土木研究所 構造物メンテナンス研究センター

「荒廃する日本」にしないための研究

~ 橋梁に関する臨床研究に挑戦します ~

アメリカでは、1930年代のニューディール政策により大量に建設された道路構造物に、その50年後、 1980年代になると、老朽化による崩落、損傷、通行止めが相次ぎ、「荒廃するアメリカ」と呼ばれる状況に陥りました。

わが国の土木構造物は、昭和30~40年代 (1955~75年) の高度成長期に大量に建設されました。そのため、建設後50年以上を経過した構造物が、今後飛躍的に増加します。既に、道路橋では、鋼部材の疲労、コンクリート部材の塩害、アルカリ骨材反応といった耐荷性能に重大な影響を与える損傷事例も増加しています。今、行動を起こさなければ「荒廃する日本」になりかねません。

CAESARは、臨床研究的なアプローチで問題の解決に挑みます。

検査技術・維持管理システム

構造物内部の状態を把握する非破壊検査技術、損傷の発生と進展を適時に効率的に検知する計測・モニタリング技術など、橋梁の状態を効率的かつ合理的に把握するための検査技術や、情報の蓄積・活用技術をはじめとする維持管理システムの研究に取り組んでいます。

健全性の予測・評価・診断技術

鋼部材の疲労等、高度な診断を必要とする損傷のメカニズム・挙動を解明し、部材の損傷が橋全体系の健全性に及ぼす影響を的確に評価し、最適な対策判断につなげるための研究に取り組んでいます。

補修・補強等対策技術

耐久性を向上させ長寿命化を図るために提案された補修補強技術が要求性能を満たすかどうかを検証する方法、個々の橋梁の状態・条件に即した適用性の判断、適用方法など、対策技術の標準化の研究に取り組んでいます。

臨床研究のフィードバック~維持管理しやすい橋への誘導

臨床研究を通して得られた経験、知見に基づいて、長寿命化を図るとともに維持管理しやすい橋の実現に向けて、橋梁構造の改善を図るための研究に取り組んでいます。

臨床研究

2013年年9月に改正道路法が施行され、道路の維持・修繕に関する取り組みの強化が図られました。また、道路法施行規則の一部を改正する省令が2014年3月31日に公布(7月1日施行)され、5年に1回の頻度における近接目視等が道路の点検基準として規定されました。2014年4月には社会資本整備審議会道路分科会建議、「道路の老朽化対策の本格実施に関する提言」がとりまとめられました。また、地方公共団体における円滑な点検の実施のための技術的助言として、2014年6月には「定期点検要領」が策定され、2014年9月には地方公共団体管理の老朽橋梁に「道路メンテナンス技術集団」が派遣され、全国3橋梁で直轄診断が施行されました。CAESARでは各地方整備局からの要請により技術指導の支援を実施しています。

このような流れを受け、道路橋の安全管理は、 点検 → 診断→ 措置→ 記録→ (次の点検) というメンテナンスサイクルの構築が不可欠です。点検とは、橋の状態を把握すること、劣化や損傷を発見すること、診断とはその程度を把握し、それに続く措置について判断することです。措置とは、交通規制を実施したり、補修などの対策をすることです。既設橋の劣化損傷・変状の要因は多岐にわたるので、実験室で再現するには限界があります。そこで、医学にならい、症例の蓄積、撤去橋解体例の蓄積、標本を用いた残存強度実験や補修・補強効果実験の蓄積、さらには、年代別の損傷形態を分析するなどの疫学的分析が必要です。このような、実際の橋を用いた一連の研究を、『臨床研究』と呼んでいます。

そこで、CAESARでは、国土交通省国土技術政策総合研究所とも連携しながら、道路管理者である国土交通省地方整備局や自治体と協力して、橋梁にセンサーを設置して、劣化や損傷の進展を観測したり、劣化や損傷が原因で撤去された橋の部材の収集を行っています。 そして、このような臨床研究で得られた最新の知見を、国や自治体への技術支援に惜しみなく投入して行きます。

臨床研究の展示物

臨床研究のために収集した撤去橋の部材を、土木研究所の屋外・屋内施設にて保管・展示しています。これらは、非破壊検査技術の性能検証フィールドとして提供しているほか、技術者の研修にも活用しています。また、研究所の公開にあわせて一般の方々にも見学いただいています。