研究の紹介

実大試験体を用いた防食塗料の施工試験


塗料のたれ


鋼材表面の結露

施工試験の状況
(鋼材表面にセンサを貼り付け、温度・湿度等のデータを収集している)

塗装試験後の模擬試験桁
(写真は塗膜の付着強度や光沢などを調査しているところ)

 橋梁や水門は国民の生活に欠かせない重要な構造物であり、適切な維持管理が求められます。これらの構造物の多くには鋼材が使用されていることから、鋼材の腐食(さび)を防ぐための対策(防食対策)が必要です。現在、橋梁や水門の防食対策として最も広く利用されているのは、塗装による方法です。
 しかし、いくら優れた塗料を使ったとしても、その塗料に合った適切な環境で、適切な施工を行わなければ、塗料が持っている本来の性能や外観を十分に発揮させることができず、これが原因で期待よりも早く塗り替えが必要になってしまうこともあります。たとえば塗装時の気温が低い場合、塗料の乾燥が遅くなり「たれ(塗料が垂れ下がった状態)」が発生してしまったり、塗料の粘度が上昇して大面積の塗装が困難になったりします。湿度が高い場合には結露が生じやすく、結露した面に塗料を塗ると塗膜はく離の原因になったり、水分が塗料中に混入し仕上がり不良の原因になったりもします。
 特に新しく開発される塗料は、従来の塗料とは性状が大きく異なる場合もあり、実際の構造物に適用する前に、試験的な施工を繰り返し行い、その塗料の特徴や施工上の留意点を十分に把握しておくことが重要です。
 そこで、土木研究所では静岡県富士宮市(土木研究所朝霧環境材料観測施設、標高が高く一年を通じて冷涼な気候)や沖縄県大宜味村(沖縄建設材料耐久性試験施設、亜熱帯性の気候であり海岸部に位置している)などの特徴的な環境で、開発されつつある新しい塗料の施工試験を行っています。ここでは、実際の橋梁を模擬した大型の試験体を使って試験をします。これは、実際の構造物は様々な形状の部材を組み合わせて作られており、溶接やボルト接合部などの凹凸や、塗装しにくい狭い箇所などがあり、単純な平板を塗装する場合と比べて、作業のし易さや作業にかかる時間が大きく異なるためです。また、構造物の形状によっては湿気がこもり易かったり、部材によって表面温度が異なったりしますので、できるだけ実際の構造物に近い形状や面積で試験してみることが重要になるのです。
 塗装の施工試験では気温、湿度、鋼材の表面温度、塗料の温度や粘度、塗装作業性や塗着性、塗料の乾燥性や仕上がり外観、部材形状の影響など、様々なデータを収集します。また、塗装完了後の試験体を自然気象条件(日光や風雨など)のもとに長期間(10〜15年程度)暴露し、塗料の耐久性の確認もします。この様にして得られた知見をもとに、材料の改良や開発、施工基準などの検討を進めています。


(問い合わせ先:新材料チーム)

すべりを測って散布する
 〜 より適確な凍結防止剤散布のために 〜


札幌市内中心部の路面凍結状況

凍結防止剤散布作業状況
(車両後方へ放射状に放出されている白い粒が凍結防止剤)

凍結防止剤散布車へ搭載したCFT
(中央のタイヤが路面のすべりを検出する)

 1990年に「スパイクタイヤ粉じんの発生の防止に関する法律」が施行され、スパイクタイヤの使用が規制されました。それ以降、北海道のような積雪寒冷地では「つるつる路面」と呼ばれる非常にすべりやすい路面が頻繁に出現するようになり、渋滞や交通事故の要因となっています。この対策として、道路管理者は凍結防止剤散布車による凍結防止剤(※1)や防滑材(※2)の散布を実施していますが、過剰な散布による維持管理コストの増大や環境への負荷などが懸念されます。
 凍結防止剤や防滑材の散布方法には、凍結路面が発生する前に凍結が予測される箇所に散布する「事前散布」と、凍結した路面に散布する「事後散布」があります。この内「事後散布」における散布実施の判断は、道路巡回員の目視や凍結防止剤散布車の操作を行うオペレータの目視及び経験に頼っていますが、実際の路面では、すべりやすいかどうか判別しにくい箇所が存在するため、「凍結箇所の見落とし」や「凍結していない箇所への散布」の可能性があります。
 そこで寒地機械技術チームでは、凍結防止剤散布車に、連続的に路面のすべりやすさを計測する「連続路面すべり抵抗値測定装置(CFT:Continuous Friction Tester)」を搭載し、走行中の路面のすべりやすさを数値化して把握することで、より適確かつ迅速に散布作業を行うための技術の開発を行っています。
 平成22年度は、北海道深川市の国道で、実際に散布作業を行っている凍結防止剤散布車を使って、目視判断により散布した位置と路面のすべりやすさを計測しました。これらのデータを分析することで「散布している箇所はどれだけすべりやすいのか。」、「本当に散布を必要としている箇所はどこなのか。」などを明らかにすることができると考えています。
 今後はこれらの現地試験を進めると同時に、すべりやすい路面を検出した場合に自動的に散布を行うシステムの開発に向けて検討及び試験を行っていく予定です。
※1:主に塩などで、水の凝固点を下げ凍結しにくくする効果をもつ。
※2:主に砕石や砂などで、凍結路面上に散布することで滑り止め効果をもつ。



問い合わせ先:寒地土木研究所 寒地機械技術チーム