Updated; 2003-09-03 トップページ 第7回ワークショップ ワークショップ経歴 リンク お問い合わせ

George Leavesley(USGS) 深見 和彦(PWRI)

George Leavesley氏が以下のような流域システムのモデリングと、解析に関連したUSGSの活動を紹介した。

(1)地表水・地下水モデルの連結:流域モデルPRMS、1次元チャネル水力学的モデルDAFLOW、地下水モデルMODFLOWが、完全に統合利用するために連結された。

(2) 目的パラメータ推定:USGSは、様々な水文プロセスの概念化のための先験的パラメータ推定方法論を調査するために、Model Parameter Estimation Experiment (MOPEX:モデルパラメータ推定実験)プログラムに参加している。MOPEXはまた、IAHSのPrediction of Ungauged Basins (PUBS:水文データのない流域の予測)プログラムの構成要素のひとつでもある。

(3) 水マネジメント政策決定支援システム:この活動は、USGSと開拓局の流域河川システム・マネジメント・プログラム(WASMP)の元に共同で続けられている。この焦点は、水資源の課題における公正なバランスを達成するための意思決定支援システムの研究と開発および適用である。

(4) リモートセンシングデータの結合:USGSはアリゾナ大学、コロラド大学、NASA南西地区地球科学研究センターのLawrence Berkeley 研究所の共同研究者である。目的は、リモートセンシングデータの資源管理アプリケーションへの統合を検討することである。最初の検討は、河川流域マネジメントにおける積雪域と雪塊の等価水量リモートセンシングデータの利用を探求することである。

(5) 予測方法論:大気と水文モデルの連結はいくつかの空間スケールにおいて研究されている。MRF天気予測モデルからのダウンスケーリングは、コロラド川上流域での15日水文学的予測を行うのに使用されている。MM5ローカルスケール大気モデルからの動力学的なダウスケーリングはYampa川流域で調査されている。

(6) 改良された水文・生態系プロセスシミュレーション:USGSのWater, Energy, and Biogeochemical Budgets (WEBB:水・エネルギー・生物地球科学的収支)プログラムは流域における流路と水の滞留時間をよりよく定義し、モデル化するためにこれらのプロセスとその相互作用を調査している。アイソトープのトレーサーとしての利用は流路と水の滞留時間認識の手助けとなるための、WEBBプログラムの1つの局面である。この取組みとモジュラーモデリング枠組の利用における利益は、河川流域マネジメントにおけるアイソトープの使用について探求するための、International Atomic Energy Agency(国際原子力機関)との新しい研究活動の展開を促進してきた。

(7) 統合された解析と支援ツール:USGSは、Modular Modeling System (MMS:モジュラーモデリングシステム)と完全にオブジェクト指向のObject Modeling System (OMS:オブジェクトモデリングシステム)の統合のために、U.S. Agricultural Research Service(米国農業研究局)、U.S. Natural Resources Conservation Service(米国自然資源保全局)、ドイツ・Friedrich Schiller大学と共同で研究活動をしている。さらに大きな総合プログラムが、モデル、解析ツール、データベースの開発とシェアを促進するため、8つの米国政府機関の間で着手されてきた。参加機関は、USGS、Nuclear Regulatory Commission(原子力規制委員会)、Department of Energy(エネルギー省)、Environmental Protection Agency(環境保護局)、Army Corps of Engineers(陸軍工兵隊)、National Oceanic and Atmospheric Administration(米国海洋大気庁)、Agricultural Research Service(農業研究局)、Natural Resources Conservation Service(自然資源保全局)である。


深見氏は、本課題の目的=気候・水文環境の変化時における水文解析や予測の精度と信頼性を改善すること、を説明した上で、本課題に関連した土木研究所における以下の研究取り組みについて解説した。

