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より良い川づくりに向けた合意形成において議論の熟度を把握する方法はありますか?

より良い川づくりに向けた合意形成において議論の熟度を把握する方法はありますか?

合意形成に用いた時間と人数を掛け合わせた投資量が議論の成熟度の参考となります。

背景と目的

 河川整備に関する事業が行われる際、住民参加の機会が増えています。例えば、かわまちづくりや自然再生などの水辺空間整備事業においても、事業者(河川管理者)は委員会、ワークショップ、説明会、アンケート、パブリックコメントなど様々な形で市民との合意形成の機会を設けています。 合意形成を丁寧に進めることで、整備箇所での積極的な利活用や市民による自主的な管理など、副次的効果が多数報告されています。しかし、合意形成イベントの実施方法や進め方などのプロセスは、事業者の熱意など偶発的な要因に委ねられることが多いのが現状です。そこで、丁寧に合意形成が進められた水辺空間整備事業を事例に、 合意形成のイベントで費やされた労力を議論の熟度として求め、合意形成を進めていく中での変遷についてまとめました。

方法

対象としたのは、土木学会デザイン賞において最優秀賞を受賞した福岡県遠賀川水系の「直方の水辺」です(図1)。2004~2007年度に実施された改修事業に関わる合意形成イベント(遠賀川を利活用してまちを元気にする協議会)について分析を行いました。 4年間で計20回の合意形成イベントが行われており、実施記録に関する資料から得た情報(開催回数、所要時間、参加人数)をもとに、合意形成に要した投資量(所要時間×人数)を求めました。合意形成のプロセスについては、構想・計画期(2004年度)、設計・施工期(2005年度)、施工・利活用計画期(2006年度)、利活用実装期(2007年度)と区分して考察しました。

結果と考察

  2004年度から2007年度にかけての累積投資量は1000人・時間と算出され、構想・計画期に400、計画・施工期に200、施工・利活用計画期に300、最後の利活用実装期に100が積み重ねられていました(図2)。つまり、構想・計画期と施工・利活用計画期が大半を占めていたということです。ほとんどのイベントの所要時間は2時間と一定でしたので、 開催回数や参加人数に起因して投資量が変化したものと考えられます。実際、構想・計画期でのイベント参加人数(平均34人)は他期間(平均24.5人)よりも多く、施工・利活用計画期でのイベント回数は7回と多くなっていました。今後、様々な事例を対象に投資量を算出・集約していくことで、合意形成を進める上での人的・時間的な量とタイミングをリスト化できます。 これにより、新たな事業の際に合意形成の熟談の度合いを俯瞰しやすくなり、事業者の合意形成支援につながると期待できます。

図1 分析対象の水辺空間整備の事例「直方の水辺」(遠賀川水系)

図2 合意形成投資量の変遷