土木研究所 構造物メンテナンス研究センター

高力ボルトの遅れ破壊が進む橋梁の診断

高力ボルトの遅れ破壊が進む橋梁の診断における留意点の一部を紹介します。

架設後約40年が経過した橋梁で、高力ボルトの破断が増加したため、高力ボルトの遅れ破壊の可能性が疑われました。この橋梁は供用年数が長い橋梁であるため、過去の一部の時期に導入されていた高力ボルト(F11T)が使用されていました。F11Tは遅れ破壊が生じやすい特徴があるため、現在では使用が禁止されています。

遅れ破壊の写真

ボルトの破断の原因について、遅れ破壊だけではなく、疲労の影響や特異な応力状態など他の要因もかかわっている場合、ボルトを交換した場合においても、再破断等の損傷が生じるおそれがあります。本橋の調査結果では、破断ボルトのほぼすべてが、遅れ破壊の特徴である脆性的な破壊を示していました。多様な損傷や劣化が生じている橋梁の場合、原因を決めつけずに、可能性のあるすべての要因との関わりを慎重に評価することが重要です。

対策時期を検討するため、過去のボルトの破断の発生数から破断の時系列を推定し、今後の脱落本数についての試算を行いました。その結果、2007年から2015年までに破断した本数は35本であり、それまでの20年間に破断した本数は40本であり、同程度となっています。今後は、急速に破断本数が増加して今後5年以内に設計計算上の応力を超過するおそれがあることがわかったため、進行性のある変状に対しては現状評価にとどまらず、過去の損傷経緯をできるだけ詳細に考慮した将来予測を行って、適切な対策方法や施工時期を早期に見極めることが重要です。

損傷ボルト累積数と年度

なお、本橋は平成27年度から、国による修繕代行として、東北地方整備局がボルトの全数交換を実施しました。

※遅れ破壊とは、高力ボルト締め付け時の導入ボルト軸力により静的な高い引張力が継続的に加えられている状態で、ある時間経過した後に、外見上ほとんど変形することなく、突然、ねじ部切欠きや腐食などの応力集中部から、脆性的な破壊を起こす現象です。

■詳しくはこちらへ
遅れ破壊が進むランガー橋の診断、土木技術資料、Vol.58、No.6、pp.58-59、2016.