研究の紹介

河川遡上津波による河川構造物への影響について

写真-1 津波の水理模型実験
写真-1  津波の水理模型実験。
画像中央の設置物が堰を想定した模型


写真-2 湾曲部における河川遡上津波の水理模型実験
写真-2  湾曲部における河川遡上津波の水理模型実験。
外岸側の砕波を確認できる。


図-1 OpenFOAMによる実験の再現計算
図-1  OpenFOAMによる実験の再現計算。
波の伝播と砕波を再現可能


  東日本大震災で発生した津波により、沿岸域の被害のみならず、河川域でも甚大な被害が発生しました。この大震災を契機に、今後の河川管理においては洪水や高潮だけでなく津波についても計画的防御の対象として位置づけられました。河川に侵入した津波は河床地形との相互作用により、波状段波(段波の先端が小さい波に分裂し波高が高くなる形態)や砕波段波(段波が崩れながら遡上する形態)など形態を変化させながら遡上します。そのため、津波の波力算定には津波形状の違いによる水理特性を把握しなければなりません。水理チームでは、河川遡上津波の堰・水門などの構造物に作用する力の算出に関する研究を、水理模型実験と数値計算という二つアプローチで実施しています。


  水理模型実験は大型の二次元水路(長さ50m程度)を用いて、水路下流に設置した可動式ゲートを瞬時に引き上げることにより段波を発生させ、津波を想定した実験を実施しています(写真-1、写真-2)。この水路にゲート模型を設置し、ゲートに作用する波圧(波による圧力)等を計測し、河川遡上津波の水理特性と波圧の関係やゲートの浮き上がりについて検討を実施しました。実験の結果は沿岸域などで提案されている波圧算定式の範囲に収まり、河川構造物に対しても利用可能であることがわかりました。また波圧の水深方向の分布形状を留意する必要があることがわかりました。


  河川遡上津波のように水面形を激しく変化させる現象は、流体力学では自由表面問題と呼ばれています。当チームではこの問題に対応するため、オープンソースの数値流体ツールボックスであるOpenFOAMを用いて数値計算を実施しています(図-1)。OpenFOAMに実装されているソルバであるInterFoamは自由表面問題に対応しており、このソルバに水理模型実験の実験条件を設定することで数値計算の妥当性を検証し、津波の内部構造など実験では把握できない流体動態の解明を行っています。実験で得られたデータとの検証では、水面形の時間変化や砕波位置などを概ね再現できており、河川遡上津波による構造物への影響を検討するには有力なツールであることが示されました。


(問い合わせ先 : 水工研究グループ 水理チーム)

地震により発生する地すべりのメカニズム解明に向けて

1.はじめに

  日本では、表1のように平成16年の新潟県中越地震以降、10年近くのうちにマグニチュード7前後の大地震が頻発しており、日本の急峻な地形や脆弱な地質条件と相まって、地震による土砂災害が多発しています。今後30年の間に南海トラフ周辺を震源とする地震が高い確率で発生すると予想され、その際には、広範囲に渡り多数の土砂災害が発生すると考えられます。このように地震による土砂災害のリスクが懸念される中で、被害低減に役立つ研究が求められているところです。

  土砂管理研究グループ地すべりチームでは、地すべり災害を未然に防ぐために、地すべりの発生メカニズムの解明、適切なモニタリング手法および防止対策に関する研究をしており、地震による地すべりについても、現地調査や発生要因の分析などを実施しています。

表1 地震ごとの土砂災害の発生件数・写真1 高野台地区

2.調査の内容

  一般的に、地震による地すべりの発生原因は地震により斜面下方への滑動力が増加し、斜面の安定性が低下することなどが考えられています。地震動が地盤内部に及ぼす影響についてはまだまだ不明な点が多いため、地震による地すべりについて、調査や解析を行っていくことが重要です。

  写真1のとおり、平成28年の熊本地震によって熊本県南阿蘇村河陽高野台地区で複数の大規模な地すべりが発生したことを受け、地すべりチームでは、当地区で現地調査を実施しました。元々、熊本県を含めた九州地方は火山活動が活発で、火山活動に由来する噴出物で構成された地質が多数分布しています。火山堆積物は噴出時の流下形態等によって、色調や硬度に差が表れます。

  写真2、3に示すとおり、地すべりの滑落崖付近で火山噴出物の鉛直方向の堆積状況を調査し、硬度計測を行いました。それらを調査することで、どの層を境界として地すべりが滑動したか、その層はどの年代に堆積しどのような物理特性を有しているのかを知ることができ、このような調査結果をもとに、地すべりの発生メカニズムの解明に向けた調査研究を行っています。

写真2 滑落崖の調査状況(1)・写真3 滑落崖の調査状況(2)

3.最後に

  当チームでは、これまでにも平成23年の東北地方太平洋沖地震による地すべり対策工の影響調査、平成26年の長野県神城断層地震による地すべり調査を実施するとともに、地震動解析などによる危険度評価手法を検討しております。今後は本調査結果を踏まえ、地震による地すべりの発生メカニズムの解明に向け、研究を進めていく予定です。


(問い合わせ先 : 土砂管理研究グループ 地すべりチーム)

泥炭地盤上に施工された盛土構造物の耐震性能について

【写真1】1993年釧路沖地震における十勝川堤防の被災
  【写真1】1993年釧路沖地震における十勝川堤防の被災

【図1】泥炭地盤上の盛土における液状化発生概念図
  【図1】泥炭地盤上の盛土における液状化発生概念図

【図2】泥炭地盤上の盛土における耐震技術の一例
  【図2】泥炭地盤上の盛土における耐震技術の一例

1.泥炭性軟弱地盤とは?

