研究テーマ

RESEARCH THEMES

治水と環境に配慮した河道計画・維持管理に関する研究

近年、気候変動が要因とされる降雨の激甚化等、治水の重要性が増加していますが、豊かな河川環境を維持していくこともまた重要です。 治水と環境は相反すると思われがちですが、河川環境研究の進展とともに、 適度な出水攪乱が河川環境(河川生態系)の多様性を維持することが分かってきました。 今後は治水を目的とする河道掘削を上手く活用し河川環境の保全・再生を行うことが可能になると考えられます。

また河川には希少種を含め、多種多様な生物群が生息しています。しかしながら、その詳細な生活史や多様性の高い場所については、未解明な点が多いのが現状です。 そこで、既存のデータ(河川水辺の国勢調査)や現地調査に基づき、河川における鳥類や両生類の保全区抽出を進めています。

河川生態系モデリング

河川生態系は、「河川における物理環境と生物の相互作用システム」と考えることが出来ます。 藻類、植物、両生類、魚類、哺乳類等の生物は、河川の流れと、その流れに対応して変化する河川地形、流下する有機物等の餌資源を巧みに利用しながら生活し、子孫を残していきます。

いいかえれば、物理環境と生物には深い関係性があります。河川生態系モデリングは、物理環境と生物の関係性を数式化し、関係性を理解する研究です。 河川生態系モデリングの精度が向上すると将来の河川生態系がどのように変化するかも 予測できるようになると考えています。 河川管理の仕方により、どのように河川生態系が変化するかを予測し、適切なコストで、より豊かな河川生態系が末永く続くような河川を計画できるよう、研究に取り組んでいます。

魚類等の生息・移動環境に関する研究

河川や湖沼に生息する魚類等は、それぞれの種が生活史の中で必要となる様々な水環境を移動しながら利用していますが、その移動する能力は種や成長段階によって様々です。 河川管理の現場において、河川に生息する多様な生物を保全していくためには、水系内における移動環境を客観的に評価するとともに、それぞれの生物の移動能力に応じた移動環境を保全していくことが大切です。 既往の研究成果では、遺伝情報を活用して河道内の在来魚種の移動環境を客観的に評価する方法を示してきました。

本研究では、この評価方法の汎用性を高めるため、環境DNAなどの新しい技術の活用や、体長数ミリに満たないアユ仔魚が降下する際の流下阻害の実態を捉えるため、ドップラー流速計の後方散乱強度を利用した調査方法を検討しています。 さらに、高速ビデオカメラ等を利用して観察した魚類の遊泳行動に基づき、魚道や堰堤等の流れ場をより移動しやすくするための簡易な改善方法を開発しています。

環境DNAを用いた生物調査

河川や湖沼には様々な動植物が棲んでいます。これらの生物の組織片(鱗や糞など)に由来する、水の中に浮遊しているDNAを【環境DNA】といいます。 近年、この環境DNAを採取・分析することで、その水域に存在する生物の情報を得るという研究が注目されています。 環境DNAの調査で必要なものは、その水域の“水”のみであり、従来の生物調査(たとえば漁具を用いた捕獲調査など)に比べて簡易に調査結果を得られるため、生物情報の高度化、調査期間の短縮や費用の低減を図ることが期待されています。

その一方で、環境DNAは生物の種類や大きさ、成長段階、季節など様々な要因を受けてその量が変化することや、河川を流下する過程で分解・沈降すること、湧水等の流入により希釈することなど、その動態や特徴について、解明していくこともまた多くあります。

そこで本研究では、魚類の環境DNAの動態を、基礎実験や実験河川・現地における検証などを通じて明らかにすることで、河川管理の現場において環境DNAを活用した調査計画の立案方法などを示していきます。

環境DNAを用いた調査の公開情報はこちら

川とまち・人をつなぐ水辺空間デザインに関する研究

川の水辺は、人々が川に接する拠点です。水辺空間の魅力は、開放的な見晴らし、緑や動植物、水音、水上を通り抜ける風など沢山あります。 近年では「かわまちづくり」など、まちと水辺が融合した良好な空間形成を目指し河川整備(多自然川づくり)と地域整備が一体的に推進されています。

しかしながら、水辺空間の計画・設計方法が明らかにされていないため、整備が行われても利活用が進まない水辺拠点も生じています。

そこで、良好な水辺空間整備事例の調査等を行い、水辺空間のデザイン手法を確立することを目指します。

河川・湖沼の管理上で発生する植物の利活用

河川や湖沼の管理の途上では、様々な植物由来の廃棄物が発生します。例えば堤防の除草時に発生する刈草や、川の流れの阻害要因となるため伐採した樹木、過剰に繁茂し、漁業等の障害となる水草などです。

このうち、千葉県の印旛沼で問題となっているオニビシ、ナガエツルノゲイトウという水草を、従来の焼却処分ではなく資源として活用し、堆肥化して地域で利用する手法を試験的に実施しました。

このような植物の利活用は、管理者の処分費負担の軽減だけではなく、河川や湖沼との関わりが希薄になっている地域住民の、水域環境への関心を高めたり、協働の機会を生み出すことへの寄与が期待されます。