研究成果の紹介

地すべりの動きをより的確に捉えるために 〜室内孔内傾斜計測定実験の紹介〜

            

平成20 年度岩手宮城内陸地震で発生した岩手県栗原市栗駒の荒砥沢[アラトザワ]の地すべり(6/15 撮影)

地すべり面の測定

解釈不能な測定を実験で再現

 地すべりは、山の斜面が大きな塊の状態で下の方にズルズルすべっていく現象です。地すべりの動きは、実は普段は目に見えないほどゆっくりですが、大雨や雪解け、そして右の写真のように地震によって広い範囲が何メートルも突然動き、家や田畑、道路や鉄道などに大きな被害を与えます。右写真は、地震で発生した地すべりの例です。
 地すべりによる被害を防ぐためには、地すべりが動かないような対策をする必要がありますが、適切な対策を行うためには、まず地すべりがどのくらいの深さで動いているかを知らなければなりません。その動きとは、地震や大雨で発生する突然の動きではなく、普段の目に見えないゆっくりな動きです。そして、大きな地すべりが発生する前に対策を立てることが重要です。
 そこで、地すべり土塊の上から鉛直にボーリングマシンで直径約9cm の穴をあけ、そこに直径約5cm の「測定管」を埋め、孔内傾斜計と呼ばれる測定器を測定管に挿入することで、測定管の曲がりを計ります。この曲がりの位置から、地すべりが動いている深さ(すべり面)が分かります。しかし、測定結果の中には実際の地すべりの動きとは考えられないものが出てくることがあります。測定結果に問題があれば、地すべりの深さを誤って判断して、不適切な地すべりの対策を行うことにもなりかねません。
 現在地すべりチームでは、このように解釈不能な測定結果の原因を明らかにするための研究を、民間企業3社と共同で進めています。その一環として、職場の階段を利用して地下1 階から8 階まで約30m に渡り測定管を固定し、測定管にかかる力の度合いの変化や、測定器が雑に扱われた場合におこる測定結果への影響を把握するための実験を行っています。
 7 月には、測定管と地すべり土塊の間に生じた隙間に向かって地盤が沈下する状態を室内で再現するために、測定管の一部の固定を緩めて、管の上部に最大約200kgのおもりを掛けてみました。その結果、測定管の固定を緩めた区間で、測定管が縦方向に歪んだような測定結果が得られました。このことから、測定管がきちんと地盤に固定されていないと、地すべりの動きと関係なく測定管が歪むことにより、解釈不能な測定結果を生ずることが分かりました。
 今後は、測定管と地盤の間に隙間ができないような測定管の設置方法を開発するとともに、解釈不能な計測結果を引き起こすと考えられる他の複数の原因を明らかにするための実験を進めていく予定です。



(問い合せ先:地すべりチーム)

インターネットによる地盤情報の提供 〜地盤情報の相互利用を目指して〜


電子国土Webシステムを利用した地盤情報の検索と閲覧

地盤情報検索サイトのメリット


ボーリング柱状図:
地盤の種類、強度、地下水位等がわかる

 土木工事の前には地盤のボーリング調査がおこなわれ、地盤の種類、強度だけでなく、地下水の位置等が調査されます。土木工事で調査したこれらの地盤情報は、地盤沈下や地盤汚染対策、地震の揺れの予測などに利用可能です。このため、地質チームでは、地盤情報を共有化する研究を行いました。
 土木研究所では、国土交通省および独立行政法人港湾空港技術研究所とともに、インターネット上で「国土地盤情報検索サイト (KuniJiban)」(http://www.kunijiban.pwri.go.jp)を運営し、ボーリング柱状図や土質試験結果一覧表等の地盤情報を無償で提供しています。これらの地盤情報は国土交通省の道路・河川事業等の地質・土質調査成果として得られたものです。土木研究所では、簡便に地盤情報を検索し閲覧できるように、電子国土Webシステムを利用し電子地図上にボーリング位置を表示するシステムを構築しました。これらにより、今後、国や自治体間等で効率的に地盤情報を交換することが容易となり、地盤調査の重複を防ぐことで社会資本整備の効率化を図ることや、環境保全や災害対策等に役立つことが期待されます。
 現在は試験提供の段階にあり、平成20年3月28日から関東地方整備局と九州地方整備局管内の約2万7千本のボーリング柱状図と土質試験結果一覧表を提供しています。平成20年度以降に他の地方整備局の地盤情報を順次公開する予定です。
 なお、本研究は、国土交通省における「地盤情報の集積および利活用に関する検討会」(委員長:小長井一男東京大学教授、平成19年3月)の提言「地盤情報の高度な利活用に向けて」や「国土交通省CALS/ECアクションプログラム2005」を受け、国土交通分野イノベーション推進大綱(平成19年5月)の国土交通地理空間情報プラットフォームの一環として取り組まれているほか、文部科学省の科学技術振興調整費【重要課題解決型研究】「統合化地下構造データベースの構築」の一部成果が利用されています。


(問い合わせ先:地質チーム)