土研ニュース

人工衛星による雨量情報を利用した洪水予測に関する国際ワークショップの開催


ワークショップ開催状況

江戸川河川事務所見学状況


現地技術者によるIFASを利用した
洪水予測の実施

 これまでのWebマガジン(Vol.9「人工衛星による雨量情報を活用した洪水予測システムの開発と普及について」をご参照下さい)でもお伝えしてきましたように、水文チームでは、発展途上国のように水文観測が十分に行われていない地域において、効率的に洪水予測システムが配備できるように、人工衛星によって観測された雨量情報を用いて流出解析および洪水予測を行うシステム(Integrated Flood Analysis System, IFAS)の開発を行っています。これは、通常は地上に設置される雨量計に代わり、大気中の雨粒から放射されるマイクロ波を人工衛星に搭載したセンサーで観測し、受信したマイクロ波の強弱によって推定される雨量情報等を用いて洪水予測を行うシステムです。また、システムを開発するだけでなく、このシステムを使って実際に発展途上国の技術者が自ら洪水予測を行えるように、開発したIFASの無料配布や利用するためのトレーニング、ワークショップの開催を行っています。
 この一環として、8/3〜8/7にかけて、洪水対策において国際協力を推進するために設立された国際洪水ネットワーク(International Flood Network, IF-Net)とともに、人工衛星による雨量情報を利用した洪水予測に関する国際ワークショップを開催しました。このワークショップでは、インド、インドネシア、ネパール、バングラデシュ、ベトナム、ラオスの6ヶ国から6名の洪水予測あるいは防災担当の職員を招き、各国での洪水被害軽減に向け、各国の状況報告、(独)宇宙航空研究開発機構による人工衛星雨量観測プロジェクトの説明、日本における洪水予測の状況視察ということで江戸川河川事務所の見学等が行われるとともに、水文チームからはIFASの開発経緯、主な機能、操作方法の説明を行いました。参加者は、実際にIFASを各自のコンピューターにインストールし、自国の流域を対象に流出解析モデルの作成や人工衛星による雨量を用いた流出計算のトレーニングを行いました。
 水文チームでは、洪水被害の軽減に向けて、洪水予測システムの開発・改良だけでなく、今後もこのようなトレーニング、ワークショップを実施していく予定です。今回は、発展途上国の参加者を日本に招いてワークショップを行いましたが、今後は、より多くの現地技術者が参加できるように、水文チームの職員が発展途上国等に行き、現地で、ワークショップ等を開催していく予定です。またIFASを通じて洪水予測システムの整備が進むだけでなく、水文観測の必要性についても認識してもらい、現地技術者が自ら水文観測を行いながら必要な情報を集め、洪水予測を実施していけるように取り組んで行きます。


(問い合わせ先:ICHARM水文チーム)

「第2回 CAESAR講演会」開催される


写真-1 航空機整備における非破壊検査の適用
についてご講演いただいた全日本空輸(株)長坂氏


写真-2 講演会で上映された崩落直前の状況
(この橋は通行止め、立入禁止)

 2009年8月26日に、東京都の発明会館ホールにて「第2回CAESAR講演会」を開催しました。昨年4月に設置された土木研究所構造物メンテナンス研究センター(CAESAR)が主催し、昨年に引き続き開催したものです。
 本講演会では、航空機分野のメンテナンス、土木構造物の維持管理の現状と課題、CAESARにおける取り組みについて紹介しました(表-1)。
 特別講演として、全日本空輸(株)の長坂氏より航空機整備におけるメンテナンスについてご紹介いただきました(写真-1)。安全確保を最優先とした上で、機種毎に点検や非破壊検査の適用箇所や頻度などをマニュアルで規定し、効率的なメンテナンスを行っている現状について紹介いただきました。目視点検できる構造の採用を基本としながら、見えない箇所については寿命を踏まえて非破壊検査の頻度を決定するなどといったリスクマネジメントやコストを含めた効率化の考え方などは、土木構造物のメンテナンスに携わる関係者にも大いに参考になったと思われます。
 続いて、国土技術政策総合研究所の玉越道路構造物管理研究室長より我が国の道路橋の維持管理に関する取り組みについて、土木研究所トンネルチームの角湯上席研究員よりトンネルにおける維持管理の取り組みについて、それぞれ紹介いただきました。構造物の状態を近接目視で確認することやデータを蓄積していくことの重要性、適切な維持管理やその効率化に向けて非破壊検査技術の活用に期待することなどが述べられました。
 後半は構造物メンテナンス研究の現状と展望をCAESARの吉岡橋梁構造研究グループ長より説明した後、CAESARの取り組みについて3人より紹介がありました。特に琉球大学の下里氏からは、CAESARと共同で実施した鋼橋の変状モニタリングについて報告があり、崩落の瞬間を動画で上映した場面では聴講者も見入っていました(写真-2)。
 最後に大石CAESARセンター長から他分野も含めた技術者交流を目的としたフォーラムの設置構想が紹介されました。
 講演会には橋梁管理に携わる技術者のほか、検査関係の研究所や機器メーカーなどからの参加も得て、約280名の来場者を迎え、盛況の内に終了することができました。
 また、会場で記入いただいたアンケートでは、引き続きの講演会開催など情報発信を望む声や今後のCAESARの活動に強い期待を寄せるご意見を数多くいただきました。今後の活動に活かしていきたいと考えていますので、引き続き皆様の温かいご支援をいただければ幸いです。
 講演資料と講演概要はCAESARホームページでも順次公開していますのでご覧下さい。



