研究の紹介

結氷する河川を管理するために
 〜アイスジャムの現象解明と流量推定手法の開発〜


アイスジャムの状況
※上流(写真左)からの流下した河氷が、
橋梁に衝突し滞留している

結氷河川における流量観測の状況
※マイナス10℃、河氷厚約30cmの上での
作業のため常に危険と隣り合わせ

河氷厚の連続測定方法(河川横断図)
※非接触のため安全に測定が可能

 冬の寒さが厳しい寒冷地の河川では、冬期間の気温の低下に伴って河川内に氷が形成されます。このような結氷する河川において、治水面および利水面においての問題があります。
 治水面ではアイスジャムの問題があります。春先になり気温が上昇すると、河氷は解氷して下流へと流れていきます。この河氷が蛇行部などで滞留し閉塞するとアイスジャムが発生し、水の流れる面積が小さくなるため急激に水位を上昇させます。北海道の北部に位置する天塩川(てしおがわ)では、昭和36年4月4日から5日にかけてアイスジャムによる水位上昇が起こり、農作物を含む肥料などの被害を受けた一例があります。解氷時の河氷については、人による観測自体が危険を伴うため、十分には解明されていません。
 利水面では河川の水の量(流量)に関する問題があります。河川結氷時は、渇水流量(年間を通じて355日はこれを下回らない流量)を記録することが多く、年間を通した水資源計画を策定する際には重要な時期となります。また、北海道の河川結氷期間は12月下旬から4月上旬の約100日間であり、今後、気候変動により冬期の流量が増加する場合においても、河川結氷期間の流量を精度よく推定することは重要となります。しかし、河氷の流水への影響が明確になっていないため、その推定手法は確立されていないという問題があります。
 寒地河川チームでは、アイスジャムの発端となる解氷現象を明らかにするために、天塩川において解氷時の河氷厚を積雪深計と音響測深機を用いて非接触で連続的に測定しました。この観測結果から、春先の気温の上昇により降雪が降雨となり、降雨によって河川の流量が増加し水の流れが速くなり、水の流れによって河氷の底面を融解させることにより、解氷に向かうことが明らかとなりました。流量の推定手法については、詳細な現地観測を実施して、この観測データの解析を行いました。水の流れによって時間の経過とともに河氷の形状は変化し、水の流れ易さが変化するという現象を考慮して、結氷時の流量の推定手法を開発しました。この手法の推定精度は従来の手法よりも高いことを明らかにしました。このように結氷する河川の問題を解決するためには、河氷に起因する特有の問題が多いため、河氷の形成過程や流下機構を解明するための現地観測、水路実験、数値計算を用いた研究を互いにフィードバックさせて複合的に進めることが重要であり、これらの問題解決を通して結氷する河川の適切な管理に資する研究を行っています。



問い合わせ先:寒地土木研究所 寒地河川チーム

よみがえれ、霞ヶ浦!
 〜沈水植物帯再生への取り組み〜


土木研究所実験池で生育している沈水植物

クロモ(拡大)

霞ヶ浦の離岸堤

離岸堤の航空写真
(出典:Google Earth)

 霞ヶ浦には、周辺に広がるハス田や観光帆引き船など、地域固有の美しい風景があります。しかし、人口の増加や流域の開発に伴い、わずか30年程の間に生物の生息環境は大きく変化しました。水質の汚濁が進むとともに、治水のための湖岸堤が造られました。これまで国や県、市町村による水質改善策が進められてきましたが、依然として水質は良いとは言えず、失われた植生帯の復元もまだ手探りの状態です。
 河川生態チームでは、霞ヶ浦の自然環境を復元するための研究をおこなってきており、近年は特に沈水植物(水草の一種)の再生手法の開発に取り組んでいます。これまでにおこなった研究から、沈水植物には波の力を弱め、湖底にたまった底泥の巻き上げを押さえるはたらきがあること、このはたらきによって、透明度の向上などの水質改善が期待できること、また、稚魚の隠れ場所になり、結果として水産資源の増加が期待できることなど、沈水植物群落の再生が湖沼環境の改善に大きく貢献することがわかっています。
 これらをふまえ22年度は、霞ヶ浦で沈水植物の再生実験を予定しています。沈水植物の生育には、波の力が弱く、根を張りやすい細かさの底質(湖底の土砂)があり、また光合成をおこなうのに十分な太陽の光が必要です。水深が浅い場所ほど波の影響が大きいため、この点では深い場所の方が適していますが、現在の霞ヶ浦の透明度では、あまり深すぎると光が届きません。これらを考慮して現地調査をおこない、霞ヶ浦の中で、波の強さ、底質の細かさ、光の届き具合のバランスが取れた箇所を、離岸堤(堤防に当たる波を緩和させる目的で設置される沖合の消波構造物)の設置状況もふまえつつ3地点選定しました。この実験区画に、霞ヶ浦に生育していた記録がある沈水植物を移植し、継続的にモニタリングをおこなうことで、再生場所の選定方法や種の選定方法、具体的な再生工法について検討することとしています。
 この実験によって、かつての美しい霞ヶ浦への再生の道が切り開かれることを期待しています。



問い合わせ先:河川生態チーム

無人化施工の効率化に向けて
 〜災害発生等における施工機械の遠隔操作技術に関する研究〜


無人化施工の適用例

新潟県中越地震での無人化施工
−遠隔操作機械とコントローラを持つオペレータ
(北陸地方整備局提供)

 近年、ゲリラ豪雨に伴う土砂災害などが頻繁に発生しており、それに伴う災害発生直後の被害を最小限に食い止めることを目的とした応急対策工事と災害がある程度沈静化した後に行う本格的な復旧工事において、無人化施工が活用されています。
 本格的な無人化施工は雲仙普賢岳の噴火に伴う復旧工事で実施され、それ以降、有珠山噴火や最近では宮城・岩手地震後の復旧工事、鹿児島県南大隅町の災害復旧工事などでも活用されています。砂防堰堤事業における維持管理においても砂防堰堤に一時的貯留されている土砂等の除去に無人化施工を適用し、恒久的な土砂堆積防止に努めている例もあります。
 このような現場で使用されている遠隔操作型建設機械は、搭乗型に比較して施工効率が低いことや、誰でも簡単に操作できるわけではない点などの課題があります。このため、無人化施工はニーズが高いにもかかわらず、災害の規模や現場状況(人への危険度合い)に応じて個別に判断されている状況で、技術的な改善により、その有効性をさらに高めることが求められています。
 そこで本研究では、雲仙普賢岳での機械施工に利用されている遠隔操作技術と国土交通省での総合プロジェクト(平成17〜19年度)「ロボット等によるIT施工システムの開発」及び土木研究所内戦略研究における研究成果(計測技術、表示技術、掘削制御技術)により研究開発された技術システムに基づき、操作性等に関する検証実験を進め、認知工学等を活用して効率的な遠隔操作に必要となる標準機能を提案し、遠隔操作による機械施工の汎用性・普及に向けた実用技術の提案を目指しています。



問い合わせ先:先端技術チーム