研究の紹介

泥炭農地における長期の排水効果と耐久性を確認
 〜泥炭農地に施工したホタテ貝殻をフィルターに使用した暗渠効果の検証〜


ホタテ貝殻暗渠の断面

施工11年目のホタテ貝殻疎水材

 北海道には、泥炭土という土が広く分布しています。寒い地方に分布する泥炭土は、湿原の湿性植物が、気温が低いために枯れても分解せず、湿性植物の遺体が徐々に堆積して形成された土です。元々湿原だったところに形成される土なので、地下水位が高く、農地として利用するには、余計な水を排水して、地下水位を下げることが必要です。
 農地の地下水位を下げるためには、暗渠(あんきょ)と呼ばれる排水システムの施工が行われます。昔のこの工事では、1m程度の深さで土が線状に掘り上げられ、暗渠管と呼ばれる排水管が敷設され、その上に掘り上げた土を埋め戻す方法が一般的でした。しかし、この工法では短期間で排水不良となることがあるため、最近では疎水材型暗渠という工法が主流になってきました。この工法では掘り上げた土を埋め戻す代わりに、疎水材と呼ばれる水はけのよいフィルターが埋められた後、その上に表土が埋め戻されます。
 しかし、最近になって普及してきた工法であるため、疎水材の耐久性がどの程度あるのか分からず、合理的な暗渠の更新のためには、疎水材の耐久性を明らかにする必要がありました。
 そこで、寒地土木研究所では、道北地方やオホーツク海沿いのホタテの養殖が盛んな地域で大量に発生する、ホタテ貝殻を疎水材に使った暗渠の耐用年数を明らかにするため、定期的に同じ場所で調査を行っています。その結果、施工後11年を経過しても、十分な排水がなされ、ホタテ貝殻も泥炭土特有の酸性の強い水で溶けて無くなったり、砕けたりしていないことが確かめられました。寒地土木研究所では今後とも、同じ場所での調査を継続し、ホタテ貝殻暗渠の疎水材としての耐用年数を明らかにし、ホタテ貝殻暗渠の合理的更新のための技術指針を策定する予定です。



問い合わせ先:寒地土木研究所 資源保全チーム

土の中の水の流れにより土が破壊されるメカニズムを解明して安全なダムを造る
 〜様々な条件で試験が可能な室内大型浸透破壊試験機の開発と、浸透破壊のメカニズムの研究〜


ティートンダムの決壊

開発した様々な条件で試験が可能な
室内大型浸透破壊試験機

室内試験により浸透破壊が発生した土

 洪水から生命・資産を守るために、ダムや堤防などが造られています。堤防は基本的に土により造られており、またダムの中には土で造られたフィルダムという種類のダムがあります。フィルダムは水を貯めているため常時その中には水が流れており、洪水の時には堤防の中に水が流れます。フィルダムや堤防の中の水の流れ(浸透流)により、時にはフィルダムや堤防が破壊することがあり、この現象を浸透破壊といいます。
 浸透破壊が世界的に有名になったきっかけは1976年のアメリカのティートンダムの決壊です。ティートンダムの決壊は、ダムの基礎岩盤の止水処理が不十分であったことが主な原因と考えられていますが、ティートンダムの決壊以降、土や岩盤の中の水の流れに起因する浸透破壊の研究が多くの研究者・技術者により行われてきました。しかし、土や岩盤の中の水の流れを直接見ることはできないため、どのようなメカニズムで浸透破壊が発生するのか、またどのような条件で浸透破壊が発生するのかは十分には解明されていません。
 浸透破壊に対して安全なダムや堤防を造るためには、浸透破壊のメカニズムや発生条件の解明が不可欠です。しかし、実際のダムや堤防を使って浸透破壊の実験をするとダムや堤防を破壊することになるので、実際のダムや堤防を使った浸透破壊の実験は困難です。そのため、実際のダムや堤防の状態を適切に再現した室内試験による検討が重要になります。そこで我々は、様々な条件で試験が可能な室内大型浸透破壊試験機を開発し、浸透破壊が発生するメカニズムや発生条件の研究を行っています。
 これまで実施した試験結果によると、現在のフィルダムの施工基準で土を十分に締め固めてダムを造れば、通常のダムの水位変化速度では、浸透破壊は発生しないことがわかりました。一方、現在のフィルダムの施工基準よりも締め固めが不十分な土の試験では、浸透破壊が発生しました。このように、ダムや堤防に浸透破壊を発生させないためには、ダムや堤防の材料の土をしっかりと締め固めることが重要と考えられます。もちろん、その前提として、適切な土を使って造ること、ダムの基礎岩盤の止水処理を確実に行うことなども重要です。今後も様々な条件で試験を行い、研究を進める予定です。



問い合わせ先:ダム構造物チーム

      