(問い合わせ先:CAESAR)

   

第3回技術者交流フォーラムin函館を開催しました


基調講演を行う古屋特任准教授

会場の様子

プログラム

 寒地土木研究所は現場密着型の技術開発、技術普及および地域における技術の向上等のため、道央、道南、道北、道東に支所を設置しています。各支所では研究開発の現地調査・試験の拡充とともに、地域におけるニーズの把握や研究成果・技術の普及、技術指導を実施しています。
 「技術者交流フォーラム」はこれらの活動の一環として、地域において求められる技術開発に関する情報交換、産学官の技術者交流および連携等を図る目的で、開催しています。
 今回は「豊かな水産資源と美しい景観の醸成」をテーマに、平成21年7月30日(木)ロワジールホテル函館で開催し、産学官から約170名が参加しました。
 北海道大学大学院水産科学研究院古屋温美特任准教授は、「函館の水産・海洋産業と地域振興への期待」と題し基調講演を行いました。漁村の地域振興方策を主な研究テーマにしている古屋氏は「漁業を源産業に食品製造業や水産物卸売業等の前方連関産業や、造船修理、網製造、機械製造等の後方連関産業との連携が産業振興につながる」とした上で、水産・海洋産業振興の新たなシナリオを提唱しました。
 函館開発建設部中島靖次長は、道南地域の漁業生産の減少等の課題にふれ、限られた水産資源を持続的かつ有効に活用していくための提案として、日本各地での取り組み事例を紹介し、「消費者の需要に応じた生産・供給体制の構築」や「品質・衛生管理の重要性」を強調しました。
 (社)北海道観光振興機構地域連携グループ藤澤義博マネージャー(函館青年会議所理事長)は「北海道の観光ポテンシャルは日本一」であることを強調し、これからの道南観光の動向・あり方として、漁村に滞在して漁業体験やその地域の自然や文化に触れ、地元の人々との交流を楽しむ、「ブルー・ツーリズム」を紹介しました。
 寒地土木研究所水産土木チーム佐藤仁研究員は様々な磯焼け対策の研究を紹介し、その一つとして松前町江良漁港での人工動揺基質(Webマガジン第6号で紹介)を使った実証試験から、人工動揺基質が藻場回復に効果があることを説明しました。
 寒地土木研究所地域景観ユニット松田泰明主任研究員は、みなとまち函館の景観的特徴に触れ、再び訪れる人を増やすためには、観光資源としての景観だけでなく、函館市民の魅力的な生活景観創出こそが、本物の町の魅力となると訴えました。
 (財)函館地域産業振興財団研究開発部材料技術科下野功科長は道南での水産系副次産物・廃棄物を利用した材料開発として、様々な利用事例を紹介し、特にホタテ貝殻を熱処理すると発光することから、新たな蛍光体材料(貝殻蛍光体)の開発に着手していることを紹介し、水産系副次産物・廃棄物の有効利用にとどまらず、「我が国の材料開発のトレンド」としていきたいと力説しました。
 寒地土木研究所各支所では今後とも、各地域における産学官交流の場として技術者交流フォーラムを行っていきます。



(問い合わせ先:寒地土木研究所 道南支所)

   