  北海道や東北のような寒冷地には、「泥炭(でいたん)」と呼ばれる土が広く分布しています。「泥炭」は、沼や湖などの湿地に生えているヨシ、スゲなどの植物が、枯れて倒れて、低温環境下で十分に分解されないまま自然に積もったものです。この泥炭層の厚さは3~5m程度ですが、その下に軟らかい粘土層が深く堆積していることも多く、このような構成の地盤を「泥炭性軟弱地盤(以下、泥炭地盤)」と呼んでいます。「泥炭地盤」は構造物の重みを支える力が低く、わずかの荷重で沈下し、しかもその沈下は長期間にわたってなかなか収束しないことが知られています。


2.地震時における泥炭地盤上の盛土の被災メカニズムについて

  地震によって引き起こされる地盤災害の一つに「液状化」がありますが、地下水位以下にある砂質土地盤が液状化することによって、地上もしくは地下の構造物が大きな被害を受けるというのが一般的です。ところが、近年発生したいくつかの大規模地震によって、泥炭地盤上に施工された道路や河川堤防などの盛土が、液状化によるものと思われる大きな被害を受ける例が報告されています【写真1】。

  これは、泥炭地盤上に施工された砂質系の盛土が、時間とともに泥炭地盤中に沈下・埋没し、結果的に地下水位以下となった盛土が地震時に液状化を起こしていることが大きな原因であることが明らかとなっています【図1】。

  また、この被災メカニズムについて検討した結果、生じる被害は前述の盛土の液状化とそれに伴う盛土のり尻付近の強度低下、さらに泥炭地盤の側方への変形が複合的に作用した結果であることもわかってきています。


3.盛土の耐震補強技術について

  すでに多くの盛土が泥炭地盤上に施工されており、これらの耐震性を高め、被害を低減させる技術が求められています。本研究で検討している技術の中の1例として、盛土のり尻付近にふとん籠(砕石や石などが詰められた籠)を設置したものがあります【図2】。この効果として、重しの効果、強度低下部分の置き換え効果、水位を速やかに下げる効果などを期待しています。なお、検討にあたっては、実物大の1/Nの小型模型に重力のN倍の遠心力を作用させることで実物大実験と同等の結果を得る遠心力載荷試験を採用しています。

  このほか、このような盛土被害(変形量)を精度よく予測することができる数値解析手法の検討も進めているところです。


(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 寒地地盤チーム)

沿岸構造物における藻場創出機能の回復をめざして


写真-1 改良前の藻場とウニの状況


写真-2 寿都漁港 背後小段付防波堤


写真-3 改良後の海藻幼芽期の状況

  静穏域の確保を目的として整備された港湾・漁港施設等の沿岸構造物は、その擬似岩礁効果などにより藻場が創出されます。しかし、近年、北海道では特に日本海沿岸において、天然藻場を含めて海藻の着生が少ない「磯焼け」が深刻な状況となっており、早急な対策が求められています。

  北海道における「磯焼け」の主な持続要因は、ウニによる海藻の摂餌とされています(写真-1)。冬季の高水温によってウニの摂餌が活発になると幼芽期の海藻の成長速度よりウニの摂餌量が大きくなるため、既存の構造物での藻場形成が期待できなくなります。一方、ウニは一定の流速以上の流動環境の下では摂餌が制限されることに着目し、ウニの摂餌活動を抑制できる流動環境に改変するため、構造物の嵩上げを提案し、現地実証試験においてその効果を検証しました。


  試験対象とした北海道日本海側に位置する寿都漁港は、1997年に背後に藻場が形成されるよう浅場を設けた背後小段付防波堤が整備されましたが、近年、当初形成された藻場が見られなくなったため、早急な対策が求められていました。そこで、現地実証試験では背後小段上にブロック設置による天端高の嵩上げを行い、流動環境を変え、藻場の形成に与える影響について調査しました。この結果、背後小段の嵩上げによる流動環境の改変によって良好な藻場が形成されたことから、背後小段の全延長105mにおいて嵩上げ改良(水深-1.0m)が行われたところです(写真-2、図-1)。


  嵩上げを実施した水深帯付近は、既設背後小段天端に比べて振動流速が大きくなり、嵩上げ部でのキタムラサキウニの摂餌が抑制されます。この改良により、特に冬季の海藻幼芽期のキタムラサキウニによる食害が抑制され、海藻の生長が確認されています(写真-3)。


図-1 背後小段付防波堤 嵩上げ改良断面

(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 水産土木チーム)