1.人工衛星や航空機からのリモートセンシングを活用した効率的な流域環境モニタリング手法の応用

1.1 衛星搭載合成開口レーダ(SAR)による積雪水量(相当水量)分布の評価
 河川・ダム流域における雪由来の水資源を評価することを目的として、RADARSAT衛星搭載の能動型マイクロ波センサであるSARによる画像を活用した積雪水量空間分布逆推定手法についての研究を行った。対象地域は新潟県中越地方である。地上での積雪分布現地調査データをもとにして、逆推定アルゴリズムの検証を行い、湿雪が見られる平地域では、積雪層物理特性の変化に関係なく4段階程度に積雪水量を区分できることを明らかにした。

1.2 リモートセンシングによる流域規模での水理水文条件のモニタリング
 高解像度のリモートセンシングデータが河道状況やその物理環境のモニタリングに利用できるかどうかについて調査を行った。イコノス衛星画像は、河川構造物の監視には1m分解能では不十分であるものの、特に河道変遷調査には有効であった。ヘリコプター搭載のTLS(スリーラインセンサ)については、1)透明度の高い水面下を含めた地形データ取得、2)河川区域の視認調査、3)河床材料(レキ〜砂)調査等に有効であることが判明した。
 また、現在、文部科学省プロジェクトとして、リモートセンシングデータを用いたカンボジア国トンレサップ湖の水収支把握の研究を実施しているところである。

2.地理情報システム(GIS)を基盤とした分布定数型水文モデルの開発
 2種類のGIS基盤分布型モデルを開発した。一つは、長期流出解析を念頭に開発した概念的分布定数型水文モデル=改良型土研分布モデルである。本モデルは、蒸発散や浸透に関連する大気―地表面相互作用過程について物理的なスキームを用いており、土壌や植生の物理特性との関係付けが可能である。他の部分は、従来の概念的な土研分布モデルを用いている。もう一つの開発モデルは、物理的分布定数型水文モデル=WEHY(流域環境水文)モデルである。本モデルは、洪水予測・解析を念頭に、カリフォルニア大学デービス校カバース教授との共同研究により開発されたものであり、空間平均保存方程式を基礎式としている。両者のモデルとも、日本の山地森林域のダム流域において検証された。これらのモデルは、気候や流域環境(森林・土地利用・都市化等)の変化が河川流出特性に与える影響を評価するために有効であると期待される。

3.河川流況と地域気候・地形地質環境との関係
 2000年の東海豪雨のDAD関係を定量的に明らかにする研究を実施した。その結果、日本における様々な降雨の豪雨特性を定量的に比較し理解するとともに、可能最大洪水を評価するためのDAD特性に関する地域区分を改善していくために、DAD解析が有効であることを再確認できた。

最後に、野洲川を対象とした低水監理モデル開発研究について補足説明を行った。

両機関は、水資源マネジメントの目的のための水文モデリングと解析における共通の関心を共有している。ミーティングにおいて行われた討論を通して、以下の研究トピックスが、今後1、2年にわたって共同で研究する可能性のある分野であるとされた。

1) GIS解析を活用した流域での水文モデリングツールと方法を設置する。おもなニーズは、土地利用や気候の変動が水資源にもたらす影響を推測そして/または評価できるようにするために、既存の水文データベースに依存するのを避けることである。(PWRI-PWRI分布モデルなどのGISベースの水文モデルの開発; USGS- OMS-MMS-GIS Weaselシステムとマルチメディア環境モデル、MOPEXの開発)

2) 水不足による水闘争に直面している流域のためのテクニカルサポートの推進。 (PWRI-野洲川; USGS-Water2025)

3) 国際河川の水資源に関連した調査、解析、問題解決のための適切な方法の提案。(PWRI-メコン川研究; USGS-国際河川へのトレーサーの適用)

深見氏とLeavesley氏は、両機関が関心分野の共通の領域、特に上記の3つの項目において共同研究を推進するということで賛同した。共同研究は、情報と人材の交流を通し、成し遂げられる。例えば、PWRIが、OMS-MMS-GIS WeaselシステムをPWRI分布モデルへ組み込む計画を立てるなどである。


プレゼンテーション(PowerPointスライド;PDFファイル)

George Leavesley


プレゼンテーション(PowerPointスライド;PDFファイル)

Kazuhiko Fukami