研究の紹介

底質の酸素条件が藻類(植物プランクトン)増殖に与える影響に関する調査


写真1 霞ヶ浦で発生したアオコ

図1 霞ヶ浦の位置図

写真2 藻類培養実験の様子

図2  藻類増殖試験結果

 近年、下水道の整備や浚渫などの水質改善事業により湖沼への汚濁負荷量が減少してきていますが、水域によっては、いまだに藻類の異常増殖によってアオコ(写真1)が発生するという水質障害の事例も報告されております。水質チームでは、湖沼の底における酸素条件と栄養塩類(窒素やリン)溶出が、藻類の異常繁殖に関係していると考え、研究をしております。

 湖沼の底層では、生物が湖底に溜まった有機物を分解するために酸素を消費します。底層の酸素濃度が低くなると還元反応が進み、底泥内に含まれる栄養塩類が湖水中へ溶出してきます。この溶出した栄養塩類とアオコとの関係について検討するため、底泥を用いた栄養塩溶出実験、ならびに藻類を用いた増殖能力試験を実施しました。
 まず、霞ヶ浦の西浦、北浦(図1)の底泥を透明なアクリルパイプに採取して持ち帰り、それぞれ好気条件(溶存酸素が十分に存在する状態)と嫌気条件(溶存酸素がない状態)の2系列ずつ用意し、栄養塩類溶出実験を行いました。
 数日後、それぞれの水を採取して三角フラスコに移し、そこに少量の藻類を加えてその成長具合を確認しました(写真2)。その結果(図2)、嫌気条件より好気条件の方が藻類の増殖が抑制されていることが明らかになりました。また、地点別では、下水道の整備や浚渫などの水質改善事業を行っている西浦の方が、対策の遅れている北浦より藻類の増殖が抑制されていることが確認されました。このことから、水質改善事業を行い、また、底質の酸素条件を回復させることで、藻類の増殖が抑制されることが明らかになりました。

 今後は、底泥と湖水間における微量金属類と栄養塩類等の物質移動が藻類増殖に及ぼす影響について、より詳細な研究を進める必要があります。



(問い合わせ先:水質チーム)

冬の港の作業環境を改善
 〜港内防風雪施設の整備効果に関する研究〜


冬季の漁労作業の例

港内防風雪施設の例

防風雪施設整備後

冬季の荷役・漁労作業
 北海道のような積雪寒冷地における港湾・漁港では、氷点下の低温、強風、吹雪などそこで働く人にとっては大変厳しい作業環境におかれます。このような劣悪な環境のため、作業の効率低下、舗装の凍結や注意力の低下などによる安全性の問題、さらには高齢者の健康に与える影響も心配されます。

研究の目的
 このような冬の厳しい作業環境を改善するため、港の岸壁近くに風や雪を防ぐための防風雪施設の設置が進められていますが、これらの施設を効果的に整備するためには防風効果を定量的に評価することが必要になります。
 寒地土木研究所では、寒冷下で作業を行う人の体感温度などの心理反応を適切に表すことのできる温熱指標を提案すること、低温環境による作業効率への影響を定量的に評価することを目指して研究を進めています。

被験者実験
 この研究では、当研究所内の低温室において、20歳〜50歳代の幅広い年齢層の男女を被験者として、様々な気温、風速条件のもとに数種類の簡単な作業をしてもらい、作業中の温冷感や作業効率を計測しています。これまでの被験者実験の結果を基に、人が感じる温冷感を示す指標や低温環境における作業効率を推定するモデルを提案しています。
 今後は、実際の防風雪施設において提案された指標などの検証を行う予定です。



(問い合わせ先:寒地土木研究所 寒冷沿岸域チーム)

深層崩壊発生のおそれがある流域の抽出


図1 深層崩壊と表層崩壊

写真1 岩手宮城内陸地震で発生した深層崩壊に起因する天然ダム

図2 深層崩壊の発生のおそれのある流域の抽出手法の概念図

図3 評価結果の1例。赤で着色した場所がもっとも危険

 山の斜面は激しい雨が降ると崩れ落ち、土石流などを引き起こし甚大な被害をもたらします。山が崩れる現象は、土層のみが崩れ落ちる表層崩壊と土層及びその下の風化した岩盤が同時に崩れ落ちる深層崩壊に分類されます(図1)。このうち、深層崩壊は規模が大きいため、大規模な土石流や天然ダム等が生じ、被害が甚大になる場合があります(写真1)。さらに、気候変動等により降雨の規模が増大するに従い、深層崩壊の発生数が増大する可能性が懸念されています。このような深層崩壊に起因する土砂災害を防止・軽減するためには、崩壊発生危険箇所やその規模などを予め知っておくことが重要であると考えられます。しかし、深層崩壊の発生に関わる要因は複雑であり、崩壊発生危険箇所やその規模などの予測に必要なデータの蓄積が十分でないこともあって、深層崩壊発生のおそれのある流域を抽出する手法が確立されていませんでした。
 これまでも、深層崩壊の発生と地形や地質構造との間には関係があると考えられてきていましたが、従来の調査・研究は深層崩壊発生箇所周辺を詳細に調査し、深層崩壊の発生と関連性の高い地形や地質構造を検討したものが大半でした。その結果、深層崩壊の発生箇所周辺によく見られる地形や地質構造は明らかにされてきてはいたものの、深層崩壊の発生箇所周辺のみに多い(深層崩壊の発生箇所以外には少ない)地形や地質構造は明らかではありませんでした。そこで、今回新たに検討・解析を加え、深層崩壊は、以下のような場所で発生しやすいことがわかってきました。

@ 深層崩壊が過去に発生した場所の周辺
A 深層崩壊の前兆現象と考えられるような地形的な「ゆがみ・変状」が見られる場所。
B 斜面勾配が急でかつ集水面積が大きい斜面

この検討結果に基づき、図2に示す概念図のように、
@深層崩壊の発生実績のある流域
A深層崩壊の発生と関連性の高い地形的な「ゆがみ・変状」がある流域
B勾配および集水面積が大きい斜面が多い流域
を深層崩壊の発生のおそれのある流域として抽出し、@〜Bの条件を数多く満たす流域ほど深層崩壊の発生の危険度が高い流域として抽出するように手法を提案しました。また、地形的な「ゆがみ・変状」は経験をつんだ技術者であれば、空中写真から見つけ出すことができます。

 現在、この手法を用いて全国で調査が行われています。調査結果の1例を図3に示します。今後、この調査結果は深層崩壊による土砂災害の対策に活用していく予定です。また、さらに調査・研究を進めて、深層崩壊の発生のおそれのある流域の中から、深層崩壊が発生する可能性の高い「斜面」の絞り込める手法を構築していきたいと考えています。



(問い合わせ先:火山・土石流チーム)