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外来魚が侵入しやすい場所を、あらかじめ特定することはできますか?

外来魚が侵入しやすい場所を、あらかじめ特定することはできますか?

分布モデルから求められる生息確率にて、高い値を示した場所が侵入しやすい場所といえます。

背景と目的

 近年、多くの外来種が日本に定着しています。北米原産のコクチバスも、日本の河川で生息できることが確認されており、今後、分布を拡大することが予想されます。そして、侵入した河川において、水産有用種や在来種の減少をもたらすなどの影響が懸念されます。コクチバスによる被害を抑えるには侵入を防ぐことを基本とし、早期の発見と対策が重要です。早期発見のためにはコクチバスが侵入しやすい場所をあらかじめ予測し、監視体制を構築しておくことが必要です。そこで本研究では分布モデルと呼ばれる生物の生息確率を推定する手法を用い、コクチバスの侵入しやすい場所を求めました。

方法

 生息確率の推定にはフリーソフトウェアであるMaxentを用いました。Maxentは生物が確認された位置情報(在データ)と、その場所の環境条件から生息確率を求めるモデルを構築することができ、モデルに推定したい場所の環境条件を入力することで生息確率を算出できるのが特徴です。本研究ではコクチバスが広く分布する関東地方を対象に、河川を含む1 kmメッシュごとに生息確率を求めました。コクチバスの在データには河川水辺の国勢調査の結果を使用し、各メッシュでの環境条件として集水域面積、都市部までの距離、年平均気温、平均傾斜角、平均標高、年平均降水量を用いました。

結果と考察

  構築された分布モデルでは、コクチバスの生息確率に対して集水域面積の寄与率が最も高く、6,000~7,000㎡となるメッシュで生息確率がピークとなりました(図2)。つまり、ある程度規模の大きな河川でコクチバスの定着リスクが高いことを示しています。集水域面積がさらに大きくなった場合には生息確率が減少しており、河口近くでの高塩分や産卵には不適な細粒土砂の堆積が原因と考えられます。集水域面積の小さな最上流部でも生息確率は低く、低水温が産卵や稚魚の成育に向かないためと考えられます。寄与率があまり高くありませんが、都市部までの距離が近いほど生息確率は高くなっていました。既存の研究でも示されていますが、都市部ほど人が多いことに加え、アクセスしやすい整備された河川が多く、違法な放流が行われやすいことが推察されます。関東地方での生息確率を地図化したところ(図3)、コクチバスが確認されていない相模川や鶴見川でも高い値を示す場所が見られ、コクチバスが侵入しやすい場所と言えます。このように分布モデルを活用し生息確率の高い地点を求めることで、早期発見を可能とする監視体制の構築につなげていくことができます。

■図1 コクチバス(Micropterus dolomieu dolomieu
■図2 コクチバスの生息環境に関する応答曲線と変数の寄与率
(赤:大、黄色:中、青:小)
■図3 関東地方におけるコクチバスの生息確率