研究の紹介

地すべり防止施設-特に地下水排除工の効率的な点検手法と評価手法の開発に向けて

1.はじめに

 地すべりは、斜面が地下水の影響等でゆっくりと斜面下方に移動する現象です。このため、地すべり活動を抑制するために、地下水を地すべりから排除する工法(地下水排除工)は重要であり、地すべり活動を抑制し続けるためには、この維持管理が極めて重要になります。

 一方、このような施設が本格的に建設され始めた地すべり等防止法の施行(昭和33年3月31日)から50年以上が経過しており、地下水排除施設の30%前後に集水ボーリングの閉塞が確認されています。

 そこで地すべりチームでは、雪崩・地すべり研究センターとともに、地下水排除工の効率的な点検手法及び健全度評価に向けて取り組んでいます。


2.地下水排除工、特に集水井工について

 地下水排除工とは、地すべり斜面内に分布する地下水を地すべり斜面外に排除する工法で、代表的な工法として集水井工があげられます。

 集水井工は、比較的規模の大きな地すべりにおいて、地下水の豊富な地域などに縦井戸を設け、井戸のなかからの集水・排水ボーリングを施工して地すべり上面及びその付近の集水及び排水を行う手法です。


   

                                     集水工の構造


   

 この工法の重要な機能は、地下水を集めて排水することにあるわけですが、長い年月を経ると、地下水に含まれる鉄分が酸化鉄となりボーリング孔を閉塞することがあることが分かってきました。このためボーリング孔の目詰まりの有無を点検により早期に発見し、洗浄などにより機能を回復することが非常に重要です。



         集水井戸の集水ボーリング工出口に閉塞物が付着した事例

                (機能回復させるために洗浄工が必要)


3.点検手法の開発 

 現在、このような点検は、人が直接、井戸の中に降りて、目視により井戸最下部までにある集水・排水ボーリング工出口の目詰まり状態の確認を行うことが一般的です。しかし、このような方法では、有毒ガスや酸欠、昇降施設の劣化による落下などの危険が常にあり、準備や実施に時間や人手を要すという課題があります。そこで、井戸の外部から観測カメラを井戸内部に挿入し観察をおこなえる遠隔点検の手法の開発を進めています。


            集水井内観察カメラ                              集水井内観察カメラによる画像


 また併せて、点検の効率化のため、目詰まりを起こしやすいボーリング孔を地下水の化学的な成分から予測することで、重点的に点検すべき個所を特定する検討も進めています。


4.機能・性能低下と地すべり安定性との評価

 地すべりチームでは、このほかに、地すべり集水井戸での排水量(集水量)観測により、長期間に機能がどのように低下するのか(しないのか)を実際に計測するとともに、全国事例の収集・実態調査(国、都道府県と連携して実施)を通じて、さまざまな環境条件に応じた地下水排除工の機能・性能低下の実態把握と地すべりの安定性との評価を行い、合理的な点検や修繕の考え方を研究していく予定です。

 

                集水井内での排水量観測 

  

(問い合わせ先 : 地すべりチーム)