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河川横断工作物において魚類などを低コストで遡上させる方法はありますか?

河川横断工作物において魚類などを低コストで遡上させる方法はありますか?

河川横断工作物自体を掘削する “切欠き魚道”があります。

背景と目的

 河川に設置された横断工作物において魚類などが遡上出来るようにするには、魚道の設置や工作物の撤去などを行う必要があります。しかし、水面の落差が大きくなるほど金銭的なコストは膨大になります。より低コスト・メンテナンスフリーで魚類などの水生生物の遡上を実現するには、横断工作物本体の安全性を十分確保した上で、工作物自体への簡易な掘削を行う方法も有効だと考えられます。ここでは、魚類などの遡上環境を安価に創出可能な切欠き魚道の開発を目的に、既設堰堤に切欠き(スリット)を入れる方法の案出に加え、広瀬川(仙台市)の支川である竜の口(たつのくち)渓谷の堰堤(図1)で実施した事例を紹介します。

方法

 河川横断工作物に切欠きを作り、魚類などの遡上をうながす工夫を“切欠き魚道”と呼びます。設計にあたっての注意点は、切欠きを行う際にコンクリートを大きく掘削しすぎると、工作物本体が損壊してしまうことがあります。そのため、工作物のコンクリート厚に留意し本体が損壊しない切欠き形状にする必要があります。竜の口の堰堤は2段構造で、水面落差が合計約2.4 mありました(図1)。そこで、水深0.1~0.2 mの水路、および、床止め部の中央部を削り、それぞれを連結させ、切欠き魚道としました(図2,3)。コンクリートを薄く削るだけなので、施工費用は魚道設置に比べ大幅に抑えることが出来ます。切欠き魚道により水面落差1.2 mは解消できましたが、残り1.2 mの解消も必要でした。そこで、堰堤下流側10m地点にふとんかごを設置して、切欠き魚道の下流に土砂を堆積させることで1.0 mの水面落差の解消を行いました。その結果、水面落差は0.2 mとなり、魚類などは遡上可能となりました。また、魚道内には、遊泳力の弱い魚類などがより効率的に遡上できる工夫として、a)水路側面部のオーバーハング、b)水路床面の粗削り仕上げ、c)水路内への粗石設置、d)水脈落下部分の曲面仕上げを施工しました(図4)。

結果と考察

 現在、竜の口渓谷では今まで確認されていなかったオオヨシノボリや大型のアブラハヤが上流部で確認されています。また、今後は魚類のみならずモクズカニなどの様々な水生生物が遡上してくることも期待されています。河川横断工作物は全国の河川に無数にあり、その多くは水生生物の遡上を妨げています。しかしながら、下流側の水位がある程度確保できる河川横断工作物であれば、切欠き魚道を設置するだけで、水生生物の遡上を実現させることが出来ます。安価に施工できる切欠き魚道を設置することにより、生物多様性の回復へ貢献することが可能となります。       

■図1 竜の口渓谷堰堤縦断図
(下流の地盤高は工事直前の状況)
■図2 切欠き魚道の平面・断面図
■図3 施行前(上)、完成した切欠き魚道(下)
■図4 水生生物の遡上を補助する様々な工夫