研究成果の紹介

表面走査法によるコンクリートの凍害点検・診断


写真-1 コンクリートの凍害診断にまつわる課題
写真-1 コンクリートの凍害診断にまつわる課題

写真-2 表面走査法による凍害診断の状況
写真-2 表面走査法による凍害診断の状況

図-1 表面走査法による凍害の評価の流れおよび評価の信頼性の検証(予測域を適切に推定できているときは、オレンジ色で示した範囲にデータがプロットされる)
図-1 表面走査法による凍害の評価の流れ
および評価の信頼性の検証
(予測域を適切に推定できているときは、
オレンジ色で示した範囲に
データがプロットされる)


表-1 表面走査法による凍害点検・診断の事例
表-1 表面走査法による凍害点検・診断の事例

  寒冷地のコンクリート構造物に見られる劣化の一つに「凍害」があります。凍害は、コンクリートに含まれる水分の凍結膨張によってひび割れが発生・進展することにより、コンクリートの密実性が徐々に低下していく現象です。

  凍害の程度は、一般にコアを採取し、コアを挟み込むように超音波の発・受振子をコアの側面にあてて、コンクリート組織を伝播する超音波の速度(超音波伝播速度)の大小を調べることで評価されます。しかし、コア採取は、下記のような課題もあります(写真-1)。

(1)削孔作業により、部材や鉄筋が損傷する可能性がある。

(2)調査箇所が広範囲に及ぶときは、多大なコスト、時間、労力を要する。

(3)コンクリート内部の状態は外観目視で確認できないため、コアを採取する箇所を合理的に選定することが難しい。

  そこで、日常の管理業務において、凍害の程度を簡便かつ迅速に非破壊で評価できる技術の開発を目指し、この研究では、コンクリートの表面に超音波の発・受振子をあてるだけで劣化の程度を把握できる表面走査法に着目し、コンクリートの凍害点検・診断への応用に向けて検討を行いました(写真-2)。

  その結果、表面走査法を応用することで、図-1に示すように、凍害の指標の一つである相対動弾性係数(健全なコンクリートの動弾性係数を100として、凍害による動弾性係数の低下度合いを表したもの)の真値が存在すると思われる領域(予測域)を9割以上の確率で推定できることを明らかにしました。

  これらの成果を整理し、平成28年10月に「表面走査法によるコンクリートの凍害点検・診断マニュアル(案)」を作成しました。北海道開発局道路設計要領・第3集・第2編・参考資料Cには「凍害が疑われるコンクリート構造物の維持管理は『凍害が疑われる構造物の調査・対策手引書(案)』(寒地土木研究所監修)による」と明記されており、この手引書(案)の中で表面走査法による凍害点検・診断の手法を詳述した本マニュアルが紹介されています。

  本マニュアルは、下記のサイトより無償でダウンロードすることができます。



表面走査法によるコンクリートの
凍害点検・診断マニュアル(案)
ダウンロードページ


(http://zairyo.ceri.go.jp/ceri_zairyo/topics5/sousa-dr.html)


  最後に活用事例を紹介します。

  表-1は、北海道内の国道9路線(ここではA~Iと記します)に架かる道路橋208橋の下部において表面走査法による凍害点検を行い、鉄筋位置(深さ10cm)における相対動弾性係数の予測域の下限(図-1)が許容値を下回った道路橋の数について調べたものです。許容値は60%ですが、現時点では確認が難しい、凍害が発生する前の健全なコンクリートの超音波伝播速度は一般に4.0~4.5km/hと幅があり、現時点の超音波伝播速度から相対動弾性係数を求めると±10%の誤差が見込まれることに鑑み、ここでは許容値を50%に設定しました。相対動弾性係数が50%以下の可能性もある道路橋の割合は路線によって異なり、詳細調査(コア採取等)の優先度が高い路線をB、E、Dの3路線に絞り込むことができます。


(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 耐寒材料チーム)

