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湾曲部や拡幅部では直線部に比べて環境や生物相にどのような違いがありますか?

湾曲部や拡幅部では直線部に比べて環境や生物相にどのような違いがありますか?

湾曲部では瀬淵など河川の基盤となる環境が、拡幅部では特異的な生物種が出現する環境が生じます。

背景と目的

   頻発する豪雨災害からの災害復旧事業が数多く実施されています。元の河川の通水能力を大幅に上回る流量を安全に流すためには、多くの場合、大規模な流路の拡幅や直線化などの河道の整成が必要であり、また、拡幅によって河川にスペースを与えることも良好な河川環境の創出に向けて重要です。これまで技術書などでは、「河道の平面形」は良好な自然環境を形成している場合には現況の線形を基本とする、一定の川幅にしない、 被災した部分はその幅をできるだけ維持することなどの概念的な指針は示されてきましたが(図1)、曲がりや拡幅といった河道の平面形の変化によって、その場の環境の特性がどのように変わり、どういった効果が期待できるのか、十分な理解には至っていません。そこで本研究では、中小河川での多数の現地調査結果から平面形の変化がもたらす環境上の効果について検討しました。

方法

   岐阜県および岩手県における12の中小河川の直線部と近傍の湾曲部・拡幅部(部分的に広い場所)について、水深・流速の物理環境と生息魚類の調査を行い、その調査結果を直線部との相対比較で分析しました。

結果と考察

  物理環境の視点では(図2)、湾曲部には水深が大きく流速の小さな淵ができやすく、拡幅部では土砂や植物の影響を受け、形成される環境は様々でした。瀬淵のような基盤的な環境ができやすい湾曲部に対し、形成される環境に多様性がある拡幅部という関係がありそうです。 魚類相を見ると(図3)、湾曲部では、その河川の魚種数が少ないほど湾曲部だけに見られるものの割合が高い、 という傾向が見られました。これは、魚類の基盤的な生息場である淵との関係性から、種数の乏しい川では淵ができやすい湾曲部への依存度が高まるのだと思われます。拡幅部は逆に、種数が豊富であるほど拡幅部だけに見られるものが増えます。拡幅部にできる環境は様々であることが特徴で、局所的にできるよどみや砂地などの特異的な環境が形成されやすいことで、それに対応して特異的な種が見られる傾向にあるようです。 近年、河川を3次元空間で捉える設計・施工技術が進展しています。 これらの技術を最大限に活かすためにも、平面形が環境にもたらす効果をより深く理解し、河川整備に応用できるようにすることが必要だと考えています。
図1 河道平面形に関する技術指針(多自然川づくりポイントブックⅢ等)

■図2 河川ごとの直線・湾曲・拡幅部における水深・流速分布の比較(一部)
■図3 対象河川の確認魚種数と種数の湾曲部・拡幅部に占める割合の関係