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ダム下流の河川生態系

 私達は、上流から下流へ流れる大量の水を差して河川と呼びます。しかし河川に流れているのは水だけではありません。河川は、土砂や生物、生物の餌となる有機物などの物質も、上流から下流へと連続的に運んでいます。しかし今日、この連続した物質の流れは、世界の70%以上の河川において、治水・利水上の必要性から建設された貯水ダムなどにより分断されているといわれています。海外の大陸性河川においては、貯水ダムが下流の河川生態系に与える影響についてよく研究されており、生物の移動阻害、流量や水温の変動パターン、土砂供給量の減少、生物にとってのエネルギー資源の変化などが複雑に組み合わさって、生息する生物に影響を与えることが報告されています。しかし、日本に目を転じてみると、ダムが下流の生態系に及ぼす影響についての研究は驚くほど少ないのです。日本のダムの特徴のひとつとして、大陸にあるダムと比べ、規模が小さく回転率が小さいことが上げられます。例えば米国のダムでは、平均数年分もの河川の水を貯めていますが、日本のダムでは3ヶ月から6ヶ月程度のものが多く、ダムが河川生態系に与える影響を考えるにあたり、これまでの海外の研究を「単純に」参考にすることはできないのです。そこで自然共生研究センターでは、日本のいくつかのダム河川で調査を行い、ダムによる河床環境改変のうち、河床に生息する生物に対し顕著に影響を与える要因は何か、またその効果的な改善策について研究しています。その結果、土砂供給量の減少、エネルギー資源の変化、の2つの要因は生物に対して顕著に影響を与える一方で、ダム下流で流入する支川によって顕著に改善されていることを明らかにしつつあります。今後、これら結果についてARRC NEWSでも報告・発信していきたいと考えています。

片野 泉

(独)土木研究所 自然共生研究センター

ダム下流の風景