスファルト混合物ですが、長期間にわたって舗装の上を乗用車や大型トラックが走行すると、徐々にアスファルト舗装にわだち掘れやひび割れが発生してきます。これは、アスファルトは硬い固体のようであっても、長時間力がかかると次第に変形する性質(=粘弾性状)に関係しています(図2)。アスファルトの粘弾性状はアスファルト混合物の製造や、舗装の施工しやすさに関わっています。新材料チームでは様々な方法により粘弾性状を捉えることで、ニーズに応じた性能を有するアスファルトの品質評価に関する研究を行っています。

  近年では、アスファルト舗装の製造や施工による二酸化炭素の排出を抑えるために、製造•施工温度を従来よりも低減させるための技術(中温化技術)が進められています。この技術は、二酸化炭素排出量の削減につながるため、地球温暖化防止策として有効です。製造にあたっては、アスファルトに中温化混合物用の特殊添加剤(中温化剤)を加えて、製造温度を30℃近く低減させます。中温化剤を添加したアスファルトは、製造や施工しやすい軟らかさになる温度が低下し、なおかつ、供用温度域では従来と同程度の硬さになることが求められます(図3)。そのため、新材料チームでは中温化アスファルトの粘弾性状を調べることで品質の規格化を図っています。また、粘弾性状による性能評価だけでなく、中温化アスファルトの品質向上を目指した研究にも取り組んでいます。


(問い合わせ先 : 新材料チーム)

道路におけるシークエンス(移動)景観の評価と道路空間の最適化に関する研究

写真-1 地域資源である沿道景観(実験区間)


写真-2 景観評価実験の方法(評価ボタン)


写真-3 評価者多い(上)と少ない(下)

区間の一例(図-1に対応)

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1.道路からの景観の重要性とその評価の意義

  魅力的な沿道景観は、重要な観光資源の一つとして地域振興に貢献しています。そのため、「シーニックバイウェイ北海道」や「日本風景街道」など、沿道景観を生かした地域振興の施策も進められています。

  地域資源である美しい沿道景観を上手く生かすには、安全快適に走行できるよう、必要な道路機能を確保しながら、良好な沿道景観を阻害しない道路空間が求められます。

  では、どのような沿道景観を人は心地よいと感じ、どのような景観を良くない(残念)と感じるのでしょうか? それには、具体的にどのような“コト”や“モノ”が関係しているのか把握する必要があります。

  これにより、特に景観に配慮して整備する箇所の選定や、具体的に道路景観の向上につながる対策方法を検討する上で有効となります。

   

2.国道での走行実験

  走行実験のルートは、北海道の美瑛町から上富良野町までの約10kmとしました(写真-1)。実験では「往路」「復路」の両方向のシークエンス(移動)景観の評価を行いました。被験者には、「景観が良い」と感じた区間について評価ボタンを押しつづけてもらい(写真-2)、同時に実験中は被験者の率直かつリアルタイムな印象を「つぶやき」として発言してもらい、これも映像とともに録音しました。


3.道路景観の評価結果とその要因

  図-1は、縦軸に「良い印象」と感じた被験者数、横軸に走行距離を示したものです。この図から、特定の区間で「景観が良い」との評価が集中し、その区間のはじまりで急激に増加するなど、各被験者が「景観が良い」と感じる要因や要素に共通性があることがわかります。

  一方、評価のピークは長くは続かず、例えばA区間(No6:統一性ある並木が連続している)のように評価が徐々に低下しています。これは、変化の少ないシークエンス景観が被験者の印象評価に「馴れ」を生じさせたと考えられます。

           

図-1 走行実験において景観が良いとした人数(評価ボタンを押していた人数)とその区間

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  次に、被験者の印象が良かった/良くなかった区間について分析すると、以下のような共通する特徴が挙げられました。

  1)印象が良かった区間の主な特徴

·周囲に広がる田園風景や遠くの山並みなどが中景から遠景に見え、それらが障害なく見渡せる区間

·並木(路傍の防雪林など)が連続的に続き、道路線形が遠くまで視認できる区間

·建物が立ち並ぶなどの閉鎖的な区間から、中景•遠景まで見渡せる開放感ある風景に変化する区間

  2)印象が良くなかった区間の主な特徴

写真-4 印象に影響する道路附属物

·中景や遠景に自然的な景観があるが、近景に標識等の道路附属物や電線電柱などが目立つ区間

·警戒標識やドラム型の緩衝施設など、誘目性の高い色の人工物が視界に入る区間

·周囲に農地が広がるような開放的な景観から、深く生い茂る樹林帯などの閉鎖的な景観に変化する区間

·直線区間から、切土カーブに向かう区間

·坂道の様な変化に富む区間から、平坦な道に変化した区間など

   

4.今後に向けて

  現在行っている景観評価の結果やこれに影響する要因や要素を基に、景観整備区間の選定方法や、道路機能と両立する景観対策の方法を提案していく予定です。


(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 地域景観ユニット)