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二枚貝の生息に適したワンド・たまりの冠水条件は河川によって異なりますか?

二枚貝の生息に適したワンド・たまりの冠水条件は河川によって異なりますか?

勾配が急な河川では、緩やかな河川に比べて、冠水頻度のやや低い場所が二枚貝の生息に適しています。

背景と目的

  河川の本川と堤防の間に挟まれ、増水時に冠水する領域を「河道内氾濫原」と呼んでいます。河道内氾濫原には、「ワンド」や「たまり」といった水域が形成され、多様な水生生物の生息場となっています(図1)。特に、現在では希少となった淡水性二枚貝は、それらの水域に生息する代表的な生物であり、環境の健全性を測る指標となることも知られています。これまでの研究から、木曽川では、増水時に冠水し易い水域ほど二枚貝の生息に適していることが分かりました。この結果は、河川水面からの高さが小さい水域ほど良好な生息場になることを示しています。しかし、木曽川はとても勾配の緩やかな河川(1/4,800)です。増水時の流れが激しくなる勾配の急な河川でも、同様なのでしょうか。ここでは、木曽川より急勾配である木津川(1/1,100)を取り上げ、二枚貝の生息条件を木曽川と比較しました。

方法

  木曽川で37箇所(河口から29.8~39.6㎞)、木津川で198箇所(淀川合流点から0~35.0㎞)のワンド・たまりにおいて、二枚貝の在・不在データを取得しました。また、各ワンド・たまりと本川水面との高さの比である「比高」を求め、河川間で比較できるよう基準化しました。それらのデータを用いて、二枚貝の生息可能性と比高の関係を解析し、河川間で比較しました。なお、比高は「冠水のしやすさ(冠水頻度)」を表す指標となります。比高が小さいほど増水時に冠水し易い(冠水頻度が高い)ことを表します(図2)。

結果と考察

  木曽川では、比高が小さい水域ほど二枚貝の生息可能性が高いという結果になりました(図3a)。これは、冠水頻度が高い水域ほど二枚貝の生息に適しているという既存結果と整合するものです。一方、急勾配の木津川では、中間的な比高を持つ水域で二枚貝の生息可能性が最も高くなりました(図3b)。木曽川のように比高が小さいほど生息可能性が高くならないのは、木津川の勾配が急で、比高の小さい水域は増水時の強い流れによって攪乱され、二枚貝が安定して生息できないためと考えられます。また、比高が大きい水域で生息可能性が低くなるのは、増水しても冠水しづらく孤立的であり、水質等の水域環境が慢性的に悪いという両河川共通の理由が考えられます。以上の結果から、急勾配河川では、増水時にも強い流れを受けづらい、比高がやや高く、結果として冠水頻度がやや低くなる場所が、二枚貝の生息に適していることが分かりました。

■図1 河道内氾濫原におけるワンド・たまりと二枚貝
■図2 比高と冠水頻度の関係
■図3 二枚貝の生息可能性と比高の関係