研究の紹介

地すべり防止施設の集水管閉塞防止器の開発

  地すべりを防止するために、地すべり斜面に数多くの地下水排除施設が設置されています。地下水排除施設には、浅いところの地下水を抜く横ボーリング、少し深いところの地下水を抜く集水井、さらに深いところの地下水を抜く排水トンネルがあります。これらの地下水排除施設は、穴の開いた集水管を地すべり斜面内に挿入して、地下水を集め地表に排出するものです。しかしながら、写真-1のように集水管に赤褐色の泥状のものが付着し、集水管が閉塞している場合が数多く見られます。これは、地下水中の鉄分含有量が多い場合、土中に生息する鉄細菌が地下水中の鉄分を体内に取り込みコロイド状の有機物を生成するためです。集水管が閉塞した場合、地すべり斜面内の地下水排除ができなくなり、地すべりが発生する恐れが出てきます。そこで、雪崩・地すべり研究センターでは、集水管の閉塞を防止するための研究を行っています。

写真-1 地下水排除施設(閉塞した横ボーリングの集水管)


  写真-2には、当センターで開発した集水管閉塞防止器を示しました。集水管閉塞防止器は、横ボーリングや集水井の集水管数本をパイプによりまとめ、まとめられた集水管孔口に取り付けて使用します。集水管閉塞防止器の開発では、集水管内に形成された閉塞物を速やかに排出する機能を、構造が簡単、電源が必要ない、壊れにくい、メンテナンスフリー、安価であるなどの条件を満たして発揮する必要があり、これらの機能・条件を考慮しました。

写真-2 横ボーリングに装着した集水管閉塞防止器


  集水管閉塞防止器は、鹿威しの動作を応用したものです。集水管の閉塞防止は、孔口から約2m奥までに集水された地下水を貯留し、その後に排水するという動作を自動的に繰り返し、水流で閉塞物の集水管への付着を防止することで行います。

  図-1は、集水管閉塞防止器の動作図を示したものです。集水管閉塞防止器は、①~③の動作を自動的に繰り返します。すなわち、①の状態では集水された地下水が集水管内に貯留されます。次に、集水された地下水が集水管閉塞防止器の孔口まで貯留され、②の状態となります。この状態になると、③のように集水管閉塞防止器が貯留された地下水の重さで転倒し、貯留された地下水が閉塞物とともに勢いよく排出されます。その後は、①に戻ります。

図-1 集水管閉塞防止器動作図


  写真-3~6には、現地試験開始後204日の閉塞物付着状況を示しました。写真-3に示した集水管閉塞防止器を装着していない集水管には、閉塞物が多く付着しています。写真-4に示した集水管閉塞防止器の孔口には、閉塞物の付着は認められません。写真-5に示した集水管閉塞防止器の排水時の状況では、地下水が集水管閉塞防止器から勢いよく排出されています。写真-6に示した閉塞防止器を装着した集水管孔口には閉塞物が付着していますが、その量は写真-3に示した集水管閉塞防止器を装着していない孔口と比べて非常に少ないものとなっています。これらのことから、集水管閉塞防止器により集水管の閉塞が抑制できる可能性があることが分かりました。

  今後は、現地試験を継続し、集水管への閉塞物付着状況の観察、閉塞防止器の耐久性の確認などを行い、閉塞防止器の実用化を図る計画です。

写真-3 集水管閉塞防止器を装着していない集水管

   

   写真-4 集水管閉塞防止器孔口の状況  写真-5 集水管閉塞防止器排水時の状況


写真-6 集水管閉塞防止器を装着した集水管


(問い合わせ先:雪崩・地すべり研究センター)

軟岩河床の侵食低下を防ぐ

図-1 軟岩河床の低下メカニズム

(画像をクリックすると拡大されます)


写真-1 軟岩河床の浸食事例

  一般的に川底は、水の流れによって上流から運ばれてくる砂や砂利で覆われています。上流の山で発生した斜面崩壊による河川への土砂流入や、護岸や河道掘削などの河川改修といった、自然的あるいは人為的な要因によって、河道を移動する土砂の量や質が変化すると、砂礫床は洗掘や堆積を起こしやすくなります。

  砂礫床の洗掘に伴い川底に岩盤が露出してくると、堅牢な岩盤であれば侵食はそれ以上進行しませんが、低固結の泥岩や砂岩等の軟岩層の場合、風化や流砂による摩耗などによって侵食が進行し続け、河床が著しく低下する現象が発生します(図-1、2)。また、軟岩河床は砂礫床に比べ滑らかな場合が多く、軟岩河床が部分的に露出すると河底を移動する砂礫は滞留しにくくなり、砂礫床の急激な消失(軟岩床の増加)を招きます。こうした軟岩河床が急激に拡大し侵食される現象が国内各地の河川で発生しており(写真-1)、取水堰等の河川横断構造物や橋脚などの被災、安定性の低下といった問題を引き起こしています。また、砂礫床は、底生動物の生息場や魚類の産卵場等、河川生態系を構成する重要な要素となっており、砂礫床から軟岩河床への遷移は、河川の生態系へも影響を与えます。

図-2 軟岩河床の浸食イメージ


写真-2 軟岩河床の浸食実験

  本研究では、こうした軟岩河床において進行する侵食現象のメカニズムを解明するとともに、軟岩河川の将来的な危険度の評価手法や、軟岩侵食を抑制し砂礫床を復元する技術の開発を目的としています。

  これまでの研究で、石狩川、夕張川、網走川など北海道内の19河川の河床から採取した軟岩サンプルを用いて実験を行い、軟岩の侵食しやすさが、軟岩の引張強度と軟岩上を通過する砂礫の量に強く依存することが判明しました。また、モルタルで固さを調整した模擬軟岩河床を作製し、掃流砂によって侵食される過程を水理模型実験で計測し、詳細なデータの収集を進めています(写真-2)

  これらの研究成果は、軟岩河床の侵食特性(侵食速度)を推定する手法、並びに現地における簡易岩盤調査法をまとめた調査マニュアルとしてとりまとめました。さらに、将来露岩河床を砂礫等で被覆するための技術的基礎知見として、岩床表面の粗さの違いによる砂礫の被覆率の関係を解明しつつあります。

  今後は、河床の鉛直方向の侵食だけでなく、側方への侵食過程についてもメカニズムを解明するとともに、実河川における侵食抑制、砂礫床復元技術の開発をさらに進めていく予定です。


(問い合わせ先:寒地土木研究所 寒地河川チーム)