研究成果の紹介

深層崩壊のメカニズム


図1 豪雨による深層崩壊の発生メカニズム

図2 豪雨・融雪による深層崩壊の発生件数の変遷
内田ら(2007)土木技術資料より作成

図3 降り始めから深層崩壊発生までの雨量と
深層崩壊発生時の雨の強さの関係
田村ら(2009)砂防学会研究発表会概要集より作成

 このWEBマガジンNo.14では、深層崩壊発生のおそれのある流域の抽出手法について紹介しました。今回は、少し基礎的ですが、深層崩壊のメカニズムについて、紹介したいと思います。

深層崩壊とは?
 前回も紹介しましたが、山が崩れる現象(斜面崩壊)は、土層のみが崩れ落ちる表層崩壊と土層及びその下の風化した岩盤が同時に崩れ落ちる深層崩壊に分類されます。一般に表層崩壊は深さが0.5から2m程度であるのに対し、深層崩壊は深さが数10mに達することもあり、規模が大きいのが特徴です。

雨が降るとなぜ深層崩壊がおきるのか?
 深層崩壊はしばしば豪雨にともないに発生します。割れ目が入った岩盤の斜面に豪雨が降ると、雨水は岩盤の割れ目を通り、地下深くまでしみこみます。その結果、岩盤内に地下水が集中し、岩盤の滑り落ちようとする力に対して、岩盤を支える力が弱くなり、深層崩壊が発生します。一般的には、岩盤の割れ目は、重力や地下水などの影響により岩盤が変形する(一般に「岩盤クリープ」と呼ばれている)などし、長い年月をかけてできると考えられます。

深層崩壊は増えているのか?
 深層崩壊は決して新しい現象ではありません。例えば、1889年に奈良県の十津川村では、崩壊土砂量が100万m3(東京ドーム概ね1個分)を超える巨大な深層崩壊が20以上発生したといわれています。
 「近年、深層崩壊が目立つようになった」ということが専門家の間でも話題になっています。確かにここ10数年はほぼ毎年のように、豪雨または融雪による深層崩壊が発生しています(図2)。また、深層崩壊が大きな雨のときに発生することから考えて、気候変動等により降雨の規模が増大するに従い、深層崩壊の発生数が増大する可能性が高くなるといえると思います。しかし、長期的に見て深層崩壊は増加傾向なのか? 降雨規模の増大に伴いどの程度深層崩壊が増加するのか?などについては、もう少し研究が必要です。

どのくらいの雨が降ると深層崩壊がおきるのか?
 どのくらいの雨が降ると深層崩壊がおきるのかについても現在研究を進めているところです。近年発生した深層崩壊の事例を中心に、降り始めから深層崩壊発生までの雨量と深層崩壊発生時の雨の強さの関係を示したものが図3です。まだまだ事例が少なく、事例が九州・四国に偏っているため、はっきりとしたことはいえませんが、近年発生した深層崩壊の多くは、発生時点の降り始めからの雨量が400mmを超えていたことが分かりました。さらに、深層崩壊発生時の雨の強さがゼロに近い事例も見られ、雨がほとんどやんでからおこった深層崩壊もあることが分かります。



問い合わせ先:火山・土石流チーム

コンクリート構造物の耐久性を高める
 〜混和材料の利用によるコンクリートの耐久性向上技術について〜


スケーリング劣化した橋梁

スケーリング抑制効果(左:早強セメント、
右:早強セメント+高炉スラグ微粉末)

塩分浸透抵抗性の評価

製品(皿形側溝)の試験施工状況

 積雪寒冷地のコンクリート構造物は、冬期にコンクリート中の水分が凍結と融解を繰り返すことにより、コンクリート表面がフレーク状に剥離(スケーリング)したり、ひび割れが発生する等、寒冷地特有の劣化(凍害劣化)が生じることがあります。さらに、海岸付近や路面凍結防止剤の散布される地域では、塩分の影響が加わり凍害劣化は促進されます。このため、温暖な地域に建設されたコンクリート構造物に比べてその寿命は短くなる傾向にあります。こうした厳しい環境下では、特にコンクリートの耐久性を向上させるための技術が求められています。
 コンクリートの耐久性を高めるには、コンクリートの構成材料(水、セメント、砂や砂利などの骨材)に良質なものを用い、これらの混合割合を適切に決め、良質な空気を適量確保することが重要となります。特に、セメントはコンクリートの品質を決める上で最も重要な材料であり、その種類を変えることで強度発現を早めたり、硬化する際に発生する熱(水和熱)を抑制したりすることが可能になります。さらに、セメントの一部を高炉スラグ(製鉄所で鉄鉱石をコークスで還元、溶融し、鉄を精錬する際に発生する鉱石中の不純物等(鉱滓))やフライアッシュ(火力発電所においてボイラ内で発生する石炭灰の一部)等に置き換えることにより、長期的な強度や耐久性が向上します。これらは混和材料と呼ばれ、セメントの成分に似た化学成分で、セメントに混ぜて用いることで水和物を生成し、コンクリート内部の組織を緻密にします。
 当チームでは、以上の背景から、セメントや混和材料の種類や割合などを種々組み合わせることにより、コンクリートの耐久性等を改善する方策について研究を行っています。これまでの検討から、混和材料を適切に組み合わせることにより、従来の一般的なコンクリートよりも、スケーリング劣化や、コンクリート中の鉄筋を腐食させる塩分の浸透速度(塩化物イオンの実効拡散係数)を抑制できることが明らかとなっています。現在は、このようなセメントを用いてコンクリート製品を製造し実環境下に試験施工を行うなど、実用化に向けた検討を鋭意進めています。



問い合わせ先:寒地土木研究所 耐寒材料チーム