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いま求められる切欠き魚道の開発~「低コスト型」魚道~

求められる魚道とは?

 近年、生物多様性保全のため河川の縦断的な連結性に加えて、本川と支川・田畑・氾濫原などとの横断的な連結性も求められ魚道の必要性は増しています。しかしながら、河川管理者の財政事情などにより、多くの河川横断工作物(以下、工作物)は対策が行われず、放置されているのが現状です。 工作物において魚類等の水生生物(以下、魚類等)を遡上させるには、魚道設置や工作物の撤去などが検討されますが、いずれも工作物の高さが大きくなるほど対策コストは膨大になります。 より高効率、低コスト、低メンテナンスで魚類等の遡上を実現するためには、工作物の安全性を十分確保した上で、工作物自体への簡易な掘削を行う方策も有効な一案だと考えられます。 そこで本研究は、既設工作物に切欠き(スリット)を入れる工事方法を案出することで低コスト型切欠き魚道を開発しました(写真-1)。

大幅なコストダウンによる設置

 工作物自体の安全性を十分に確保し、工作物の管理者の許可を得ることで「切欠き魚道」の設置は可能となります。切欠き魚道は、既存の工作物を掘削することが主な工程であるため、通常の魚道設置や工作物の撤去と比較して、大幅にコストを縮減して設置することができます。 例えば、国内外の河川内に膨大に存在する高さが概ね3mの工作物では、通常設置される魚道では設置工費が2~3千万円程度・工期が半年程度かかるところを、設置工費が数十万円・工期が1~3日間という低コスト・工期短縮で切欠き魚道を設置でき、魚類等の遡上を可能にします。 国内外の河川事業で活用できるほか、田畑に魚を呼び戻すエコ農業と親和性が高いのも特徴です。水利権が設定されている工作物等は別途検討の必要がありますが、写真-2のように堰堤の下流側に水位をある程度確保できる箇所では、切欠き魚道により魚類等の遡上を簡易的に実現出来ます。

すべての水生生物を遡上可能に

 切欠き魚道では、小型魚や甲殻類などの幅広い水生生物の遡上を可能にするため、細部にわたる工夫として:①魚道内へ陰影部の創出を目的に水路の壁を奥に削りオーバーハングを設置、②魚道内の様々な流速の創出を目的に粗石の設置、③魚道内の流速低下などを目的に底面を粗く削り粗度の向上、 ④水が滑らかに落下することで水脈の下の空気が入らず、魚類等が魚道内へ遡上しやすくなることを目的に落ち口の曲面化、を施工しました(写真-3)。この4点の工夫は、その遡上効果を明確にした上で既存魚道内に複数同時に配置した事例はありませんでした。

生物多様性保全の推進

 財政難の自治体や市民団体レベルでも切欠き魚道は設置でき、大幅なコストダウンで生物多様性の保全に寄与できます。市民と企業のCSR活動等との協働による自然保全活動や啓発活動に発展することも見込むことができ、切欠き魚道の技術はその活動に大きく貢献するものです。 切欠き魚道の第一号は、仙台市の小堰堤に設置され魚類等が遡上を始めています。 現在は、設置地点周辺において、官民学によるワークショップや野外調査も積極的に実施されています。

※詳しくは解説動画や論文をご覧ください:
  解説動画はこちらhttps://www.youtube.com/watch?v=ytLRnXBoy0I&t=238s
  論文はこちら https://www.pwri.go.jp/team/kyousei/jpn/events/image/200707/hayashida.pdf
林田寿文

国立研究開発法人 土木研究所 自然共生研究センター 主任研究員

写真-1 施工前の河川横断工作物(左)、切欠き魚道設置後の河川横断工作物(右)
2.4mの水面落差が0.2mに減少
写真-2 切欠き魚道の適応 
写真-3 細部にわたる効率的な遡上の工夫