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急勾配区間で河道の部分拡幅を行うときの留意点は何ですか?

急勾配区間で河道の部分拡幅を行うときの留意点は何ですか?

射流が発生する場合には拡幅部出口の形状に注意が必要です。

背景と目的

  平成29年九州北部豪雨災害など、中山間地~扇状地における急勾配の中小河川では大量の土砂・流木による災害が頻発しています(写真1)。河道の部分拡幅工法は土砂・流木を捕捉する治水対策の一つとして注目されています。また部分拡幅部では瀬淵などの多様な流れ場の形成も期待でき、環境や人の利用上においても意義があると考えられます。しかし、これまでの事例の中には、洪水で著しい侵食が発生した例もあり、部分拡幅部における流れや河床変動を理解し、環境上の効果も含めて合理的に整備できるようにする必要があります。本研究では、事例の分析を通じ、部分拡幅部における水理・河床変動特性と必要な工夫について検討しました。

方法

  岩手県・北上川流域の雫石川(上写真)では、平成25年の被災を受け、上流からの土砂供給増に対応するため、侵食された河岸部を部分拡幅部とし、遊砂地にすることを狙った整備を行いました。しかし続く平成29年の洪水では、部分拡幅部に顕著に土砂が堆積し、出口で河床・河岸侵食を生じる結果となりました。ここではその要因を探るため、図1・図2に示す直線流路に部分拡幅部を設けた単純なモデルを用いて河床変動モデルによる数値実験を行いました。川幅、流量、河床勾配等の計算条件は現地に基づいて与え、出口の形状を急縮と漸縮の2つのパターンで比較しました。解析には無料で利用できる2次元水理河床変動ソフトウェアiRIC(2.3)のNays2DHソルバを用いました。

結果と考察

  図2の河床変動量の解析結果をみると、現地と同様、部分拡幅部の特に水路部に土砂が堆積し、出口の形状による大きな差は見られません。一方、出口付近の侵食状況は大きく異なっており、出口が急縮の場合、縮流に伴って大きな河床侵食が生じていますが、漸縮の場合にはそれが低減しています。図3の水位、河床高、フルード数の縦断図を見ると、洪水初期(固定床、実線)では、部分拡幅部で水位が上昇しており土砂堆積が促進されています。このときフルード数は1以上から1以下へ、すなわち流れが射流から常流へ遷移していることから、水位上昇が跳水によるものであることが分かります。また、土砂堆積後(移動床、破線)には水面形が安定しています。これらより、射流が発生する急勾配区間では、跳水による土砂堆積や出口の河床侵食を踏まえて拡幅部の形状を設定することが重要であることが分かりました。       

写真1 中小河川における土砂災害
(H29 九州北部豪雨における福岡県・乙石川)
図1 計算条件
図2 地形変動量の解析結果
図3 水位・河床高・フルード数の縦断分布