研究テーマ

 河道監視・水文チームの研究テーマを紹介しております。

 

河道監視・水文チーム 研究テーマ
★ チームの目的  

 河道監視・水文チームは、流域の雨量や河川の水位・流量・土砂輸送などの観測技術と、得られたデータを解析して流域全体の水・土砂の動きを把握する手法を研究しています。それらを通して、治水・利水・環境のバランスのとれたより良い河道計画・流域管理に貢献することを目標としています。 具体的には、以下のようなことに取り組んでいます(クリックで詳しい説明を表示します)

① 研究テーマ1:流量観測の無人化・リアルタイム化に関する研究  
② 研究テーマ2:流域・河道特性・土砂移動を考慮した洪水流把握技術に関する研究    
③ マニュアル作成公開 
④ 流速計検定の受託  
⑤ 特許など  
⑥ 技術指導
⑦ 国際貢献
⑧ 使っている技術
⑨ チームの日常

1. 研究テーマ1 

洪水時の流量観測をより安全・確実・高精度に
~流量観測の無人化・リアルタイム化に関する研究~

実装中:電波流速計による非接触化・無人

 洪水時の流量観測は、河川の治水計画を立てるのに必須の大変重要な情報です。 
日本の川は、雨の多さと流域の小ささから流量が急激に増加すること、平常時と洪水時の流量の差が大きいこと、流木やゴミの多さ、などの理由で機器を用いた観測が難しいため、これまで、浮子を用いて5人1組を基本として実施されてきました。 しかし、  

〇 技術者の減少・高齢化に伴い観測体制確保が困難。  
〇 洪水大規模化・局地的豪雨の多発を受け、現場の安全確保のためやむなく計測を断念する頻度が増加。  
〇 同じ理由から、水位計が破損する事例が多発。  
〇 急激な増水により観測態勢が構築できずピーク流量が計測できない(間に合わない)事例が多発。
などの理由から、流量を確実に取得できない状況が年々深刻化しています。
 また浮子流観は原理上、測線間の計測時間差や流跡のばらつきなどが避けられません。

 そこで、電波式流速(水位)計や画像解析(STIV法)による非接触型の流速計測法の現場への導入が進みつつあります。

実装中:電波流速計による非接触化・無人 

 当チームでは、重要観測所向けに、複数の手法(電波・画像解析・H-ADCP)を組み合わせさらに信頼性・精度を高めた「流量観測ロボット」を開発中です。
※機器そのものの開発ではなく、良い機器を選定して組み合わせ、データ処理プログラムを作り、使いこなす手法を開発しています。

流量観測ロボットによる確実・高精度な観測

 また、非接触型流速計測法を用いて実務上問題ない精度で高水流量観測できるよう、モデル観測所で同時観測と検証を行っています。  
 砂州や橋脚による流れの偏り、平面渦や並列らせん流、河床波や風の影響を計測し、計算で再現し発生条件を確かめた上で、観測所毎に最適な計測手順を提案するとともに、検証方法のマニュアルを作成する予定です。

 なお、上記の目的を達成するために、以下のような他機関との連携をおこなっています。
① SIP第3期「スマート防災ネットワークの構築」※の協力機関として、河床高観測技術開発に助言しています
  ※戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期「スマート防災ネットワークの構築」
  サブ課題 B「リスク情報による防災行動の促進」B-1「流域スケールの風水害影響予測技術」
② メーカー等と連携した流量観測機器の開発(共同研究を準備中)

  2. 研究テーマ2
  流量観測所以外の流量や土砂の流れをどう把握するか
  ~流域・河道特性・土砂移動を考慮した洪水流把握技術に関する研究~

 流域治水施策の立案・検証において、堤防やダムだけでなく流域内の多くの貯留(遊水地や貯留浸透施設・田んぼダムや貯留機能保全区域での堤防越水など)を考慮するには、観測所以外の場所の流量(線)や支川・源流域の流量(面)も知る必要があります。
 そこで、密な水位計測など流域内の観測情報により洪水伝播の実態を捉え、さらに人工衛星データや数値モデルを併用して流域内の洪水流の全容を把握する技術を開発しています。

流域の洪水流の時空間分布把握の概念図

 具体的には、分布型降雨流出モデルと非定常洪水河道流下モデルを組み合わせたモデルを構築し、一般に行われる流出モデルや河道モデル設定の検証だけでなく、小流域の流出量や雨量流量実測データそのものについても水位データ等から相互に検証し、流量観測所以外の流量も高精度に把握することを目指しています。

降雨流出解析と非定常洪水河道流下モデルを組み合わせた洪水流把握技術の全体像

 また、把握した流量と人工衛星データを用いて、微細土砂フラックスをモニタリングする手法を開発しました。 今後複数河川で検証し、ダム貯水池管理における土砂生産源特定や、アユやシジミなど生物への影響把握に活用することを目指しています。

