研究成果の紹介

新しい水防工法(土研式釜段(カマダン))の開発



図-1 開発した水防技術(土研式釜段)
(資材の重量約200kg、人員2名、
設置時間約20分)


図-2 従来の水防工法の例:釜段工
(資材の重量約6,100kg、人員25名、
設置時間約1時間)
(土嚢150袋使用した場合)


図-3 実験堤防での実証実験


 日本は、梅雨、台風などの気象条件や、急峻な山地など複雑な地形条件にあり、都市の多くは沖積平野と呼ばれる過去に起こった河川の氾濫によって出来た平地にあります。この洪水被害を受けやすい土地に人口の約50%が集中しています。このため、河川改修をはじめとする治水施設の整備が進められていますが、その一方で、水害の被害を最小限にとどめるための水防活動は、河川改修と並び重要です。

 土質・振動チームでは、治水施設の安全性の向上のための研究を進める一方で、水防工法に関する研究についても行っております。その研究の中で、新しい水防工法(土研式釜段)を開発しました(図-1)。

 従来の水防技術(図-2)は、設置に多くの土嚢や木材等を必要とし、人海戦術が基本となっており、25名で1時間程度と多くの人員と時間が必要となっていますが、全国の水防団員の減少・高齢化が進み、人手不足が課題となっています。

 新しい水防工法(土研式釜段)は、このような課題を解消するために、小人数で迅速に少ない資材で設置可能な漏水対策技術を目指して開発したものです。

 既存の水防工法が多くの土嚢や木材等を使用した工法が中心であるのに対して、薄手で柔軟性に富み高強度の遮水シートと単管による少ない資材で、釜段工や月の輪工※を構築するものです。

 土木研究所内の実験土槽で、河川堤防の実験模型を用いて実証実験を行い、2名で20分以内に構築できることと、従来の釜段工や月の輪工と同じ効果があることを確認しています(図-3)。

 資機材の一式は、ライトバンなどの車に積むことができ、河川パトロールなどの巡視の際に、漏水を発見した場合、巡視員2名で設置可能で、初期対応にも活用が期待されます。

 この工法は、平成25年に特許を取得しており、全国で行われる水防演習での実演や、技術展示などを行って、水防団への普及を図っているところです。


※釜段工・月の輪工:洪水時に堤防裏小段や堤内地に噴出する漏水の噴出口を中心に土のうを積み、水を貯え、川とその水圧との均衡を保つことにより水の噴出を防ぐ工法

[参考文献:水防工法・技術がわかる 水防工法ハンドブック(2013.12), 一般社団法人建設広報協会]


(問い合わせ先 : 土質・振動チーム)

除雪機械作業状況の「可視化」による分析・評価手法の提案



図-1 除雪グレーダによる作業状況

    

図-2 除雪作業状況の「可視化」例

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研究の概要 

 日本国土の約50%をしめる豪雪地帯では、降雪や積雪が道路交通に与える影響は大きく、効率的で効果的な道路除雪の実施が求められています。

 道路除雪の多くは、各道路管理者がその管理路線を分割した除雪工区毎に実施されています。各除雪工区には道路延長、道路幅員に応じ数台の除雪機械が投入され除雪が行われています。効率的で効果的な道路除雪を実施するためには、降雪状況に応じた最適な、出動タイミング、機械編成、施工ルートの判断が必要です。当チームではこれらの判断を支援する除雪機械マネジメント技術を開発しています。その成果の一部を紹介します。


除雪作業状況の「可視化」による分析・評価

 国土交通省北海道開発局には除雪機械のリアルタイムな位置、作業情報を収集する「除雪機械等情報管理システム」が導入されています。このシステムデータを利用して、除雪工区全体の除雪機械の動きを一目で分かるよう時系列で表示する「可視化」手法を検討し、開発しました。

