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ヨシなどの草本植物はヤナギ類の生育に影響を及ぼすのでしょうか?

ヨシなどの草本植物はヤナギ類の生育に影響を及ぼすのでしょうか?

草本植物が繁茂することで、地表に届く光が遮られヤナギの定着が抑制されていました。

背景と目的

  河畔域において広く繁茂した樹木は河積阻害を招くことがあり、治水安全度の維持・向上には樹木の定着・生長を抑制するなどの対策が求められています。特に、ヤナギ類は河畔域における代表的な先駆樹種(明るい環境を好む)のため、治水目的で行われる樹木伐採や高水敷の掘削によって生じた裸地において、樹林域を形成する場合が散見されます。しかし、ヨシなどの高茎草本が広がっている場所では、ヤナギ類があまり見られず生育は抑制されている可能性が指摘されています。そこで、本研究ではヨシなどの草本植物がヤナギ類の定着・生育にどのような影響を及ぼすのか、光環境に注目した検証を行いました。

方法

  自然共生研究センターを流れる実験河川において、水面との比高が0.1mとなるように地盤高を設定し、そこに9㎡の実験区を12個整備しました(図1)。2018年3月に長さ約30㎝に揃えたヨシの地下茎を4種類の密度で各実験区へ移植し(0,3,6,9本/㎡、繰り返し3)、4月にコゴメヤナギの種子を約100個/㎡となるようにす全ての実験区へ散布しました。その後、月1回の頻度で実験区内のヨシ及びヤナギの本数を計数し、ヨシを含む草本植物の植被率と遮光率を計測しました。これらの結果を用い、落葉前の11月に観察されたヤナギの本数に、どのような要因が影響しているかについてベイジアンネットワークにより検証しました。

結果と考察

  4月に種子を散布したコゴメヤナギは、5月の時点ではまだ小さく見つけることができませんでしたが、7月の調査では実生として確認でき、9月までに本数が減少した後、11月以降は安定していました(図2)。ヨシの地下茎の密度が高い実験区ほど、ヨシの本数が多くなっていましたが、ヤナギの本数や植被率、遮光率に地下茎の密度に応じた明確な差異は見られませんでした。しかし、ベイジアンネットワークによる解析の結果、ヨシの本数が多く草本植物の植被率が高い実験区では遮光率が高く、11月に観察されたヤナギの本数が少なくなる傾向が示されました(図3)。ヤナギの定着が見られなかった実験区もあり、そのような実験区では7月の時点で実生がほとんど確認されませんでした。この時期までの被陰がヤナギの生育を抑制する重要な要因と考えられました。つまり、ヨシなどの草本植物が繁茂することで地表面が暗くなり、ヤナギの種子からの発芽や発芽直後の生長を抑制している可能性が示されました。       

図1 実験河川においてヨシの地下茎を移植した区間数字は、移植した地下茎の密度(本/㎡)を表す
図2 地下茎の密度に応じたヨシおよびヤナギの本数、遮光率、植被率の変化
図3 ベイジアンネットワークの結果に基づいた11月に観察されたヤナギの本数に対する各変数間の関係
プラスは正の影響を、マイナスは負の影響を表し、ヨシの本数よりもヨシ以外の草本による植被率の方が、遮光率への影響が大きかった