研究の紹介

水位差12mの潜行吸引式排砂管による現地排砂実験


図-1  吸引工法の仕組み
図-1  吸引工法の仕組み

写真-1  潜行吸引式排砂管(管径 30㎝管)
写真-1  潜行吸引式排砂管(管径 30㎝管)

吸引部形状等が土木研究所の特許
(特許 5305439号 特許 第5599069号)



写真-2  実験施設全景(水位差12m、菅延長約70m程度)
写真-2  実験施設全景(水位差12m、菅延長約70m程度)

写真-3  吐口部の状況
写真-3  吐口部の状況

  河川にダムを造ると水と一緒に川を流れる土砂も貯水池に貯まります。これにより、ダムの有効容量の減少や下流河川の河床環境の変化の問題が生じる場合があります。そこで、水理チームでは、貯水池の寿命を延ばし下流の土砂環境を改善するために、貯水池に堆積した土砂を下流河川に供給する排砂技術として、低コストで多くの貯水池に適用できるように、貯水池の水位差を利用し掃除機のように土砂を吸い込む「潜行吸引式排砂管」という技術の研究をしています。(図-1、写真-1)


  これまでの研究の結果、管径30cm管が4つあれば浚渫などの従来技術よりも低コストの装置で、2.4 メートルの水位差でも約1万m3(小学校 25 メートルプール約 20 杯分)の水中にたまった土砂を約50時間で下流へ排砂できる能力をもつ技術となることを確認してきました。そこで、次のステップとして、この技術の実際のダムにおける高落差での実用化に向けた機能の確認や課題の把握を目的として水位差12mの砂防堰堤を利用した現地実験を行いました。




  排砂実験は2019年11月に行いました。砂防堰堤は、幅約130m、高さ17mで水が流れている箇所が約12mの高低差の施設です。実験で用いた土砂はダム貯水池の堆砂を約10cmの網で大きな石を取り除いた後の土砂を用いました。また、実験施設として、堰堤の上流を約34m(直径30cm管)、下流を約32m(直径20cm管)とする管延長約70mの排砂設備を設計、配置しました。(写真‐2)


  実験の結果、直径30cm管で概ね設計どおりの管内流速3.0m/s程度が確認され、土砂の中に少し存在していた15cm程度の石も含めて大部分の土砂が排砂でき、実用化に向けた機能の確認が行えました。(写真-3)


  これにより、この技術が大きな水位差でも適用できる技術となることが実証でき、ダムにたまった土砂を低コストで土砂供給(排砂)できる新たな技術が実用化目前に迫ったと考えます。今後、排砂の効率化やダムの運用に合わせた実装方法について検討していきます。また、この実験を行政機関や民間企業等の皆様、報道関係者にも見学いただいたことにより、吸引工法の有効性を発信することもできました。



(問い合わせ先 : 水理チーム)

日本海北部漁場における餌料培養礁の開発に向けた現地観測

図-1 餌料培養礁のイメージ図



図-2 人工漁礁と観測地点の配置

1.研究の目的

  近年、我が国の漁業生産量はピーク時の約4割まで減少しており、北海道周辺でも日本海北部漁場を回遊するスケトウダラ・ホッケ・カレイ等の魚種の資源量が著しく減少しています。この危機的状況を受けて、対象魚種の保護・増大を図るため、今までの沿岸域に加えて、水深の深い陸棚域等において、人工魚礁(人工的に造った魚の生息場所)を投入する取組みに対する期待は一層高まっています。

  一方、このような人工魚礁を、より水深の深い海域等に適用するためには、当該人工魚礁の効果を、より定性的・定量的に明らかにする必要があります。そこで、我々は、人工魚礁が、その役割の一つとして、魚の餌(プランクトンや底生生物)を増やす効果(餌料培養効果)があると推測し、対象魚種の資源量の増大を目的とした、魚の餌を増やすための「餌料培養礁(図-1)」の研究に取り組んでいます。ここでは、比較的水深の深い海域(水深90m程度)に投入されている人工魚礁及びその周辺域を対象とした現地観測について紹介します。

2.人工構造物が持つ餌料培養効果

  現在、現地観測を行っているのは、図-2に示す日本海北部漁場にある北海道利尻島の沖合約10kmの水深約90mに整備された人工魚礁です。人工構造物が底生生物(海底の泥の中に生息する生物)に与える影響を把握するため、人工魚礁の中心から約250mまでの範囲内に底生生物の観測地点A0~A5を設定し、採泥器により海底の泥を採取して底生生物の生物量を分析しました。また、特に潜水作業が困難な水深90mにおける試料採取に対処するため、採泥器を装着したROV(Remotely Operated Vehicle:遠隔操作型無人潜水機、図-3)を用いて、人工魚礁を構成する魚礁ブロックのごく近傍まで接近して底生生物の生息状況の把握を試みました。

  現地観測結果について、人工魚礁周辺の底生生物の生物量の分布を図-4に示します。人工魚礁のエリア内(図-2の同心円の中)を「魚礁区」、エリア外を「対照区」と定義した場合、魚礁区の方が対照区より生物量が高い傾向であるという結果でした。また、底生生物の分類では環形動物が全測点平均で約8割を占めていました。環形動物はカレイ等の重要餌料のひとつとされており、今回の観測結果は人工構造物の餌料培養効果が現れているものと考えられます。

図-3 採泥器付きROV 図-4 観測地点と底生生物の生物量

3.おわりに

  今後は、対象海域において、引き続きデータ収集を行うとともに、沖合に投入する人工魚礁による餌料培養のメカニズムを解明し、沖合に人工魚礁を設置する際の検討に活用しうる、人工魚礁の効果予測手法を提案していく予定です。



(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 水産土木チーム)