 図-2の上図は、「可視化」の一例です。縦軸は除雪作業区間の距離標(KP)、横軸は時刻です。凡例のとおり、カラフルなジグザグ線は、除雪機械一台毎の軌跡を、カラフルな水平線は、除雪工区内の主要ポイントを表示しています。また、黒の斜線は速度20km/hを表し、除雪機械の軌跡の傾きとの比較で概ねの除雪速度が分かるようにしました。

 この除雪工区には、区間1に除雪トラックが1台、除雪グレーダが2台、区間2に除雪トラックが2台配置されています。KP(キロポスト)0.0~10.3は片側2車線、KP10.3~37.3は片側1車線です。12月26日は、2:00頃から16:30頃の間に、やや編成を変えながら、それぞれ2回施工しています。ここで着目したいのは、1回目の除雪は両区間ともほぼ同時刻(8:00頃)に終了しているのに対し、2回目の除雪は区間2が区間1から約3時間遅れて終了している点です。この日は11:00以降、KP31.0~37.3の区間で降雪が強く3回の往復作業となった(1回目の作業では2往復)ことが要因と思われます(①参照)が、円滑な交通確保のため、この遅延を抑制する対策が望まれます。このように除雪作業の「可視化」は、施工状況の分析・評価に有効です。


今後の開発予定

 この「可視化」機能を利用して、降雪予想と過去の作業実態分析をもとに除雪作業の進行を予測するシステムを開発中です。その活用イメージが図-2下図です。区間1の2回目の除雪では、当初からAは出動せず、B、Cの2台で出動後、途中でBが帰還、Cのみで後半の除雪を行っています。区間1と区間2の工区境は通常CP1(KP17.1)ですが、工区境をCP2(KP23.4)までシフトしてそこをCが除雪することで、工区全体としては約2時間早く終了出来たと予想されます。

 このようなシステムを開発することで、効率的で効果的な道路除雪の実施に寄与したいと考えています。

   

(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 寒地機械技術チーム)

FRPを用いた道路橋の歩道拡幅工法の開発



図-1 FRPを用いた歩道拡幅工法の概要図

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図-2 載荷試験の状況(高欄支柱水平方向)


図-3 数値解析結果の一例(載荷時の変形状態)

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1.研究開発の背景

 歩道および自転車歩行者道に対しては、道路の構造に関する技術基準(道路構造令)において、歩行者、自転車、車いす同士がスムーズにすれ違うために確保すべき幅員が規定されています。建設年次の古い既設の道路橋の中には、建設時からの交通環境の変化等により、技術基準で規定される歩道幅員を満足しておらず、歩道の拡幅による道路利用者の安全性確保を必要とする橋梁があります。これに対して、従来の鋼製歩道を添架する拡幅工法では、上部構造の重量増加に伴い、既設桁や下部工の補強を必要とする事例があり、工事の施工規模やコストの増大が問題となっています。また、沿岸道路や凍結防止剤を散布する積雪寒冷地においては、塩害による鋼材の腐食も懸念される場合があります。


2.FRPを用いた歩道拡幅工法

 このような背景の下、重量が鋼材の1/4~1/3と軽量でかつ耐食性に優れ、合成床版や検査路など橋梁の構造部材としても適用事例が増加している材料であるガラス繊維強化プラスチック(Glass Fiber Reinforced Plastics: GFRPまたはFRP)を使用した道路橋の歩道拡幅工法を考案しました(図-1) 。

 本研究では、実物大の床版模型試験体を使用した載荷実験(図-2)と数値解析(図-3)により、構造性能の確認と設計手法の検討を行ってきました。その結果、考案した拡幅構造が設計荷重に対して十分に安全な耐力を有しており、数値解析および理論計算による耐荷性の評価と耐力設計が可能であることを確認しました。また、FRP床版の上面(路面)には滑り止め機能の確保のため舗装を設置することから、各種の舗装材料を用いて、FRPとの付着性やFRPの変形に対する追従性について問題がないことを確認しました。

 今後は、現場状況に合わせた構造ディテール等について整理していく予定です。


(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 寒地構造チーム)