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ダムからの土砂供給によって、魚類の餌内容は変化しますか?

ダムからの土砂供給によって、魚類の餌内容は変化しますか?

土砂が供給されたことで、ウグイの餌内容が付着藻類主体から水生昆虫主体へと変化しました。

背景と目的

  近年、ダムの下流域に土砂を供給することで、土砂輸送の連続性を回復させることで、河川環境の改善を図る取り組みが行われています。しかし、ダムのない川での土砂輸送と比べ、土砂の粒径や量、流れるタイミングなどが異なる場合があり、それに伴う水生生物の応答を把握しておく必要があります。土砂供給によって付着藻類や水生昆虫の種類や量が変化することがこれまで報告されていますが、その影響が魚類にまで波及する可能性が考えられます。そこで、ダムからの土砂供給が実施された河川とダムの無い河川とでウグイの消化管内容物の変化を比較しました。

方法

  小渋ダムで実施された土砂供給(9月)の前後(事前:6月、直前:9月、直後:10月)において、ダムのある小渋川(ダム下流3地点)と隣接するダムの無い遠山川(3地点)で魚類を採集しました(図1)。両河川で確認されたウグイを対象に消化管内容物を採取し、餌として利用されている生物(付着藻類や水生昆虫)について集計しました。さらに、餌生物の量として石面上の付着藻類量や水生昆虫の個体数を調査し、採餌のしやすさに影響すると考えられる石面上のシルト被度についても調査しました。

結果と考察

  土砂供給前の小渋川では、ウグイの主な餌は付着藻類でしたが、土砂供給後には水生昆虫へと変化しました(図2)。一方、ダムのない遠山川では、ウグイの主な餌は水生昆虫でしたので、土砂供給により餌内容が類似する傾向になりました。小渋川では土砂供給の直前から直後にかけて、付着藻類と水生昆虫が減少しましたが、事前も少ない状態でした(図3AB)。また、遠山川では小渋川に比べ水生昆虫が常に多いわけではないことも踏まえると、餌内容の変化は餌量に起因しているわけではないことも考えられました。一方、石面上のシルト被度が変化することで、餌内容に影響した可能性が考えられます。小渋川では、シルト被度が土砂供給の事前・直前に高かったですが、直後に遠山川と同程度まで低下しており、餌内容の変化と対応関係が見られました(図3C)。小渋川では、土砂供給により石面上を覆っていたシルトが除去されていました(図4)。これにより石面上の水生昆虫が探索しやすくなるなど、採餌環境が変化した可能性があります。今後も餌内容の変化をもたらすメカニズムについて検討を進めていきますが、本研究により土砂供給が採餌環境の変化を介して魚類にまで波及する可能性が示唆されました。

図1 調査地点図
図2 消化管内容物の比較
図3 餌生物量と採餌環境の変化
プロットとエラーバーは、それぞれ平均値と標準偏差を表す 点線は土砂供給のタイミングを表す
図4 小渋川での土砂供給前後の河床の変化
土砂供給前にはシルトなどが多く堆積していたが
直後には石面が露出している様子が読み取れる