リモートセンシングを活用した微細土砂計測・推定技術の開発

3. マニュアル作成公開

 (ア)水文観測(平成 14 年度版)
 雨量・水位・流量観測とデータ整理の詳細な方法をとりまとめた「水文観測」
(昭和37 年初版発行、昭和49 年・60 年、平成8 年・14 年改訂)を以下で公開しています。

→H14年度版水文観測
 

 (イ)流量観測高度化マニュアル(高水流量観測編) ver.1.2
 ADCP などを用いた高水流量観測技術の高度化手法についてとりまとめ、以下で 公開しています。  

→流量観測の高度化マニュアル

 4. 流速計検定施設

  河川の流量は、洪水被害を防ぐための計画や、水道用水・工業用水・農業用水の開発 計画、洪水予報などの基本となる重要な情報であり、精度良く観測する必要があります。
 このため国土交通省では、河川の流量観測に用いる流速計について、1年に1度検定を実施して、その精度を確認する事を定めています。
 土木研究所では、内務省・建設省・国土交通省の機関として、昭和 8 年頃から現在に至るまで、流速計の検定を一貫して実施してきました。
 平成14 年からは、国が保有する流速計だけではなく、地方自治体や民間業者が保有する流速計についても検定を行っています。 

<流速計検定の受付はこちら>
https://www.pwri.go.jp/news/ryusoku/index.html

流速計検定台車

  5. 特許など 

(ア)非接触型流速計を用いた開水路流量観測方法及びその装置
(平成18 年 特許第 3762945 号)
  https://www.pwri.go.jp/jpn/results/tec-info/ryusoku_r/index.html

(イ)画像解析(PIV 法)による流速平面分布算出プログラム
 「画像解析技術を用いた河川流速場の計測方法」
 (令和4 年 (一財)ソフトウェア情報センター プログラム登録済 P 第11254 号-1)
  https://www.softic.or.jp/touroku/kouji/kouji20220906.pdf

 6. 技術指導

 (ア)PIV 解析 
 地方整備局と合同で、UAV による流速平面分布の観測方法(撮影およびPIV 解析) に関する技術指導を行っています。


ドローンによるPIV解析講習会

PIV解析プログラム講習会

  7. 国際貢献

 (ア)ISO(国際標準化機構)
ISO/TC113(Hydrometry 水理水文計測) 国内検討委員会SC1(Velocity Area Method 面積計測法)
主査を務めています。
これまでにISO24578(ADCP)のコンビーナーを務め基準を成立させました。
(2021年、詳しくは こちら)


ISOリンクへ

 (イ)WMO(世界気象機関)
 WMO 執行理事会:タスクチーム(EarthHydroNet)に参加しマニュアルの改訂に 参画しています。

  (ウ)研究交流
 国外の研究機関とも随時研究交流を行っています。
 2024年9月には、土研が研究協定を結んでいる韓国建設技術研究院(KICT)と電波流速計・ADCP を用いた流量計測と流速計検定に関する意見交換を実施しました。

8. 使っている技術

 (ア)観測機器や現場関係
 ① 流速計
 電波流速計、ADCP(RTK 搭載)により、主に平水時に自ら観測を行うほか、外部委託による観測も行います。

可搬式電波流速計の点検(R6年11月)


黒部川でのADCPによる澪筋河床高計測(R6年11月)

② 動画撮影機材(ドローン、カメラ)
 PIV 解析用動画撮影のために固定カメラ(屋外設置)、ドローンを用います。
自力で設置・撮影するほか、レンタル、外部委託も行います。


鉄塔に設置したwebカメラ

また、スマートフォンのカメラと角度計アプリ、三脚、距離計を用いた簡易なPIV解析も行います。

インターンシップでの学生指導(R5年8月)

(イ)プログラム言語、ソフトウェア
 PIV 解析や人工衛星データ解析など画像を扱う作業はライブラリが充実し ているPython を使います。
一方、流れ計算ではiRIC を用いるほか、過去の資産を活用できるFortran も使います。

 人工衛星データや地理情報はArcGIS やQGIS で処理を行います。

人工衛星による水位等計測データ(QGIS使用)

9. チームの日常

  上席研究員1 名・主任研究員2 名・非常勤職員1 名の4 名で活動しています。 現地観測や打合せの出張に多くでかけます(ドローン・ADCP・新しい計測機器等を用いた現地観測やPIV 解析の技術指導など)。
多い人では月に10 日を超えます。
 一方で、出張以外はフレックスタイムやテレワークなども使って比較的自分のペースで働いています。
 子育て中の職員(共働き)がチーム内で1 名(2024 年11 月現在)おり、 保育園送り迎え当番の日はテレワークで勤務するなどの工夫をしています。