編集委員

独立行政法人 土木研究所 Webマガジン 編集委員
広報幹事会 (つくば) ; 幹事長 : 和田 一範  代表幹事 : 青木 栄治
         森木 晴美 鑓溝 敏雄 近藤 益央 菊地 稔
         幹事 : 佐藤 仁昭 山梨 高裕 鎌倉 亮 綾部 孝之 長屋 優子
         樋口 貴也 加藤 俊二 傳田 正利 坂本 博紀 清水 武志 砂金 伸治
         清水 孝一 上仙 靖
         (寒地土研) ; 幹事長 : 吉井 厚志  幹事 : 太田 広 森 智
         二宮 嘉朗 高橋 守人 許士 裕恭 浅野 基樹 秀島 好昭 大内 幸則


編集後記
 今年1月に宮崎県の新燃岳が噴火し、土木研究所からも国土交通省九州地方整備局の要請に応じて、研究者が現地に派遣され、マスコミから色々インタビューを受けています。一方、超大型サイクロン「ヤシ」の被害を受けたオーストラリアでは、地元の州警察がFace・Bookを通じて避難を呼びかけたそうです。F・Bは映画化もされており、日本ではF・Bはそれほど普及していないにも関わらず、中東では、F・Bが政治にも影響を及ぼしています。顔と実名を公開する人のネットワーク化は何を意味しているのでしょう。
 2005年にノーベル経済学賞を受賞したトーマス・シェリングの「紛争の戦略−ゲーム理論のエッセンス」(勁草書房)を読むと、ゲームの理論の応用により、国際関係から人間関係まで、様々な国家や個人の行為が合理的に説明できるようになり、人や国家の態度をみる際の新たな視点を与えてくれます。ゴミを路上に捨てる人やルールを守らない人たちは、よくモラルの問題として扱われていますが、それをゲームの理論として見ると戦略の問題となります。制度等の変更をすると、彼らは戦略の変更を通じて態度を改めることがあります。社会的問題は技術的問題と異なり、解決方法がわかっていても、どう実行するかが課題となっています。
 協力か非協力かというゲームで、協力し合ったほうが全体の効用が高まる場合であっても、短期的視点により非協力の人もいれば、みんなが協力するなら自分も協力するという人もいます。ほぼ全員が非協力の状態だと、1人が友愛に基づく協力をしても相手に利用されるだけなので注意が必要です。そこで、1人ではなく、応報戦略をとるチームが進入すると、日和見主義者に影響を与えて協力的な集団になっていくという研究成果があります。映画「エクソシスト2」(1977年)で、コクモが凶悪なイナゴに影響を受けない「良いイナゴ」を開発し、その子孫を増やすことでイナゴをおとなしくさせる研究をしていましたが、それを彷彿させます。
 昨年11月に札幌で行われた講演会で、北海道立総合研究機構の丹保理事長は「近代」について述べられておりました。哲学や社会学による近代の定義は、宗教や身分制度からの個人の解放(個人主義)です。人々は個人として尊厳されるので、個人のモラルに踏み込むことはできません。イナゴは翼をこすり合わせることでネットワーク化されていますが、人間社会ではまだネットワーク化されていません。しかし、すでに諸問題に対する対策が研究されているなら、近代化でバラバラになった個人が、後近代においてフェイスブックなどのネットワークを通じて繋がると、様々な国際的・社会的問題の解決もそう遠くない将来起こりそうな気がします。
(佐藤 仁昭)