「第2回 地すべり災害の低減技術に関する韓日共同シンポジウム及び現地見学会」


研究・失敗事例紹介

グループ討論

現地見学

 平成21年8月19〜20日の2日間にわたり、土木研究所と韓国落石及び地すべり防災研究団(RLPRC;官学や民間から構成される、道路の斜面災害の低減を目的とした合同研究機関)との共同でシンポジウム及び現地見学会を開催しました。このシンポジウム及び現地見学会は、日韓相互の地すべり研究・技術の向上、及び研究者の交流と情報交換を目的としており、今回の参加者は約60名(韓国側約20名)でした。
(1)シンポジウム
 シンポジウムは、8月19日に土木研究所ICHARM講堂及び講義室を会場とし、研究結果や失敗事例を互いに紹介しあった他、参加者が自由に議論するためにグループ討論を行いました。
 研究紹介では、地すべり調査のために開発した機器や切土斜面の危険度分析事例など両研究機関が実施している研究や機器開発についての紹介がなされました。また、失敗事例に学ぶことが重要であると考え、地すべりの調査や対策における原因や反省点などの紹介が双方よりなされました。
 グループ討論では、10名程度のグループに分かれ、地すべりや斜面崩壊発生時の対応方法を主題とした討論を行いました。ここでは、日韓間の地形、地質、設計基準等の違いを理解しあいながら討論が進められ、調査、計測、設計、施工などの面から様々な意見が出されました。
(2)現地見学会
 現地見学会は、山形県鶴岡市の七五三掛(しめかけ)地すべりで実施されました。七五三掛地区は、映画「おくりびと」のロケ地のひとつでありご存じの方も多いかと思いますが、この地区では、本年2月以降の地すべり滑動により幅約400m、長さ約700mの大きなブロックが大きなところで6m以上移動するという大規模な地すべりが発生ました。これにより家屋や農地への被害が生じ、5戸の住民が避難するという事態になりました。その後、国土交通省や山形県により鋭意地下水排除工等が施工されています。当日はこの七五三掛地区を視察地とし、韓国側研究者と視察を行いました。
 地すべりは机上ではなく現場から学ぶことが重要であるという思いを強くした2日間でした。



(問い合わせ先:地すべりチーム)

   

平成21年度土木研究所防災訓練


テレビ会議を用いた災害対策本部の
設置訓練

防災訓練のイメージ図

 9月1日(火)に防災訓練が実施されました。この防災訓練は、指定公共機関として災害対策基本法や土木研究所防災業務計画などに基づき、その実施が義務付けられているものです。
 訓練は、午前7:00に茨城県南部を震源とする強い地震が発生し、つくば市、土浦市等は震度6強の揺れを観測した想定のもと行われました。今回の訓練の主な内容は、@情報伝達訓練、A参集訓練、B災害対策本部の設置・運営訓練、C施設点検訓練の4項目です。
 情報伝達訓練は、全職員を対象に災害連絡網(電話連絡)に従い職員の参集を呼びかけるとともに、各課長、各上席研究員以上を対象に、電子メールを使った情報伝達を実施しました。
 参集訓練は、訓練参加者が土木研究所に参集した時刻、被災状況等を参集者名簿に記入することで職員やその家族の安否等について確認を行いました。
 対策本部設置運営訓練は、つくばと札幌の両庁舎において対策本部を設置し、テレビ会議を用いて実施しました。理事長を本部長として総合対策係、技術班、情報・施設係、庶務係、厚生係、調達係を設け、災害時における報告事項(災害状況、施設点検状況、備蓄物の状況等)について報告を行い、国土技術政策総合研究所との情報のやりとりを行いました。つくばと札幌でも情報共有・連携に関する訓練を実施しました。また、被災時のトイレの確保等、現状の課題とその対応についても話し合いました。
 施設点検訓練では、施設点検訓練計画に基づき、参集した職員による庁舎および実験棟の緊急点検訓練が行われました。
 9月1日は「防災の日」ということで、政府が行った総合防災訓練をはじめ、全国各地でも地方自治体を中心に様々な機関で防災訓練が行われ、防災に対する人々の意識高揚を図っています。土木研究所でも、これらの訓練を通じ、各自の役割を再認識し、災害時には適切な対応が図られるよう努力しております。
 なお、土木研究所防災業務計画は土木研究所のHPにおいて確認できます。(http://www.pwri.go.jp/jpn/jouhou/jouhou.html



