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童謡にも歌われる「故郷の春の小川」を取り戻すために

 春になると郊外の田園地帯では、竹で編んだ箕、釣り竿、バケツなどを持った子供達が、大きな声ではしゃぎながら魚捕りをしていました。水田と一体になった農業用の用排水路には、多種多様な生物が生息し、魚を代表とする水棲生物のゆりかごとも言える場所、田園地帯を縫うように流れる小川は子供達が生き物たちと触れ合い仲間になれる大切な空間でした。「畦には田の神が、小川には荒神様が住んでいる。」と言い伝えられていました。子供達は、それらの神様の恵みに触れて、遊び、育てられていました。しかし、1960年代から、自然環境への配慮を欠いた農業基盤整備事業が始まり、用・排水路系は分離され、川の壁面と底はコンクリート化されました。今では小川の面影は何処にも見つける事は出来ません。このような水路では、亀やカエルはもとより、魚でさえ繁殖できません。直線化し、生物が棲めなくなった水路には、もはや魚を捕る子供達のはしゃぎ声を聞くこともできません。私たちは、岐阜県関市広見のU字溝と化した農業用排水路に、小川の生態系を少しでも取り戻そうと、石を入れた鉄線駕籠を設置し、曲がりくねった水流を造り、瀬と淀みを作ることを考えました。2005年に、私たちは自然共生研究センターを訪ね、科学的な裏づけと、そのモニタリングの協力をお願いしました。工事から5年、その排水路系は以前にも増して、絶滅危惧種に指定されている4種のイシガイ類を始めとする多様な生物が繁殖できるビオトープとなりました。私たちは今、この水路を参考に、童謡に唄われた「春の小川」を再現しようとしています。

三輪芳明

NPO法人 ふるさと自然再生研究会 理事長

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