ARRCNEWS

展示見聞録 サイプレス・スワンプ

 天王寺動物園の両生爬虫類館アイファー。その導入部となるコーナーに、大きな倒木と、水面や地中から突き出した気根が印象的な「サイプレス・スワンプ(Cypress Swamp)」と呼ばれる温帯湿地の展示があります。この展示は、アメリカ南東部サウス・キャロライナ州のコンガリ・スワンプ・ナショナル・モニュメント(Congaree Swamp National Monument)のある場所をモデルとして、精緻な現地調査の記録を元に再現されたものです。

 監修者である大阪芸術大学環境デザイン学科の若生謙二助教授のお話しによると、展示計画にあたっては、実際に現地に足を運び、国立公園局のレンジャーの協力を得て場所の選定、調査を行ったそうです。現地では動植物の調査や景観の写真記録、ラクウショウやチュペロ等の樹木の樹皮や気根のウレタン樹脂による象り等が行われ、それらが、景観の演出や展示造形物の細かな加工に役立てられたとのことでした。

 この展示には、ハリケーンで倒れた大きな樹木の造形が中央に配され、その周囲には現地に見られる草本の近縁種が植え込まれています。そこに自然の光を採り込むことで、現地の景観が実に巧妙につくり出されています。

 水辺は生き物の生息場として重要な空間です。その形状は決して一様に整っているわけではなく、植物に覆われていたり、入りくんだり、樹木が倒れたりしています。そのような無造作な空間にこそ生き物の生活の場としての役割があり、それが実際の自然環境の雰囲気を演出するための重要なポイントとなっているのです。

 この展示の前に来た多くの観客は、まず、動きのあるフロリダアカハラガメに興味を惹きつけられます。しばらくすると、だんだんとその環境に溶け込み、まるで湿地に入り込んで生き物を探すかのように、息をひそめ、全体を眺めて変化を待っています。すると、倒木の下からゆっくりとミシシッピーワニが顔を出したり、水中をワニガメがガラス面まで近づいてきたり、様々なシーンに出会います。ポイントを決め、動かずじっと観察する観客の姿がよく見られました。

  実際の環境の雰囲気が醸し出された展示空間における生き物との遭遇体験は、観客に強く生き物と環境との関わりを印象づけるものと思われます。再びここを訪れた時、さらに実際に現地に足を運んだ時には、その記憶が鮮明に蘇るのではないでしょうか。

 天王寺動物園は、アイファーに続き、サバンナゾーンの一部も完成し、実際の環境を再現した中で動物を見せる生態的展示へと動物園全体が変わりつつあります。新しい展示を見学に、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。


吉冨友恭

(独)土木研究所 水循環研究グループ 河川生態チーム

サイプレス・スワンプの
展示は北米の温帯湿地を
モデルに景観の再現が図られている。
気根は膝のようにみえることから
サイプレスの膝(CypressKnee)
と呼ばれている。
フロリダアカハラガメ
ミシシッピーワニ
ガラス面に近づいて来た
ワニガメに驚く子ども。