(問い合わせ先:研究企画課)

    

平成21年度の独立行政法人評価委員会について


委員会の仕組み


委員名簿

高い評価を受けた
構造物メンテナンス研究センターの設立

 8月4日(火)に第15回国土交通省独立行政法人評価委員会 土木研究所分科会が開催されました。この委員会は、独立行政法人の業務運営の質の向上や効率化を目的として、学識者等、第三者の専門家が委員として、土木研究所の研究活動について評価を行うものです。
 独立行政法人は、独立行政法人通則法という法律により評価委員会を置くことが義務付けられています。土研分科会とは、土木研究所の研究活動を詳細に評価するために開催されるものです。
 この土研分科会は、土木研究所の重点研究、災害対応、国際協力、などの項目ごとに5段階で評価します。さらに、項目ごとの評価をもとにその年度の土木研究所の活動全体を総合評価します。
 平成21年度の評価委員会では平成20年度の活動や成果について評価が行われました。今年度の全体の評価は前年度に引き続き、「極めて順調」の評価を得ることができました。この理由としては、特に被災地における災害派遣活動、海外における国際協力活動が高い評価を得たこと、項目全体において昨年度とほぼ同水準の評価が得られたことがあげられます。
 その他、構造物の予防保全推進のため構造物メンテナンス研究センターを設立したことやTEC-FORCEに協力し岩手・宮城内陸地震における諸問題の早期解決に貢献したこと、第5回世界水フォーラムにおいてICHARMがトピックコーディネーター役を担当した点などが高く評価されました。
 また、参加委員から、土木研究所の今後の活動に対する意見として、
・土木研究所の特質を活かして、長期的視点をもった研究にも取り組んでほしい
・従来の土木研究の枠を超える研究課題の実施へ向けた努力が必要
・急速に変化する社会的ニーズへ対応するため、他機関との連携などについて検討を望む
などのコメントもいただきました。
 今回の委員会の情報は、国土交通省のHPに公開されています。


(問い合わせ先:研究企画課)

 

土木学会Study Tour Grantの学生が研修に訪れました


記念撮影
研修にきた学生(前列中央2名及び後列2名)

新開発の舗装を見学
舗装走行実験場

鋼床版の疲労状況を見る学生
輪荷重走行試験機

サマーシンポジウムで発表する学生
東京工業大学

 土木学会がStudy Tour Grant事業で招へいしたアジアからの学生4名が平成21年9月7日に土木研究所に研修に来ました。
 Study Tour Grantとは、日本の土木分野の実情と活動を理解してもらうために、土木学会と協力協定を締結している海外の学会に所属する土木技術者を招待し、日本への旅費、滞在費を助成し、土木関連の施設、研究所で研修するものです。このプログラム終了後、学生は相互の学会に報告書を提出することとなっており、多くの技術者にその経験やそれぞれの国の文化へのさらなる洞察について、その成果を広く享受することができるよう求められております。
 学生は、台湾、フィリピン、タイ、ベトナムから日本に招待され、それぞれが土木分野を専門的に研究しており、日本で約1週間かけて講義を受け、研究所、建設会社、建設現場を見学し、最後に東京工業大学で行われた土木学会サマーシンポジウムで研修の成果をそれぞれ発表しました。
 土木研究所では、全て英語で説明や講義を行い、水文チームの深見上席研究員が、発展途上国のように水文観測が十分に行われていない地域において、効率的に洪水予測システムが配備できるように、人工衛星によって観測された雨量情報を用いて流出解析および洪水予測を行うシステム(Integrated Flood Analysis System,IFAS)のプレゼンテーションを行いました。
 その後、4か所の実験施設を見学しました。舗装走行実験場で、ヒートアイランド対策の遮熱性舗装と保水性舗装について説明を受け、実際に手を触れて温度の違いを体験しました。ダム水理実験施設では、水理データを得るためのダム模型を使った実験について説明を受けました。3次元大型振動台では、振動台を使った研究成果として、鉄板を使った橋脚の耐震補強方法を紹介され、液状化現象対策も説明を受けました。最後に、輪荷重走行試験機では、床板の損傷発生メカニズムを検証する試験や実験施設の性能について説明を受けました。
 学生たちは、Study Tour Grantの最後のサマーシンポジウムでの発表のために、最新の情報や成果について熱心に質問していました。
 


(問い合わせ先:総務課)