研究の紹介

ダム湖の濁り改善を目指して


大雨のあとの濁ったダム湖


実験に使った「アロフェン」

実験用の筒

実験開始直後    6時間後    24時間後
濁りの取れる様子

大雨のあとのダム
 ダムの上流に大雨が降ると、大量の水がダム湖に流れ込みますが、ダムは流れ込んだ水を湖に貯めることにより、ダム下流の河川の氾濫を防ぎます。またさらに、ダムは大雨の時に貯めた水を、雨が止んでから少しずつ下流に放流し、その水を私たちは水道用水や農業用水として利用しています。
 一方、大雨のときにダム湖に貯まった水は、普段、川を流れている水に比べると濁っているため、ダムから放流する水の濁りが問題となることがあります。多くのダム湖では取水設備を工夫して、水面に近い濁りの少ない位置から放流していますが、ダム湖が全体的に濁ってしまった場合の対策として、ダム湖の水の濁りを改善できないか、土木研究所は研究を進めています。
凝集材を使って濁りを取り除く
 濁った水をきれいにするには、ろ過したり凝集材を使ったりする方法があります。凝集材は、水の濁りを取り除く材料で、濁った水と混ぜ合わせると、時間が経つにつれ水の濁りを吸い付け、底に沈む性質があります。その結果、上澄みは透きとおってきれいになります。一般に、凝集材には薬品が使われますが、私たちはダム湖の環境に悪影響が及ばないよう、自然由来の凝集材を使って、濁りを取り除く実験をしました。
 実験に使用した凝集材は「アロフェン」と呼ばれる材料です。アロフェンは火山灰が降り積もってできた土に多く含まれる、きわめて粒の細かい物質です。アロフェンを水に溶かし、酸やアルカリを加えると、pHの条件次第で散らばったりくっつき合ったりと、状態を変化させます。この性質を利用して、水の濁りのもとになる土の粒を吸い付け、濁りを取り除くことを目指しました。
実験は試行錯誤の連続
 濁りを取り除く実験には、直径約40センチ、深さ2.2メートルの透明な筒を使いました。筒の上部には、超音波分散機を、また、筒の下部には小型ポンプを設置しました。
 実験では、栃木県にあるダム湖から採集した濁り水を使いました。この水を実験用の筒に入れ、アロフェンを加えて小型ポンプで良くかき混ぜました。水に溶かしたアロフェンは薬品を加えると良く散らばりますが、ここでは薬品を加えずに超音波振動を加えて、アロフェンをちりばめました。このかき混ぜ作業とちりばめ作業をどの程度するかによって結果が大きく違うことから、実験は試行錯誤の連続です。
 ここでは、効果の現れた1例を紹介します。実験開始直後は、濁り水にアロフェンを加えたこともあって、大きく濁っています。その後、6時間後、24時間後には写真のとおり濁りはほとんどなくなり、筒の底に土とアロフェンが溜まっています。この実験では、アロフェンによって濁りを除去できることがわかりました。
実用化に向けて
 実験では濁りがほとんど取れましたが、実用化には多くの課題があります。ダム湖内では濁りのもとである土の粒が幅広く散らばっているため、効果を出すには、設備が大規模となってしまいます。また、ダム湖の濁りを全部取り除くには、時間も費用もかかります。今後は、室内の実験で効率よく濁りを取り除く方法を考え出し、現地でも実験を行うなどして、天然凝集材を使ったダム湖の濁りの改善に向け、研究を進めようと考えています。


(問い合わせ先:河川・ダム水理チーム)

乳牛ふん尿の肥料利用による土壌改良
 〜牧草収量維持と生産環境改善効果の解明〜


曝気処理施設

曝気スラリーの散布

牧草の収量調査

 乳牛のふん尿は窒素、リン酸、カリウム等の肥料成分を含み、液肥として利用することが可能です。実際に北海道では、水で希釈して曝気処理(液に空気を送り込んで好気的条件で発酵を行う処理)を行った乳牛ふん尿(以下、曝気スラリー)を肥料として牧草地に散布する、肥培潅漑事業が広く行われてきました。
 曝気スラリーの散布による肥料成分補給効果は、比較的短期間の調査で判明するため、多くの研究がなされ、その研究成果は牧草地における化学肥料散布量の節減に活かされてきました。しかし、曝気スラリーの長年の散布に伴う、牧草地土壌の変化や牧草収量におよぼす影響については調査事例が少なく、肥培潅漑に取り組む農家から、曝気スラリーの長期散布に伴う効果の検証が強く求められていました。
 寒地土木研究所では、曝気スラリーを散布していない牧草地と曝気スラリーを4〜18年散布している牧草地を複数調査し、曝気スラリーの散布が牧草地の土壌性状の変化と牧草収量におよぼす影響を検証しました。
 その結果、次のことが明らかとなりました。
@曝気スラリーを散布していない牧草地では、年数の経過による土壌の変化は見られませんでしたが、曝気スラリーを散布している牧草地では、散布年数の経過とともに土壌表層の水はけ、保水力が良くなる一方で、保肥力が高まり、肥培潅漑が牧草の生育に好適な土づくりに貢献することがわかりました。
A曝気スラリーを散布している牧草地では、草地更新(表層土壌性状が悪化して雑草が増え、牧草収量が低下した牧草地を新たに造成し直す作業)後2〜23年経過した牧草地においても収量に変化は見られず、高収量が維持されており、肥培潅漑が長期間にわたる牧草収量の維持に役立っていることが示唆されました。
 今後は肥培潅漑による生産環境改善効果の解説書の作成と公表を目指し、肥培潅漑事業の事業実施者および農家への情報提供を行う予定です。


(問い合わせ先:寒地土木研究所 資源保全チーム)