川底の砂の流れの音を聴く ―掃流砂量の計測―


写真-1 融雪期の畑地の浸食事例
写真-1 融雪期の畑地の浸食事例

写真-2 ハイドロフォン(左下)とデータ分析に必要な基礎実験(砂・石の大きさ別に、ハイドロフォンに当てたときの音の特徴を調べている)
写真-2 ハイドロフォン(左下)と
データ分析に必要な基礎実験
(砂・石の大きさ別に、
ハイドロフォンに当てたときの
音の特徴を調べている)


研究の背景

  雨や雪解けの水が畑等の表面を流れると、土砂も流されることがあります。これを侵食といいます(写真-1)。侵食された土砂は、排水路や河川に溜まって水の流れの障害になったり、下流の湖沼に入って水質を悪化させたりします。このような土砂流出への対策を考えるためには、土砂の流出量を調べなければなりません。

  ところが、土砂の流出状況の調査には、次のような難しさがあります。排水路や河川を流れていく土砂は、流れ方によって大きく2つに分かれます。川底付近を転がるように移動する掃流砂と、水面からの深さに関係なく浮遊して流れていく比較的細かい粒子です。ここでは、後者を浮遊砂とよぶことにします。排水路や河川のある地点を通過する浮遊砂の量は、水の流量と土砂の濃度の積として計算できます。ところが、掃流砂に対しては、浮遊砂のような計算方法は使えず、また掃流砂を直接に採取して量を測るというのも現実的ではありません。砂防学の分野では、間接的に掃流砂を計る方法として、このあと紹介するハイドロフォン(音響式掃流砂計)の実用化を進めていました。

  水利基盤チームはハイドロフォンによる掃流砂の測定に挑戦し、その結果を農業農村工学会論文集299号に発表しました(鵜木啓二・古檜山雅之・鈴木拓郎・中村和正:農林地流域における音響式掃流砂計と濁度計による流出土砂量の観測)。この論文の4名の著者のうち、鈴木氏は森林総合研究所の研究者であり、ハイドロフォンの専門家です。


調査方法

  この研究では、森林63%、農地25%、荒地・その他12%で構成される11.4km2の流域から出てくる土砂の量を2年間にわたり調査しました。掃流砂量の測定には、ハイドロフォンという装置を使いました。この装置は、鉄製のパイプの中にマイクロフォンを取り付けたものです。これを排水路や河川の底に、水の流れに対して直角になるように設置します(写真-2)。掃流砂が鉄製パイプにぶつかる時の大小さまざまな音をマイクロフォンで感知し、その音を分析して掃流砂の粒の大きさや総量を推定します。

  実は、今回のハイドロフォン設置地点のすぐ下流には、流れてきた土砂を沈殿させるための池(沈砂池といいます)があります。沈砂池の大きさは、長さ60m、最大幅30m、水深が約1.8mです。この沈砂池の堆積土砂量なども測定して、ハイドロフォンによる測定結果の正確さを確かめました。


研究成果

  2年間の調査期間の合計として、沈砂池への流入土砂量が2,068t(浮遊砂量の測定値1,910tとハイドロフォンによる掃流砂量の計算値158tの合計)だったのに対し、沈砂池での堆積土砂量測定値と沈砂池からの流出土砂量測定値の合計が2,263tと近い値でした。また、沈砂池の堆積土砂のうち掃流砂と考えられる土砂(粒子の大きさが2mmを超えるもの)の量が約160tであり、ハイドロフォンによる掃流砂量158tと近い値でした。これらのことにより、ハイドロフォンが有効な測定手段であることが確認できました。

  また、調査を行った畑作地帯(網走川の上流地域)では、約2年間の合計量として、浮遊砂と掃流砂の割合が92:8であることも明らかになりました。今回の調査流域は、傾斜の急な林地が多く含まれることから、掃流砂の割合が高いと予測していました。そのようなところでも、流出土砂に占める掃流砂の割合が8%という低い値であったということから、農地が大部分の流域であれば掃流砂の割合はさらに低いと考えられるので、ハイドロフォンのない時代にいろいろな研究者が農地流域で測定してきた浮遊砂量調査の結果が、掃流砂も含む流出土砂量に近い値であると想像できます。

  なお、この研究結果は、農業農村工学会の平成29年度優秀論文賞に選ばれました。


(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 水利基盤チーム)