研究の紹介

温暖化が進めば雪崩の心配はしなくても良いか?



写真1 積雪に人工的に雨を降らせ、雨が徐々に浸透する様子を観測しています(観察しやすくするため、雨を降らせる前に青インクで表面を着色している。雨は青インクとともに雪に浸透する)

写真2 実験棟ではマイナス30℃まで冷やして極低温の状態をつくることができます。今回は“幸い”そこまで寒くしません。

 温暖化が進めば雪が少なくなるだろうから、雪崩の心配はもうしなくても良いではないか。
 そんなことはありません、という視点で現在雪崩・地すべり研究センターで行っている研究の一部をご紹介します。

「猛暑」のち「大雪」
 確かに、30年前と比較すると雪国の最深積雪が減少してきていますが、社会への影響は雪の総量だけでなくその降り方にも左右されます。気候変化による気温の上昇は気象現象のブレ幅を大きくさせ、突発的な大雪を降らせる原因となりうる、またこれまで雪が降っていた春先に雨が降ることが多くなる、と指摘する研究者もいます

温暖化の進行を想定した雪崩の研究
 昨年4月から始まっている研究は、「温暖化がこのまま進めば春先の雨が降り始めるタイミングが早まる」「山の斜面に雪がまだ大量にある時に雨が降れば発生する雪崩の特徴も変化してくるのではないか」「雪崩の特徴が変わってくれば、災害への備えもこれまでの経験だけでは不十分ではないか」という視点のもとで進められています。
 研究は、土木研究所の雪崩・地すべり研究センター(新潟県妙高市)と雪氷チーム(北海道札幌市)、防災科学研究所の雪氷防災研究センター新庄支所(山形県新庄市)の3者が共同で実施しており、今年度は室内実験を中心にデータを集めています。
 雪氷防災研究センターには雪に関する世界最大規模の実験棟があり、天然の雪に近い結晶の形で人工雪を降らせる装置を備えた施設は世界中でここだけです。今回の実験では、「気温が0℃付近で雨が雪にしみこむ」状態を人工的につくり、その時の雪の密度や温度を計測して雪の強度との関連性を見つけ、最終的には今より温暖化した環境下で雪崩が発生する条件を整理しようとしています(写真1,2)。



問い合わせ先:雪崩・地すべり研究センター

完成後のトンネルに変状を発生させる地質とその対応に関する研究
 〜 安全・安心なトンネルを目指して 〜


道路面の持ち上がりを直す工事が必要となる

岩石を水に浸けた場合の変化
上:水に浸す前の状態
下:水に浸して1時間後に崩れている状態

岩石の経年劣化の様子
上:採取した直後の状態
下:採取から4年半経過した状態

 北海道や東北地方には、切土や掘削などの土木工事により岩盤の応力状態や地下水の分布などを変化させると急速に劣化する岩石が広く分布しています。
 このような場所でトンネルを建設すると、建設時には問題がなくても、数ヶ月後や数年後にトンネルの壁面にひびが入ったり、トンネル内の道路面が持ち上がる(右上の図)などの変状が発生する場合があり、ひどい場合にはトンネルを安全に通行することができなくなります。このような現象が発生すると、補修や対策に多大な費用がかかり、トンネルは通行止めとなって地域の交通が不便となるなど、地域・社会の利便性や経済に大きな影響を与えることとなります。
 実際のトンネル建設では、このようなことを避けるため、問題のありそうな岩石に出合うと岩石試験をしたり(浸水度崩壊試験:右中の写真)、岩石中の粘土鉱物の状態を調べたりするなど岩石の劣化分析を行うとともに、より頑丈な構造でトンネルを造るなどの工夫を行っています。しかし、このような調査・対策を行っても、岩石の性質が原因で完成後にトンネルに変状が発生するケースを完全に回避できていないのが現状です。
 寒地土木研究所防災地質チームでは、このような完成後のトンネルの変状をなくすため、変状現象が発生したトンネルの事例を分析したり、数年後に岩石が膨れ上がっている状態をボーリング調査(地盤をくり抜いて実際の岩石を調べる方法)で採取された岩石を調べたりしています。現在までに、見た目は同じでも劣化の著しい岩石とそうでない岩石が混在する場合があることを確認しました(右下の写真)。
 これは、地盤内で受けていた力が解放されたこと(応力解放)や、もともと岩石を膨らませる粘土鉱物が存在し、水と空気に触れたことで劣化が進むこと(スレーキング)などが複雑に関係しているためと考えています。
 今後は、このような中〜長期的に劣化が進行する岩石を見つけ出す方法やその場合、どのようにトンネルを構築するのかについて研究を進めていく予定です。



問い合わせ先:寒地土木研究所 防災地質チーム

土砂供給は河床に繁茂する付着藻類にどのような影響を与えるのでしょうか?


(左)ダム上流区間      (右)ダムの直ぐ下流
ダム下流は砂が少ない

(左)重機による砂供給      (右)砂の供給後
土砂供給実験の様子

砂供給の有無による光合成の差
(砂が供給された方が、藻類の酸素発生が小さい)

 ダム直下流では土砂供給量の減少に伴い砂や小礫が河床から消失し、大礫・巨礫が河床表層を覆う「粗粒化」が生じることがあります。また、このような河床材料の粒度組成の変化は水生生物に様々な影響を及ぼすことが知られています。土砂バイパスや土砂還元(置き土)による砂・小礫(以下、砂等)の供給は下流の河床環境を改善する手法として注目されていますが、自然状態の洪水とは異なるタイミングで砂等がダム下流区間に供給される場合には、供給された砂等が河床に堆積し、水生生物に影響を及ぼす可能性もあります。
 自然共生研究センターでは、土砂供給が河床に依存する水生生物に及ぼす影響を解明するために、2本の実験河川の河床表層を大礫に置き換え、1本の河川にのみ砂を供給して、砂供給の有無が水生生物に及ぼす影響を明らかにしています。昨年夏に実施した実験では河床に繁茂する付着藻類の生産力が砂供給の有無やその量によりどのように変化するかを明らかにしました。砂供給有りの場合は無い場合と比較して付着藻類の一次生産力が明らかに小さく、砂供給が付着藻類の繁茂を抑制する効果が明らかになっています。
 今後、これらの実験結果を基に砂供給の効果を加味した付着藻類の現存量モデルを構築し、土砂供給の影響を定量的に評価するツールとして発展させて行きます。なお、次年度以降の実験等のスケジュールについては自然共生研究センターHPに随時掲載しますので、ご確認下さい。



問い合わせ先:自然共生研究センター