ARRCNEWS

高水敷を掘削した後、どのくらいの速さで樹林は拡がりますか?

高水敷を掘削した後、どのくらいの速さで樹林は拡がりますか?

約10年で、掘削した範囲の50%が樹林に覆われます。

背景と目的

 洪水を安全に流すために、河川沿いの地上部(高水敷)を掘削し、水が流れる範囲を拡げる取り組みが全国で行われています(図1)。しかし、掘削した後の裸地にヤナギ類などの樹木がすぐに繁茂してしまい、再び水が流れにくくなってしまうケースがよくみられます(図2)。こうした場合には、樹木の伐採や掘削を短期間のうちに再度実施する必要が生じてしまいます。このような維持管理工事には膨大なコストがかかるため、掘削後にできるだけ樹木を繁茂させないことが重要です。しかし、そもそもどのくらいの期間で樹木の繁茂が生じてしまうのかは十分に理解されていません。そこで本研究では、高水敷を掘削した後にできる裸地を対象に、掘削からの経過年数と樹木の繁茂状況の関係性を調査し、樹林の拡大速度を推定しました。

方法

 高水敷を掘削した後の裸地を対象として、衛星写真と航空写真をもとに樹林が拡がる範囲を抽出しました。衛星写真と航空写真は2006年から2019年に撮影されたものを使用しました。次に、地理情報システム(GIS)を用いて、抽出した樹林の面積を求め、各裸地の面積に対する樹林面積の割合を算出しました。さらに、掘削からの経過年数と樹林面積の関係を明らかにするために、統計モデル(一般化線形混合モデル)を用いて解析を行いました。

結果と考察

  掘削からの年数が経過することで、樹林の拡大速度が変化することが明らかとなり、掘削から10年ほどで掘削した範囲の約50%が樹林で覆われることが示されました(図3)。樹林の面積が拡がる速度については、掘削から5年以内はあまり増加せず、5年が経過した頃から急激に増加する傾向となりました。 本研究の成果は、掘削後の高水敷に繁茂するであろう樹林を将来的にどのように管理していくかを検討する材料になります。掘削からの経過年数に応じてどのくらい樹林が拡がるかを予測することが可能となり、維持管理工事の実施年を検討する際に有効です。この時、伐採や掘削にかかるコストを考慮することで、どの程度の繁茂状況で維持管理工事を実施するとコスト(例えば、10年間での積算コスト)を最小にできるのかを試算することも可能となります。

 高水敷を掘削したときの模式図
掘削の範囲を赤い点線で示した)
 掘削から1年後と約10年後の高水敷の様子
掘削が行われた範囲を赤い点線で示した)
 掘削からの経過年数と樹林面積の割高の関係