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川と共に夜の川

 夜の川は、昼間と異なる様相を見ることができます。揖斐川支川へ夜間調査に同行した時、夜の川へ潜る機会がありました。この調査区間は昼間に幾度か潜ることがあったので、生物相を知っているつもりでしたが、水中ライトに照らされた夜の川は、いつもと少し違っていました。流れの緩くなっている河岸の岩には、カワムツやウグイ等の遊泳魚が体を寄せていて、どことなく眠っている様に見えます。ワンドの様な入り組みがある場所では、多くの稚仔魚が集まっていて、水中ライトを照らすと無数の星の様に輝きます。川底に目を向けると、昼間見ることの少ないアカザやウナギが礫の間を悠々と泳ぎ、流れが緩く水深の大きな淵では、夜行性のネコギギが短い尾びれを震わしながら活発に行動しています。

 近頃、動物園や水族館では、生物の夜の行動を観察するナイトサファリや夜の水族館が催されています。夜行性生物の行動を観察することで、人間のような昼行性とは異なる生活を営んでいる生物がいることを認識することができます。夜行性と昼行性の生物は、行動時間を分けることで同じ空間を共有しているのではないかと考えられています。

 魚類の生息場について時間スケールで考えると、季節によって生物相が異なる場合もあります。実験河川では、春になるとコイやナマズが産卵のために姿を現し、ワンドゾーンで多数の個体を確認することができます。また、増水時(夏)には流れが遅く保たれるくぼみで、稚仔魚の個体数が増える傾向が見られます。一般の河川では、アユは春から秋にかけて成長と共に生息場所を変えていますが、冬は当然のことながら川で見ることはありません。一時的水域では、冬に水が無くなるので生命の息吹を感じることができませんが、夏には多くの魚の姿を見ることができます。

 この様に、河川は時間スケールの違いによって、様々な生物相や生活史の利用形態が見られる場所でもあります。普段、魚影が見られない区間は、それほど貴重でないと評価され、河川改修によって失われやすい空間です。しかしながら、夜間であったり、ある特定の季節であったり、生物が生活史をまっとうする上で貴重な空間である可能性も否定できません。

 魚の時間で川を眺めてみると、少し違った景色が見えるかもしれません。


真田誠至

(独)土木研究所 自然共生研究センター