ARRCNEWS

ダム下流環境の評価に使われる石礫の露出高を予測するモデルは、様々な河床条件に適用可能ですか?

ダム下流環境の評価に使われる石礫の露出高を予測するモデルは、様々な河床条件に適用可能ですか?

湾曲部では瀬淵など河川の基盤となる環境が、拡幅部では特異的な生物種が出現する環境が生じます。

背景と目的

 河床の砂面から頭が出ている石礫の高さを露出高といいます(図1)。石礫の露出高は、アユが石礫上の藻類(付着藻類)を食べやすいかや、付着藻類の質を決定する要因として、ダムからの土砂供給に伴う河床の環境影響評価に利用され始めています。 露出高の計測には深い場所で潜水目視が必要というコスト面の問題がありましたが、近年この露出高の分布を河床材料の大きさの分布から簡易的に予測するモデルが開発されました(平成30年度活動レポートPP. 12‐13)。そこで本研究では、本予測モデルの実装化にむけて、その予測精度や適用範囲について定量的に検討しました。

方法

 矢作川水系(13地点、うち2地点では2回調査、図2)で収集された露出高の実測値を検証に用いました。露出高の予測値は予測モデルを用いて、現地の河床材料の中の巨石(257㎜以上)、石(65-256㎜)、礫(17-64㎜)の割合から算出しました。 露出高の実測値と予測値の分布を比較するために、分布の形状(分布形)の違いを解析するコルモゴロフ‒スミルノフ検定を用いました。そのp値をモデルの適合度とみなし、適合度が低下する条件も探索しました。

結果と考察

  検証に用いた15個のデータのうち、露出高の実測値と予測値の分布形との間に有意差が見られたのは2個で、残り13個(87%)では有意差は検出されませんでした。このことは、実測値と予測値の分布形の違いが、それほど大きくないことを示します。 有意差が見られなかった例では見た目にも両者の違いは大きくなく(図3上)、検証に用いたモデルは実際の評価に耐えうる精度を有していると考えられます。 予測値の算出に用いた巨石・石・礫の割合のうち、石の割合とモデルの適合度との間に負の相関が確認されました(図4)。 今回の検証では、巨石の割合が0に近い場所が多かったので、石のように、礫と比べて粗い粒径が多い時にはモデルの精度が低下すると考えられ、モデルを適用する際に注意が必要といえます。 本研究より、露出高の簡易予測モデルは実務に利用できる可能性が示されました。今後も実際の適用結果の集積を通じて改良を重ねていきたいと考えています。

図1 露出高の定義
図2 調査地点
図3 露出高の実測値と予測値の比較の例
  黒い棒グラフが実測値、赤い曲線が予測値の分布形を表す。分布形に違いが見られなかった例が上、 見られた例が下。図中の数字は検定結果のp値、粒径で区分された河床材料の各割合を表す。
図4 各地点の石の割合とモデルの適合度(p値)の関係