研究成果の紹介

ホタテ貝殻を用いた港内浄化の取り組み


図-1 ホタテ貝殻礁による底質浄化のイメージ

写真-1 試験用ホタテ貝殻礁及び設置状況

スピオ科の1種(左)    コノハエビ(右)
写真-2 試験用ホタテ貝殻礁に蝟集した生物


@本体金網の組立     Aホタテ貝殻の投入

 B実用型貝殻礁の
完成
C実用型貝殻礁の
据付状況
 
写真-3 実用型ホタテ貝殻礁の製作・据付け状況

 近年、港湾・漁港では、泊地等を利用した水産物の蓄養が行われており、蓄養物の排泄物や残餌などの有機物が海底に堆積し、底質悪化が問題となっています。一方、北海道では、毎年約40万tのホタテ貝を生産していますが、その半分の約20万tのホタテ貝殻が水産廃棄物として発生しており、その対処法に苦慮しています。
 そこで、水産土木チームでは、港内の底質改善策として、ホタテ貝殻を有効利用した「ホタテ貝殻礁」を提案し、研究しています。ホタテ貝殻礁(以下、貝殻礁)は、ホタテ貝殻を金網カゴに充填したもので、海底に設置し底質改善を図るものです。貝殻礁の底質改善の仕組みは、貝殻礁に周辺の生物が高密度に生息し、生息する生物が底質に含まれる有機物を吸収することで、底質浄化します(図-1)。また、貝殻礁には、底質浄化機能を有するマナマコがある程度大きくまでの生育場所としての効果も期待できます。
 太平洋に面する北海道根室市の落石漁港に試験用の貝殻礁(0.2m×0.2m×0.5m)を設置し、底質改善効果を調査しました(写真-1)。その貝殻礁には、スピオ科の1種(写真-2左)などの堆積物を食べる環形動物や、コノハエビ(写真-2右)といった水中の浮遊物を食べる節足動物など、多種多様の生物の生息が確認されました。生息した生物個体数は、設置期間の経過に伴い増加し、設置から約7ヶ月で底質浄化が可能な量に達しました。このように、試験規模での、貝殻礁に集まった生物による底質改善効果が確認されました。また、貝殻礁同士が接触するように配置すると集まった生物の個体数が少なかったことから、海水に接する面積を大きくすることの重要性が分かりました。
 このことから、貝殻礁の実用化を図るため、製作や据付けに配慮すると共に、海水と接する面積が大きい貝殻礁を開発しました。 開発した実用型貝殻礁は、既製の石カゴ(2.0m×3.0m×0.5m)を用い、網目からの貝殻の抜けだし防止のために内側にネットを取り付けました。また、海水と接する面積を大きくする工夫として貝殻を詰めないために通水孔(直径0.3mの筒)を配置しました。通水孔は、0.5m間隔に2m幅に3列(4分割)、3m幅に5列(6分割)の15孔を配置しました(写真-3)。
 実用型貝殻礁の実証実験は、蓄養施設*が計画されている日本海に面する北海道松前町の江良漁港で開始したところです。今後は、実用型貝殻礁に集まることが期待されるマナマコを含む生物の底質改善効果及び蓄養施設の底質保全策としての効果の検証を進めていきます。

*蓄養:漁獲した魚介類を出荷調整のため生かしておくこと



(問い合わせ先:寒地土木研究所 水産土木チーム)