コンクリート構造物の品質評価に向けた取り組み
 〜電気泳動を用いた透過性の迅速試験〜


図−1 付着した塩分がコンクリートに浸透

図−2 電気泳動を利用して、
塩分の浸透しやすさを試験

図−3 試験結果を検査する方法

図−4 試験結果:
下の方が塩分が浸透しにくいコンクリート

 橋やトンネル、擁壁など、コンクリート構造物は我々の生活を基本で支えている頼もしい社会資本です。いつまでも永遠に使い続けられるものと考えがちですが、場合によっては劣化が発生し、補修や補強を必要とする状況になることもあります。特に、図−1に模式図を示すように、コンクリートの表面から塩分が浸透し、浸透した塩分によってコンクリート中の鉄筋が腐食する「塩害」は、構造物にとって重大な損傷につながるもので、要注意です。なるべく塩分の浸透しにくいコンクリートが望まれます。そして、コンクリートの塩分浸透性を迅速に測定することができれば、品質評価の目安にすることができます。

<試験方法開発の必要性>
 それでは、コンクリートの塩分の浸透のしやすさはどのように測ればよいのでしょうか。一見すると、何も通さないように見えるコンクリートですが、実は非常に小さな目に見えない空隙が存在します。その空隙を通して、少しずつ塩化物イオンなどが浸透します。単に食塩水中に浸漬するだけでも、コンクリート中に塩化物イオンは浸透します。しかしこのような単純な方法では結果を得るために1年以上待たなければならず、より迅速に結果の得られる試験方法が求められています。土木研究所基礎材料チームでは、電気泳動を用いた方法の開発に着手しました。

<試験の原理>
 原理は、図−2に示したとおり円柱形のコンクリートの試験体の両側に塩化ナトリウムと水酸化ナトリウムの水溶液を充填します。そして電極を設置し直流の一定電圧を加えます。陰イオンである塩化物イオンは、電気の力によって陽極に向かってコンクリート中を移動(電気泳動)します。所定時間通電した後、試験体を取り出し、図−3のように試験体を半分に割り、この割裂面に満遍なく硝酸銀溶液を噴霧します。すると、塩化物イオンが浸透したところは、銀イオンと塩化物イオンの反応により白く変色します。図−4に示すようにコンクリートの品質の良否によって浸透深さが変わります。当チームでは、この新たな試験方法の実用化をめざし、さらなる試験データの蓄積を行っています。



問い合わせ先:基礎材料チーム

資源循環型の緑化工法の推進
 〜すき取り物をそのまま利用して緑を創ろう〜


図1 すき取り物の活用

図2 すき取り物の活用による効果

写真1 すき取り物の張付け

写真2 施工後の緑の回復状況
(10ヶ月後)

すき取り物とは?
 すき取り物とは、表面の雑草ごとはぎ取った表土のことです。すき取り物は、土と混ぜて盛土の底部に使われることもありましたが、ほとんどの場合使わずに処分場まで運ばれ捨てられてきました。

すき取り物の利用メリット
 盛土は土でできているため、雨がしみ込むと弱くなります。盛土を雨から保護するために盛土の斜面に芝生を植えるのが一般的です。一方、すき取り物には種子や根が大量に含まれています。したがって、すき取り物をそのまま盛土の斜面に張り付けて斜面を植物で覆うようにできれば、すき取り物を処分する費用や処分場までの運搬費用、緑化材料を購入する費用が不要となり、CO2排出量や工事費のコスト削減が可能となります。さらに、すき取り物に含まれる種子や根はもともとその場所に生えていた植物のものですから、すき取り物を資源として有効活用することは、在来種(ざいらいしゅ)による資源循環型の緑化といえます。工事による生態系への影響を小さくできます。
 そこで、すき取り物を緑化材料として利用するための技術について、北海道の各地の道路の斜面で試験を行い生育状況を観察し、すき取り物による緑化の効果について検討しました。その結果、すき取り物は、盛土の土の性質、すき取り物の種類、施工する時期にかかわらず緑化材料として利用でき、大幅なコスト削減ができることがわかりました。すき取り物による緑化は、平成20年度から国土交通省北海道開発局の標準工法となりました。

すき取り物のさらなる活用
 すき取り物は、緑化資源として効果があることがわかりましたが、一つの工事で大量に発生するわけではないので、すき取り物を有効活用できる面積は限られてしまいます。そこで、道路の斜面に張り付ける厚さを薄くすれば、施工面積を広げることができます。現在、通常30cmとしていた厚さをもっと薄くした試験調査を行っています。現地条件にもよりますが、厚さを10cm程度にしても効果がありそうです。
 今後、さらにデータを収集・分析して生育状況、耐久性を検証し、すき取り物による緑化工法の効率的な施工法の提案を行う予定です。さらに、すき取り物による緑化は非常に生育状況が良いので(良すぎる面もある)、適度な生育に抑制するような手法を検討し、維持管理の省力化を目指します。


問い合わせ先:寒地土木研究所 寒地地盤チーム