研究内容
水工チームでは以下の調査・研究を行っています。
1. ダム堤体付近の土砂を洪水時に下流に排出する技術
(SIPⅢ期スマートインフラマネジメントシステムの構築サブ課題A革新的な建設生産プロセスの構築)
ダムは流水を堰き止める機能を有していますが、同時に流水に含まれている土砂も堰き止めてしまうため、必ず堆砂が生じます。ダムにおける堆砂は、貯水や貯留機能に対して負の影響のみを及ぼすことから、ダムの計画・設計においては、予め100年分の堆砂量を想定した堆砂容量を確保し、管理移行後の堆砂対策を不要とさせる考え方を基本としています。一方、管理移行したダムが増加するに従い、堆砂量が想定を上回るダムや、大規模出水で堆砂容量を一気に消費してしまうダムの事例が昨今見受けられるようになってきました。これらダムでは、緊急的な浚渫や土砂バイパストンネルの整備などの対応が始められているところですが、従前の「堆砂対策を不要」とする考え方の弊害として、根本的な解決策が見いだせていないのが現状です。このため、持続性の低い後手の対処療法となっている点は否めません。特に近年では、取水口やゲート周辺への堆積や閉塞によって、ダム機能が喪失する事例も生じ始めていており、堆砂に対する技術開発は、ダム管理における喫緊の課題となっています。
また、ダム貯水池から除去した堆砂を域外搬出する場合、含有成分次第によっては産業廃棄物として扱われ、膨大な処理費用を必要とする可能性があります。このような事情を鑑みれば、可能な限り洪水による流体力を活用して、堆砂を下流に排出する手法が望ましいと言えます。そこで、本研究では以下の2点を技術開発目標として掲げ、実証ダムを具体の対象とした机上設計・検討・比較に基づく、低コストで安全な新たな堆砂移送方法の検討と開発を行っています。
- 洪水中において遠隔操作により堤体付近の土砂を浚渫・排出する方法の開発
- 排砂による下流河道における環境上の負荷を抑えるための運用方法の開発
2. 模型実験と数値解析を併用したベストミックスによるダム水理設計に関する検討
近年の流域治水への転換の中で、ダム再生等の既設ダムの有効活用を加速する必要性が高まっていますが、ダム再生事業では新規建設に比べ、地形・構造・運用面で現場制約条件が複雑です。そのため、洪水吐き(減勢工含む)配置が難しく、施工段階毎の形状を考える必要もあるなど、検討項目が多く、水理設計の技術的難易度がより高まっています。
我が国では水理設計の際に原則水理模型実験が必須とされていますが、従来の実験を主とした水理設計では、ダム再生等に対して検討が難しく、今後は時間・コスト面で効率的な手法を構築していくことが不可欠です。本研究では、ダムの設計効率化・最適化によるダム事業への貢献を目指して、実験と数値解析のベストミックスによるダム水理設計手法の効率化(時間・コスト)を図ります。
3. 新たな展開に貢献できる既存ダム・貯水池の能力評価技術の開発
気候変動による水災害の激甚化・頻発化等を踏まえたダム、河川の適応策の検討が必要となってきています。流域治水においても流域全体でのあらゆる関係者が協同する総力戦が唱えられています。
本研究では、気候変動の影響を踏まえ、ダム・貯水池の能力限界評価や対策検討を行います。
4. 現場事務所等からの受託研究および技術指導
河川構造物は、ほぼ自然状態の地盤の上に建設される場合が多く、日常的な流水の作用に加え、出水時には極端に大きな力を受けることとなります。特に、構造物周辺に生じた地形変化は、構造物に作用する力を極端に変化させることもあり、単純な解析のみでは妥当な結果を得られない場合があります。さらに、社会システムとのかかわりの中で維持・管理されてきた施設も多く、総合的な視点からその解決策を検討することが求められています。
国土交通省が建設・管理するような大きなダムでは、計画・設計・施工時の合理化によるコスト縮減効果は大きくなります。放流設備においても実績のある標準的な設計形状に囚われずに、各ダム固有の条件下でより合理的な放流設備を、その効果と安全性を確認しながら計画・設計することが求められています。また、堆砂対策や放流音対策についても個別ダムにおいて検討が求められています。
上記のような課題について、現場事務所等からの要請により受託研究および技術指導を実施しています。
5. 河川洗掘に対応した橋梁下部構造の予防保全型メンテナンスに関する研究
河道保全研究グループ河道研究部門※にて実施
6. 外力増大と多様な流況変化に伴う土砂流下増大による河川構造物の機能確保に関する研究
河道保全研究グループ河道研究部門※にて実施
7. 河道二極化対策に資する河床変動計算法とモニタリング手法の開発
河道保全研究グループ河道研究部門※にて実施