道路沿いの災害に関わる情報を地図で表す ―道路防災マップ―
 
〜 道路防災を効果的に実施するために 〜


図−1 斜面に潜む様々な災害要因

図−2 「道路防災マップ」の例
赤:対策が必要、緑:対策不要

 道路は全国各地の都市や集落を結び、人の活動を支える重要な社会基盤の1つであり、平野部だけでなく山地部にも道路網が延びています。しかし、地形が急峻で豪雨や地震なども多い日本では、斜面崩壊、落石、地すべりなどの自然災害により道路が塞がれたり通行者が被災することも多くあります。
 このため、道路を管理している国土交通省や都道府県などの機関は、自然災害から道路や通行者を守るための防災事業(点検・調査、対策工事、異常気象時の通行規制など)に日々努めています。
 道路防災事業を行うためには、どういう形態の災害がどこで起こりやすいか、またどの程度危険かを適切に知る必要があり、それを調べるための点検(「道路防災点検」と名付けられています)が5〜10年ごとに行われてきました。しかしながら、山間地では道路から眺めただけではわからない災害要因が道路上方の斜面に潜んでいることも多くあり(図−1)、実際にそういった道路上方の斜面からの崩壊や落石などによる災害も少なからず発生しています。
 そこで、地質チームでは、災害に対して的確な防災対策を行えるようにするため、斜面に潜んでいる災害要因を、空中写真や地形データから読み取ったり現地で確認調査を行ったりすることにより見つけ出し、それらの分布や危険度、道路への影響、対策工の状況など防災に関する情報を地図上でわかりやすくまとめることを提唱しています。図−2に示す例では、危険性を種類毎に記号と色分けで分かりやすく作成しました。
 また、地質チームは、このような地図を「道路防災マップ」(図−2)と名付け、その作成手順や調査方法を示したマニュアル案をまとめました。これらの考え方や方法は「道路防災点検」の要領に取り入れられ、国や自治体の防災事業で活用されています。



(問い合わせ先:地質チーム)

地すべりの移動量を測る!(その2)
 
〜 特殊な地すべり環境下でも使用可能な観測装置 〜


写真−1 流動化した地すべり
(澄川地すべり)

図−1 大変位伸縮計

図−2 音響式距離計測システム


図−3 無線式距離計測システム

 斜面の一部あるいは全部が地下水の影響と重力によってゆっくりと斜面下方に移動する現象を「地すべり」と呼んでいます。
 地すべり災害現場では、警戒避難や応急対策などを検討する上で、土塊の動きを捉えた計測データによる判断が重要視されています。しかし、立ち入りが困難な地すべりや移動量の大きい地すべり、地すべり土塊がぬかるみ、流動化し、到達範囲の予測が難しい地すべりは特殊であるため、適切・迅速に計測する技術は確立されていませんでした。
 そこで、このような特殊な地すべり環境下でも使用可能な6種類の観測装置を開発しました。
 前回より2回シリーズで掲載しており、今回は「地すべりの移動量を測る装置」を紹介します。

1.地すべりの移動量を計測するシステム
1.1大変位伸縮計
 地すべりの移動量を調べるため、亀裂を挟んでインバー線と呼ばれるワイヤを設置し、ワイヤの伸びる量を計測する方法があります。
 これまでの計測機器は、移動量(移動速度)の大きな地すべりでは、短期間に測定範囲を超えるという課題がありました。そこで、インバー線に張力を与えるばねを改良して6mまでの移動量を計測出来るようにしました(図−1)。
 この計測機器より、地すべりの移動量が大きくなることが予想される現場での地すべりの移動量を欠測なく連続的に計測できるようになりました。

1.2音響式距離計測システム
 地すべりが活発に動いている場合、立ち入ると危険があるため、センサを設置できないという課題がありました。
 そこで、地すべり土塊内にラジコンヘリから音を発するセンサ(音源センサ)を投下することにより設置し、それが発する音波を地すべり地の外に設置したマイクで受信して、その音波の到達時間から音源センサまでの距離を計測するシステムを開発しました(図−2)。
 この計測システムにより立ち入りが困難な、動きが大きな地すべりでも計測ができるようになりました。

1.3無線式距離計測システム
 計測機器が地すべり土塊に埋まると、計測が出来なくなるという課題がありました。そこで、土や水の被覆による影響を受けにくい、低周波(約1kHz)の電波を利用することにより、センサと受信アンテナ間の距離を計測するシステムを開発しました(図−3)。
 この計測システムによりセンサが地すべり土塊に埋まっても地すべり移動量(距離)を連続的に計測できるようになりました。



(問い合わせ先:地すべりチーム)