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高水敷と水面との比高の大きさに応じて植生に変化は生じるのでのでしょうか?

高水敷と水面との比高の大きさに応じて植生に変化は生じるのでのでしょうか?

比高によって、ヤナギ類の生育密度や在来・外来植物の種数に違いが生じます。

背景と目的

  河川沿いに広がる地上部(高水敷)では、多様な樹木や草本を見ることができます。この高水敷の高さ(水面との比高)は様々ですが、洪水時の流下能力を確保するために比高の大きな場所の切下げが実施されます。高水敷を切下げることで、土壌水分などの環境が変化し、植物の組成が大きく変化することが予想されます。また、切下げたことで湿性環境を好むヤナギ類が定着し、密に繁茂することで流下能力を低下させてしまう可能性もあります。そこで、本研究では実験的に高水敷の地盤高を変化させた整備を行い、整備から8年後の状況について調査を行いました。

方法

 自然共生研究センターを流れる実験河川において、2011年に地盤高と水面の比高を4段階(5㎝、15㎝、30㎝、60㎝)に変えた整備を行いました(図1)。そして、比高ごとに繰り返しとして4つの実験区(各70m²)を設定し、整備から8年後の2019年に各実験区におけるヤナギ類の密度を調査しました。また、流速がほとんどない流路においても、同様の調査を行いました(図1)。4つの実験区のうち2つの実験区において、生育する植物種を同定・計数し、在来種・外来種かの判別を行い、比高による植生の違いについても検討しました。

結果と考察

  高水敷の整備から8年が経過したことで、比高による植生の違いが明確に生じていました。地盤高が低く、水面との比高が小さい実験区ほどヤナギ類が多数確認されましたが(図2)、在来種も多く見られました(図3)。一方、地盤高が高く、水面との比高が大きい実験区では、ヤナギ類の定着がほとんど見られませんでしたが(図2)、外来種が多い傾向にありました(図3)。つまり、湿った土壌ほどヤナギ類は密に繁茂し、乾燥した土壌ほど在来種が少なく、外来種が多くなりやすいことが示されました。 また、流速がほとんどない流路ではヤナギ類の定着がないことから(図2)、水面下や頻繁に冠水するような場所では、ヤナギ類は生育できないものと考えられます。実験河川では流量が調整されており水位の変動がありませんが、 水位変動のある実際の河川では、5㎝程度の比高が小さな場所でも冠水によりヤナギ類の生育が困難になることが考えられます。そして、60㎝程度の比高が大きな場所でも湿った土壌となり、ヤナギ類が多数定着する可能性があります。切下げを実施する際、その地盤高と水面との比高に加えて、水位変動に留意し、地盤高が水面より高いが比高が小さい場合はヤナギ類に対する抑制を、比高が大きい場合は外来種への対策を実施することが重要であると示されました。       

■図1 各実験区の水面と地盤高の差(比高)の設定
■図2 各実験区におけるヤナギ類の密度
■図3 比高と植物種数との関係