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ダム下流に土砂を含む放流が行われた場合、付着藻類はどのように変化するでしょうか?

ダム下流に土砂を含む放流が行われた場合、付着藻類はどのように変化するでしょうか?

土砂を含まない放流に比べ付着藻類の量と無機物割合が大きく減少しました。

背景と目的

  長野県飯田市の小渋ダム(天竜川水系)では、貯水池に流入する土砂の一部を下流に通過させるための排砂トンネルが建設され、平成28年度から運用が開始されています。これにより、貯水池への土砂の堆積を軽減し、貯水機能を維持するほか、ダム下流に供給された土砂により河床環境の改善が期待されています。その一つとして、供給土砂が衝突することで、付着藻類(図1)の剥離・更新を促す効果が挙げられます。しかし、排砂トンネルによる土砂供給の事例は少なく、そこから流下した土砂がこれらの効果をもたらすかは不明です。本研究では、排砂トンネルの運用年度における付着藻類の変化を1年にわたり調査し、過去の調査データと比較することで、排砂トンネルからの土砂供給による付着藻類への効果を検証しました。

方法

  ダム上流に1地点及び下流に2地点(ダムから1.0、4.0㎞)の河床において、石面上の付着藻類量を採取し(図2)、その量を測定しました。また高濃度の濁り成分が付着藻類に堆積することが過去のデータから示されていたため、付着藻類の無機物割合の変化についても測定しました。土砂の有無の違いによる影響を検証するため、土砂を含まない放流が行われた平成27年度のデータと、土砂を含む平成28年度のデータを比較しました。排砂トンネルからの放流が平成28年9月に行われたことから、その直前・直後、4カ月後における付着藻類量および無機物割合を計測し、同時期の平成27年度のデータと比較しました。

結果と考察

  平成28年度のダム下流における付着藻類量は、放流直前にダム上流より高い傾向でしたが、放流直後はダム上流と同程度まで減少しました(図3)。一方、排砂トンネル運用前の平成27年度のダム下流における付着藻類量は、放流前後で大きな変化はありませんでした。このため、排砂トンネルからの土砂を含む放流により、付着藻類の剥離が促進されたと考えられます。無機物割合については、平成28年度のダム下流において放流直後に減少傾向でしたが、平成27年度の放流前後では明確な変化が見られませんでした(図4)。ただし、平成28年度の2月には、無機物割合は放流直前と同程度に戻っており、効果の持続性については、今後も検討する必要があります。今後も観測を継続し、排砂トンネルの運用による効果に関して、知見を蓄積していく予定です。

図1 石上の付着藻類
図2 付着藻類の採取
図3 小渋ダム上下流における付着藻類量
図4 小渋ダム上下流における付着藻類の無機物割合
棒グラフは平成28年度の平均値、エラーバーは標準偏差を表す また、グラフの中の丸印は平成27年度の同じ時期の平均値を表す