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市民の川への関心を喚起するための研究官民連携の川づくり・河川管理を目指して

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背景と目的

河川に関する事業を行う際には地域住民と行政が情報を共有し、合意形成を図ることが重要とされています。しかし、その方法論は確立されておらず、地域住民の理解が得られるようにするためには、具体的に何が有効かについては不明な点も多く課題となっています。
ここでは、人が川に興味を抱き、行動に移すための河川環境理解促進に効果的な環境教育プログラム及び効果的な展示ツールについて紹介し、河川環境理解の方法論を検討しました。さらには、このような情報共有が現場で多く実践されてきた1997年河川法改正後の20年について変遷を整理しました。

研究1

効果的な展示ツールを使って川への関心を高めることができます

河川には縦横方向の環境のつながりや、水面下における生物の行動など、フィールドで捉えにくい自然現象が数多くあります。これらの事象を広く一般の人が理解し、河川環境を考えるきっかけを作るには、情報をわかりやすく整理して伝えることが重要です。特に、研究機関の情報発信は専門的内容や最新の研究成果を対象者に分かりやすく伝える必要があります。ここでは伝えたい情報の性質(内容・更新頻度)に対してどのような展示メディアが適しているか自然共生研究センターの展示を事例とし、検討を行いました(表1)。更新頻度や内容によって展示メディアを使い分けることで、来訪者に施設を理解してもらいやすくなりました。今後は実河川等での応用も期待できます。

研究2

フィールド型体験教育により河川での現象の理解を深めることができます

これまで、河川をテーマとした体験型プログラムは、市民や子ども達を対象に実施した取り組みが数多く報告されていますが、河川の実務者や専門家を対象にした事例はほとんどありません。そこで、当センターでは、実践およびその評価を行いました。フィールド体験は、河川の形態的な物理環境項目の具体的な数値に置き換えたことで、受講者は河川生物の生息場を見出す新たな視点を持てたこと、フィールド体験と関連性の高い情報は効果的に取得できることが示唆されました。

写真1. 実務者向けフィールド体験

研究3

20年間の川での市民の活動の変遷を明らかにしました

河川法改正により「河川環境の保全と整備」が法目的に加えられ(河川法第1条)、河川環境施策の取り組みが本格化したのと同時に河川整備の際には関係住民の理解を得ることも明記され(第16条-2)、様々な合意形成の方法論が検討されてきました。
ここでは、1997年河川法改正から河川環境施策に対する理解がどの程度浸透したかを評価するために、市民団体の河川への関わり方(活動)の推移を整理しました(図1)。その結果、初期の頃は会議が活動の大半を占めていましたが、2001年以降、体験活動、交流などの活動が増加し、受動的活動から主体的活動へ変化してきていることが明らかになりました。一方で、2010年以降は活動の件数は減少しており、会員の高齢化などによる活動の鈍化がみられました。

図1. ある団体の活動件数の20年間の推移

COLUMN 川を活かしたまちづくり

川は物質の輸送や生物の営みを支えるだけでなく、人々が空間を利用し、心地よく過ごすことにも役割を果たしています。河川空間の利活用は、スポーツや川遊びなどの余暇活動だけでなく、バザー、水辺カフェ、市場などの経済活動も行われるようになってきました。このような取り組みは占用許可制度の活用やかわまちづくり支援制度、河川協力団体制度、ミズベリングなどが後押しし、全国各地に魅力と賑わいのある水辺が創出されてきています。